1-7 隠れ家
レイは騎士という言葉に再度あの少女の事を思い出した。
「混乱するのは分かるが、まずは状況を整理しよう。
レイはクワトロと名乗った男の背中を見送り、1人にされた部屋を見回す。
彼はここを隠れ家と言っていた。そしてこの部屋は寝室なのだろう。自分が寝ていたベッドと、ベッドサイドの小さいテーブル。
そしてクワトロが座っていた年季の入った簡易椅子。必要最低限の家具はまさに隠れ家という言葉にピッタリであった。
やることが無くなってしまったレイは自分の腹部を見下ろす。
大小さまざまな傷跡の中で、気を失う前にあった怪我はすでに塞がっていた。そこでレイは自分がどれ程寝ていたのかを考える。
ヒゲの伸び加減を見るにそう時は経っていないはず。だというのに腹部に空いた傷──それも大量の出血を伴う傷──がそう易々と塞がるわけがない。
まるで魔法でも使ったみたいだ────レイはふと思いついたその考えを馬鹿らしいと思ったが、気を失う前に見たあの光景を思い出す。
手から火を放つ女に映画やアニメでしか見ないような人種、それは確かに現実だった。あれは一体何だったのか──
つぅ、と先ほど零した水滴が真新しい傷跡を通過してゆく。
そもそも、この傷を負った理由はいったい何なんだろうか────思考の海に足を浸しかけたレイを引き戻したのはノックの音だった。
ノックから数秒後、見覚えのある女を連れ立ったクワトロがやってきた。
レイはそこで彼女の顔をしっかりと見た。
真っ赤な瞳に真っ赤な髪、
勝気そうな目にツンと伸びた綺麗な鼻、短く肩口で切り揃えた燃えているかのような赤色の髪。
そして何故か惹かれてしまう赤い瞳。化粧をせずにこの顔なら絶世の美人だ。
しかし疲れているのか、少々やつれていた──最も彼女はそれを表に出すまいとしていたが。
そんな彼女は上裸のレイを見て顔を逸らすと部屋の端に立った。
「彼女はエンディ。エンディ・ユースティアだ。もう知っているね」
そう言ったクワトロは椅子に座ってレイと目線を合わせる。
当のエンディは何故かレイから目を逸らしたまま、
「まずは何から話そうか────」
「
レイはいの一番にそれを聞いた。本当の事を喋るかどうか分からないが、敵かそれ以外かは把握しておきたい──そんな彼にクワトロは答えた。
「私たちは東騎士団所属の騎士だ」
「騎士────」
レイは答えを反芻し、知識を辿る。
騎士と言えばその名が登場するのは10世紀の前半だ。
少なくとも
「騎士団とは法執行機関だ。そうだな……例えば──殺人が起きれば、騎士団に所属している騎士が捜査し、犯人を逮捕する」
レイは懇切丁寧に説明してくれているクワトロのおかげで、騎士という集団、その機能については大まかに把握できた。
いわゆる警察や保安官、捜査官といった官憲の
騎士とは戦場を駆け回り、戦う者を指すはずだ。
そもそも、
「俺はなんでここに?」
「エンディが気を失った君を私の元へ運んできたのだ」
レイは覚えている限り、
気が付いたら、酷い頭痛と重傷を負って目が覚めた。そして謎の三人組に襲われた。そして女を追跡している途中で気を失った。
「君は私の家に運び込まれた時、酷い怪我を負っていてね。それで……
「とある事情?」
レイは意味深な単語に思わず質問を差し挟んだ。
「とある事情については
レイは「続けてくれ」と頷く。
「傷はかなり深かった。血も大量に失っていたしね」
「だろうな、あのままだと失血死してもおかしくなかった」
怪我を負った腹部に手を伸ばしたレイは考える。あの傷であれば完治に数か月はかかるはずだ──
「俺は気を失ってから何日寝ていた?」
「三日だ」
「冗談だろう」
即座に
「いいや本当だ」
レイは
「それは──ありえない……この怪我は一日二日で治るような怪我ではなかったはずだ」
「高純度の治癒薬を使ったのだ。私の妻が優秀な薬法師でなければ危ないところだった」
治癒薬に薬法師、聞きなれない言葉にレイはどれから聞くべきかと考えあぐねる。
しかしそれよりも重要な言葉がクワトロの口から飛び出た。
「ここはソドム国だ」
知らない国名にレイは面食らう。そんな彼にクワトロは続けて言った。
「落ち着いて聞いてほしい、ここは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます