第67話 それぞれの告白
公園のベンチに並んで座る私たち。
目の前には静かな風景が広がっていて、少し冷たい風が頬に触れた。今日はこの場所を田中くんが選んでくれた。
いつもと違う、少し落ち着いた雰囲気の中、私は心の奥で決めていたことを口にしなければならない。
「田中くん……今日は、話したいことがあるんだ。」
そう言うと、田中くんは少し驚いた顔をして、真剣にこちらを見つめた。
私がこうして改まって話を切り出すのは珍しいから、当然だろう。でも、これ以上は曖昧なままでいられない。
「……実は、ずっと相談していた気になる人のことなんだけど……」
私の心臓はドキドキと早鐘を打っている。
これまで何度も田中くんに恋愛相談をしてきたけど、肝心の「気になる相手」の名前を伝えたことはなかった。
だけど、今こそそのことを言わなきゃいけない。だって、その「気になる相手」は──。
「……その人って……」
言葉が詰まる。田中くんは真っ直ぐ私を見つめている。
その目は優しくて、でもどこか緊張しているようにも見えた。私は一瞬、言葉を飲み込んだけれど、もう引き返すことはできない。
「──その人って、田中くんだったんだ。」
そう言った瞬間、田中くんの目が驚きで見開かれた。彼は何も言わず、ただ私の言葉をじっと聞いている。
「最初は、ただの興味だったの。田中くんがみんなの恋愛相談に乗ってて、どうしてそんなに頼りにされているのかが気になって……それで、冗談半分で相談してみたの。でも、田中くんと話してるうちに、気づいたら私の気持ちが変わってた。」
心臓の鼓動がさらに早くなっていくのを感じる。今までずっと隠してきた気持ちを、ついに口に出している。
そのことが私を緊張させていたけれど、もうこの溢れ出す気持ちは止まらない。
「田中くんは、いつも真剣に相談に乗ってくれて……その優しさに、私、どんどん惹かれていったの。だから、本当は……最初から、気になってたのは、田中くんだったんだ。」
その言葉が自分の口から出た時、胸が軽くなった気がした。
ずっと抱えていた秘密が、ようやく解放されたような感覚。でも、その一方で、田中くんの反応が怖くて、緊張は収まらない。
「──私、田中くんのことが……好きです。」
ついにその言葉を口にした。心の中で何度も繰り返してきた言葉。
でも、いざ本人に伝えるとなると、こんなにも緊張するものなんだと改めて実感した。
田中くんはしばらくの間、何も言わずにじっとこちらを見つめていた。彼の表情が読めなくて、私は思わず視線を逸らしそうになる。
でも、目をそらさない。彼がどう思っているのか、どんな答えを返してくれるのか、ちゃんと知りたかったから。
やがて、田中くんはゆっくりと口を開いた。
「……そっか。」
その一言に、私は少しホッとした。でも、まだ彼の本当の気持ちは聞けていない。
彼は何を思っているんだろう?この告白が、どう受け取られたんだろう?
「水瀬……ありがとう。」
田中くんは少し困ったような、でもどこか安心したような表情を見せた。私の気持ちは確かに伝わった。それは分かった。でも──。
「田中くんは……どう思ってるの?」
その質問を、私の口から絞り出した。
彼がどう感じているのか──それを知るのが、私にとっては最も大切なことだった。
******
「田中くんは……どう思ってるの?」
水瀬の問いかけが、俺の胸に響いた。
彼女の告白を受けて、今度は俺が自分の気持ちを伝える番だ。それが分かっていながら、頭の中でこれまでのことが一気に思い出された。
これまで、俺はずっと「恋愛相談キャラ」として友達の恋愛に関わってきた。
誰かの相談に乗って、アドバイスをして、その結果を見守る。それが俺の「居場所」だと思っていたし、恋愛を客観的に見つめることに安心していた。
「俺さ、今までいろんな人の恋愛相談に乗ってきたんだ。友達に頼られて、それが嬉しかったし、役に立てることが自分の価値だと思ってた。友達の恋愛を陰から支えて、成功すればそれで良かったんだ。」
俺は少し微笑んで、水瀬に視線を向けた。彼女は静かに俺の話を聞いている。
「でも、ずっと思ってたんだ。俺自身はどうなんだろうって。人の恋愛をサポートするのは楽しかったけど、俺自身が恋愛に向き合ったことはなかった。むしろ、そういう立場にいることが楽だったんだ。」
正直なところ、俺自身は恋愛から距離を置いていた。自分の感情を表に出すことはなく、ただ友達のために頑張っていればそれで十分だと思っていたんだ。
「だけど、水瀬に出会ってから、少しずつ自分の中で何かが変わってきたんだ。」
言葉を絞り出しながら、俺は自分の胸の中にある気持ちを探っていった。
水瀬と一緒に過ごす時間が増えていくうちに、彼女への気持ちが次第に大きくなっていった。
「最初は、相談に乗るだけの関係だったよな。水瀬が誰を好きなのか、気になってた。でも、それを知りたいって思うのは、単に相談に乗るためだけじゃなくて……水瀬自身のことが気になっていたからなんだ。」
水瀬は驚いたように俺を見つめていたが、俺は続けた。
凛との出来事を振り返る。彼女の真剣な気持ちを無碍にしないように、真剣に向き合ったあの時のことが、今でも胸に残っている。
「──結局俺が好きだったのは、水瀬だったんだ」
「……!」
俺はそこで言葉を止めた。水瀬は優しく頷き、何も言わずに聞いてくれている。
「だから、俺も自分の気持ちに向き合うことにした。ずっと他人の恋愛に向き合ってきたけど、自分の恋愛は避けてきた。でも、水瀬と一緒に過ごしていくうちに、自分も恋愛に向き合わなきゃいけないって気づいたんだ。」
俺は少しだけ緊張しながら、彼女の目を見つめる。そして、静かに言葉を紡いだ。
「俺も……水瀬のことが好きだ。」
その言葉を口にした瞬間、緊張が一気にほどけた。
ずっと胸の中で抑えていた感情が、今やっと外に出た気がした。水瀬が驚きの表情を見せたあと、少し微笑んでくれた。
「本当に……?」
「うん。水瀬のことが気になってたのは、俺も同じなんだ。」
水瀬の目には少し涙が浮かんでいたが、彼女は嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、俺の胸の中が温かくなった。
「ありがとう、田中くん。」
水瀬はそう言って、涙を拭いながら微笑んでいる。
その姿を見て、俺は少し照れくさくなりながらも、自分の気持ちを伝えられたことに満足していた。
「これからは……お互いに、もっと正直な気持ちでいような。ちゃんとお互い向き合っていこう。」
俺の言葉に、水瀬は静かに頷いた。
「うん、これからもよろしくね、田中くん。」
「こちらこそ、よろしく。」
そうして、俺たちはお互いの気持ちをしっかりと確認し合い、これまでの「恋愛相談役」としての関係から、一歩進んだ新しい関係に踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます