広い海に貴女と一人

南 瑞朋

第1話

 「ネット恋愛」を知っているだろうか。

 「SNS」だったり、「インターネット」だったりを出会いの場として使う者が生み出したくだらない言葉、と思っている。インターネットがそもそもくだらないのに、そんなサービスから人生のパートナーを選ぶと言う、愚の骨頂に近しいような事をなぜ出来るのか、ニュースを見るたびにそんな事をついつい思ってしまう。

 そんな反抗的で世の中を疑うただの男子高校生である俺こと「佐野川さのがわ のぼる」は、昼休みに友人である土屋つちやから先述の話題を出され、先のことをそのまま伝えた。

 伝え切った時の反応は、俺に同調するようで、どこか俺よりも過激だった。そんなあいつは、まるで自虐の様な事を笑いながら言った。

「別にこんな事話したって、俺達にネット恋愛は無理だからな〜」

「こんな事言ってるから彼女を一人でも作った試しが無いんじゃないのか?」

「それは登もだろ」

「そうだけど違うだろ」

 何故か勝手に纏められたのでそれは否定しておいた。

「俺は土屋みたいに八つ当たりはしないからな」

「じゃあさっきの発言は何だったんだ?」

「何の事か分かんないな〜」

「脳外科行くか?」

 こんな話を今日もしていると、ある事を土屋が言った。

「登はSNSとかしてないんだっけか?」

「してないね」

「この際だしやってみたら?」

「どういう流れでそうなった?」

「別に良いだろ?流れとか無視した様な会話しかしてないんだから」

「そうだけども」

「それで、SNSやってみない?」

「別に良いかな」

「楽しいからやろうぜ?」

「スマホのスペックが酷くてさ〜」

「そんなの関係無い!入れろ!」

「そこまで入れたがる?」

「SNSはスペックそこまで求めないから大丈夫だと思うけど」

「そんなに言うなら入れるか…」

「じゃあ青いアイコンのアプリで待ってるぞ!」

 そう言われた俺は、教室へ戻って言った土屋をただ眺めるしかできなかった。

 学校が終わり、零細な部活の幽霊部員である俺は、すぐに家へと帰った。

 両親は共働きでよく家を空けていて、帰ると家は伽藍洞がらんどうである事も良くあった。そんな家で一人スマホを開き、昼休みに言われた事を思い返しながら、くだんのアプリをいくつか入れる。

 見様見真似でアカウント登録を済ませ、とりあえず気になったアカウントをいくつかフォローしてみる。

 気づいたら数十人をフォローしていて、投稿欄にはその人達による物で溢れかえっていた。興味を持って見ていくと、その日に起こった出来事や自分の考えなどを赤裸々せきららに語っている物が殆どで、有益な情報は殆ど見られなかった。

 そんな事をしていると、いつの間にか外が暗くなっていた。帰宅した時はまだ明るく、季節的にもそうそう早く日が落ちる事は無いはずで、何だか末恐ろしい力を感じた。

 アプリを閉じて当たりを見渡すと、いきなり玄関のインターホンが押される。玄関の扉を開けると、そこには両親が佇んでいた。いつもと変わらない笑顔を振りまいて家へ上がり、いつもの様にご飯を作る。

 何ら変わらない日常を過ごし、またいつもの様にベッドの上で寝転がり、勝手に閉じるまぶたを受け入れて明日を迎えようとするが、どうしても心に残りがこびりついて離れない感覚がした。それに促されるままスマホを手に取りSNSを開く。何人かからフォローを貰った通知が届いていた。それに応え終わり、今度こそ明日を迎える準備が整い、少しづつ閉じる瞼をただ受け入れる。

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