第23話 大人のいじめとその影響
いじめというと、子どもや学生の間で起こる問題だと捉えられがちだが、実際には大人の世界でもいじめは存在する。職場でのパワーハラスメント、家庭内でのモラルハラスメント、地域社会での排斥など、形を変えたいじめが至るところで起きている。そして、大人のいじめは子どものいじめ以上に深刻な影響を及ぼすことが多い。社会的な立場や経済的な状況が絡むことが多いため、被害者は声を上げにくく、解決に時間がかかることもある。今回は、大人のいじめとその影響について考えてみたい。
大人のいじめは、しばしば「権力の不均衡」によって引き起こされる。特に職場において、上司が部下を精神的に追い詰めるパワーハラスメントや、同僚間での排斥行為が問題となっている。上司からの過剰な指導や、無理な仕事の押し付け、業務外の嫌がらせなど、職場いじめは様々な形で現れる。こうしたいじめは、被害者にとって仕事の意欲を奪い、心身の健康に深刻な影響を与えるだけでなく、最悪の場合、離職や自殺に追い込むこともある。
ある女性のケースを紹介したい。彼女は、ある企業で優秀な成績を上げていたにもかかわらず、新しい上司から過剰な指導を受け、失敗を繰り返し叱責され続けた。その上司は、彼女の些細なミスを大げさに取り上げ、会議の場で他の社員の前で繰り返し批判し、彼女の自己肯定感を奪っていった。彼女は次第に自信を失い、毎日職場に行くのが怖くなり、最終的にはうつ病を発症して退職せざるを得なくなった。このケースでは、上司の権力を使ったいじめが彼女のキャリアだけでなく、心身にも大きなダメージを与えた。
職場だけでなく、家庭内や地域社会でも、大人のいじめは存在する。家庭内でのモラルハラスメントは、パートナーや家族によって行われる精神的な虐待のことを指し、言葉の暴力や無視、経済的な束縛などが含まれる。こうした行為は、被害者に深刻な心理的ダメージを与え、自尊心を奪い取る。家庭内でのいじめは、外部からは見えにくく、被害者が助けを求めることが難しいため、長期間にわたって続くことが多い。被害者は孤立感や絶望感を抱えながら、日常生活の中で徐々に心が蝕まれていく。
地域社会でも、大人のいじめは起こり得る。たとえば、地域のコミュニティや町内会、マンションの管理組合など、特定の集団の中での排斥行為や嫌がらせが発生することがある。こうしたいじめは、「村八分」や「地域の掟」といった形で、昔から存在してきた。たとえば、ある地方のコミュニティでは、移住してきた家族が地元のルールに馴染めず、町内会から冷たく扱われたり、集まりに参加させてもらえなかったりしたケースがある。この家族は孤立し、地域の中での居場所を失ってしまった。
大人のいじめがもたらす影響は、個人の精神的なダメージだけに留まらない。いじめが職場で発生すると、職場全体の士気が低下し、生産性が落ちることがある。いじめによって優秀な人材が離職すると、企業にとって大きな損失となり、残された従業員の負担も増す。これにより、職場の雰囲気が悪化し、いじめがさらに助長される悪循環に陥ることもある。
また、家庭内でのいじめは、家族全体に影響を及ぼす。いじめを受けている親が精神的に不安定になると、子どもにもその影響が及び、子どもが学校での成績不振や不登校、問題行動を起こすことがある。家庭が安定しないことは、子どもの成長や心の健全な発達に悪影響を与える。いじめがもたらす問題は、決して一個人に留まるものではなく、その周囲にいるすべての人々に影響を与え得るのだ。
大人のいじめを防ぐためには、個人の行動だけでなく、社会全体での取り組みが求められる。まず、職場や地域社会でのいじめに対して、厳しいルールやガイドラインを設けることが必要だ。いじめやハラスメントが発生した場合には、被害者が安全に相談できる体制を整え、迅速かつ適切に対応することが求められる。また、いじめを見過ごさず、組織やコミュニティ全体でそれに対して反対の声を上げる文化を育むことも大切だ。
加えて、大人のいじめに対しても、子どものいじめと同様に教育が重要である。いじめをしない、させない、見逃さないという意識を社会全体で高めていく必要がある。職場や地域での研修や啓発活動を通じて、いじめに対する理解を深め、誰もが安心して過ごせる環境を作ることが求められる。
大人のいじめは、表には見えにくいかもしれないが、その影響は非常に大きい。私たち一人ひとりがいじめの存在を認識し、それを許さないという姿勢を持つことが、社会全体をより良いものにしていくために必要だ。いじめを受けている人が孤立しないよう、周囲が手を差し伸べ、共に立ち向かうことで、いじめのない社会を目指していきたい。
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