2-2 従騎士
一通り観察を終え、女から興味を失ったレイは違和感を胸に野次馬をかき分けて元来た道を戻る。
何の手がかりも得ることはできなかった。
分かったのは手がかりが消えたという事とその消え方に覚えがあるという事。
だが果たして彼女が殺されたのは偶然なのか──レイは自分の事を知っている唯一の人間が死んだ現状に疑いを持つ。
恐らく口封じだ。
俺を召喚したあの三人はクワトロの言う通り、召喚後に俺を殺すつもりだったのだろう。
それが失敗し、なおかつ逃げ出したあの女は
そうで無ければ説明がつかない──レイは根拠のない己の考えをそう補強する。
失敗した者が連続殺人犯――それも俺の世界に存在した連続殺人犯に似ている手口で殺さた。
果たしてこれが偶然で片づけられるだろうか。
あまりにも出来過ぎている――レイは自分を
後者に限っては手口が似ているというだけだ。犯人が切り裂きジャックと名乗っているわけではない。
重要なのはこの女を殺した人間を見つける事。
すなわち、この女を殺した犯人を追えば
この犯人を狩るのだ──だが
まず第一に戦闘技術。
相手はためらいなくこちらの命を狙って武力を行使してくるような相手だ。恐らく遭遇した時に戦闘は避けられないだろうとレイは思う。
二つ目は情報──これについてはこの世界の警察機構を担っている騎士に頼むしかない。幸いなことに、エンディにクワトロといった
最後は金──これについてはそもそもこの世界を生きるために必要だ。レイは先ほどのスープとパンだけでは満たされない腹をさすりながらそう思った。
自身の頭に浮かんだ考えの中で、レイはまず金を手に入れようと大通りにでた足を止める。
また野次馬をかき分けて元に戻るのは億劫だが仕方がない。
野次馬の対処で精いっぱいになっていたエンディは、死体を勝手に漁って去って行くレイを引き留める事ができなかった。
大通り二つをつなぐ立地のせいで、左右の大通りから絶え間なく野次馬が詰めかける。
果ては従騎士を押しのけてまで路地に入ってこようとする記者と思われる者もいた。
エンディは遺体に布をかけ、これ以上現場を荒らされないように声を張り上げた。
「下がってくれ! ここは事件現場だ! これ以上踏み込む者は捜査妨害として逮捕する!」
毅然としたエンディのその言葉に野次馬たちは罵倒を残して路地から出ていく。
これからどうするか、とエンディは考えていたところにレイが去った方とは反対の大通りから従騎士が男を連れて入って来た。
その従騎士はクワトロとエンディを最初に現場へと案内してくれた少女だった。
彼女の隣に立つ男は一見して医法師と分かるような白衣を着ている。
エンディは従騎士に白衣の男について問う。
「彼は?」
「えと……今後の捜査のために、医法師か検屍官の死亡証明書が必要かと思いまして……勝手ながら近くの病院で働いている方に同行頂きました」
騎士団のシステム──すなわち法の執行手続きはその全てが設立当初より厳格な規則に縛られていた。
その一つが、被害者の死亡証明書が無いと殺人事件として扱われず、
そして死亡証明書の発行には医法師や検屍官の遺体検分と書類へのサインが必要なのだ。
もっとも、現状は死亡証明書を取得する前に捜査に入っているし、形骸化した規則になってしまっているのだが。
エンディはよく勉強している、と彼女に感心した。そして自分を恥じる。自分より幼い少女の方が、現場においてずっと賢明に立ち回っているではないか──
「次のご指示をお願いします」
自分もしっかりしなければ、と己に喝を入れたエンディは彼女に他の従騎士と共に周辺の聞き込みを命じる。それに対し少女は元気よく敬礼して駆けていった。
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