第43話 話してて安心できる人

 

 良哉の声に呼ばれて、俺と水瀬は少し離れていた雑貨店の入口へと戻った。

 店の前で楽しそうに手を繋いでいる良哉と泉美が、俺たちに手を振っている。


「おーい、こっちだこっち!この店、面白いものがいっぱいあるんだぜ!」


 良哉が笑顔で声をかける。彼の言葉通り、店内にはユニークな雑貨や変わった小物が並んでいた。


 俺たち4人は、さっきまでのぎこちない空気を少し払拭するように、雑貨を見ながら軽く笑い合った。


「これとかどう?ほら、猫の形の置物とか、水瀬ちゃん好きそうじゃない?」


 泉美が水瀬に向かって、可愛い小物を指差して提案する。水瀬はニコッと笑ってその置物を手に取り、少し考えた。


「可愛いね。でも、私に合うかどうかは微妙かも……。」


 そんなやり取りをしている間、良哉と泉美のリードのおかげで、俺と水瀬の間に漂っていた微妙な緊張感は徐々に薄れていった。


 しばらく店内を見て回り、何も買うことなく店を出ると、ちょうど日も傾き始めていた。


「そろそろ夕方だな……時間もいい感じだし、今日はここまでにするか。」


 良哉が時計を確認しながら、そう提案する。俺も、水瀬も、そして泉美も、それに同意して頷いた。


「そうだね。今日は楽しかった!」


 泉美が明るい笑顔でそう言うと、良哉も満足そうに笑った。


「光も水瀬ちゃんも一緒に遊べて楽しかったよな。4人で過ごすのも悪くないよな?」


 俺は軽く笑いながら、「まあ、確かに」と答えた。正直、最初は少し戸惑っていたけれど、結果的には楽しい時間を過ごせたことに気づいていた。


「私も楽しかったよ。またみんなで集まれたらいいな。」


 水瀬も自然な笑顔を浮かべてそう言う。彼女のその言葉に、俺の胸の中にあるもどかしい感情が再び揺れ動いた。


 まだ言葉にすることはできないけれど、彼女との時間が心地よいと感じている自分に、俺は少しずつ気づき始めていた。


 その後、俺たちはモールの出口に向かって歩き始めた。夕方の風が心地よく、ゆったりとした時間が流れていた。


「今日はここまでかな。光、結花ちゃん、また一緒に遊ぼうぜ!」


 良哉が元気に手を振ると、泉美も笑顔で「またね!」と俺たちに向かって言った。俺と水瀬は軽く手を振り返し、互いに「じゃあ、また」と声を掛け合った。


「今日はありがとう、田中君。楽しかった。」


 水瀬が柔らかい声でそう言った。その言葉に、俺は少し照れながらも「こちらこそ、ありがとう」と返した。


 良哉と泉美が去った後、俺と水瀬はしばらく無言で並んで歩いた。まだ日が完全に落ちきっていない街並みを歩く中、どちらからともなく自然な会話が続く。


「……今日は、本当に楽しかったな。」


「うん、私も。田中君って、意外と話しやすいんだね。」


 水瀬が冗談めかして笑う。その言葉に、俺はまた少しだけ胸が高鳴るのを感じた。


「話しやすい、か……まあ、良哉たちのおかげかな。」


「それもあるかもね。でも、田中君自身もそうだよ。話してて安心できる。」


 水瀬のその言葉に、俺は不意に照れくささを感じて、顔を背けた。水瀬は俺を見つめながら、何かを言いたそうな表情をしていたが、それ以上は言葉にしなかった。


 そして、駅に近づくと、水瀬が小さく「じゃあね」と手を振った。


「また学校でね。」


「うん、またな。」


 俺たちはお互いに手を振り合い、それぞれの帰り道へと歩き出した。


 モールでの一日が終わり、俺は水瀬との距離が少し縮まったことを感じていた。

 今日という日が二人の関係に何かしらの変化をもたらしたことは間違いなかった。

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