シュランの修羅場

悠真

 おいら、怪人シュランバ。


 といっても、たぶんただのアル中なんだけどね。

 ふだんは大人しく黙ってじっとしてんだけど、酒類を飲むと急変して、正反対の乱暴キャラに振り切ってしまうらしいね。

 ただ申し訳ないことに、そういった記憶もなくて。それでさ、これぽっちも自覚ないんだよね。

 酒癖の悪さで、親には縁を切られ、妻や子ども、ついでに猫にも逃げられてしまう始末。 

 まさに天涯孤独さ。


 そんな思いをしてもなぜ飲むのを止めないのか、時々訊かれるけど、特に思い当たる理由なんてないね。

 キミらだって腹が減ったら飯を食うだろ?

 眠くなったら寝るだろ?

 それと同じ。

 何かが足りなくなってきてるから飲むんだよ。

 その何かがよく分からないんだけどさ。

 快楽とかストレス発散とかのためではないんだよ。

 酒でしか埋められないそれって何だろうね。

 とにかく渇くんだよ。


 まあ、いいや、ごちゃごちゃ言ってないで、とりあえずビールでも飲むか。

 乾杯!


 ぐびぐびぐびぐび…………ぷはあああーっ。

 やっぱ、これだな。

 これしかないわ!



 

 昼間、おいらが公園の木陰にある鉄棒に座っていたら、脇の道にバイクが停まった。

 飛び降りた白いジャージ姿のヤンキー風の男が、まっすぐこっちへ歩いてやって来て、声を掛けてきた。


「おい、降りろや」

「あのう、どなたですか?」

「はあ? なんか文句あるのか?」

 男が肩をいからせて、ぴったり付くほど近づいてきたので、おいらは慌てた。


「あ、すみません、降ります、降ります!」

 急いで降りるも、鋭い眼光がおいらに突き刺さる。


「貴様がシュランバか?」

「い、いかにも!」

 でも、なんでおいらの名前を知ってるんだろ?

 その後、彼は正義の味方を名乗ったが、どう見ても柄の悪い半グレにしか見えない。

 おいらは、背中に嫌な汗をかいた。


 (誰か110番してくれないかな)

 そう思って周りを見渡したけど、公園にいる数組の親子やカップルは遠巻きに見ているだけで電話を掛ける素振りなどなかった。

 ふと、いつもの渇きが募る。


 男は、気取った仕草でおいらの象のような長い鼻の先を指さした。


「貴様、酒乱らしいな?」

「だ、誰がそんなこと?」


 誰がそんな超プライベートなことを、この得体の知れない半グレに教えたのだろう?

 おいらは、驚きが先立ってそう言ったのだが、彼にはそう聞こえなかったようだった。


「すっとぼけるな! 覚えていないというなら、思い出させてやろうか?」

 そういうと彼は、薄ら笑いを浮かべながら両手をボキボキと鳴らした。

 おいらは思わず亀のように首をすくめた。


「あ、いや、すみません。おっしゃる通りで、まさしく、その酒乱です。ほんとすみません」

 おいらは思わず後ずさりしながら弁明した。彼は、それに合わせて拳を固めて迫ってくる。

 何を言ってもパンチをいくつか浴びせてきそうである。

 おいらは頭をガードしながら、間合いを取るべく、さらに後ろへ後ろへ足を擦りながら下がっていった。

 ジャリジャリと、足の裏で砂地を掻く音がする。


 この男は殴る口実を探しているだけかもしれない。

 おいらが飲む口実を見つけ出そうとしているように。

 

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