第34話 気になる恋愛相談
放課後、教室でノートをまとめていると、いつの間にか隣に水瀬が座っていた。彼女は俺を見てにこっと笑い、軽い調子で話しかけてきた。
「ねぇ、田中君。この前の優奈ちゃんと中村君の話、どうなったの?」
水瀬が俺に恋愛相談の成り行きを尋ねるのは、これが初めてじゃない。彼女は時々、こうして俺に興味を持って聞いてくる。たぶん、彼女も恋愛相談に対して少し興味があるんだろう。あるいは、単純に話題として面白いと思っているのかもしれない。
「お、気になる?」
俺は少し笑いながら返した。水瀬は机に肘をついて、少し期待している様子を見せる。
「うん、だって気になるじゃん。どうなったのか教えてよ。」
彼女のその表情を見ると、俺も自然と笑ってしまう。水瀬は誰にでも明るく接するタイプだけど、こうして自分に近づいて話をしてくれるときは、少し違う一面が見える気がする。
「まあ、順調だよ。実は、二人ともお互いに告白して……付き合うことになったんだ。」
俺がその結果を伝えると、水瀬の目が一瞬驚いたように見開かれた。
「え、そうなの?すごいじゃん!ちゃんとうまくいったんだ!」
彼女は本当に嬉しそうに微笑んでいた。俺もその様子を見て安心した。優奈と中村君の恋愛がうまくいったのは、恋愛相談に乗る身としては嬉しいことだ。
「そうなんだよ。最初はなかなかうまくいかなかったけど、優奈が中村君にちゃんと気持ちを伝えたんだよな。で、中村君も思い切って告白して……まあ、お互いに想い合ってたから、自然とそうなったんだよ。」
「へぇ~、優奈ちゃん、すごく勇気出したんだね。でも、中村君もちゃんと気持ちを伝えられたなんて……よかったね。」
水瀬は優奈と中村君のことを素直に祝福してくれた。その優しさに、俺は少し感心した。クラスの中心的な存在で、常にみんなから注目される水瀬だけど、彼女はこうして他人の幸せを本当に喜んでくれるんだ。
しばらく二人で恋愛相談の話をしていると、ふと水瀬が少し意味深な表情で俺を見た。
「田中君って、本当に恋愛相談が得意なんだね。なんか、他人の恋愛は全部お見通しって感じ。」
「いや、そんなことないよ。俺だって分からないことだらけだよ。相談されるから、なんとかアドバイスしてるだけだし、実際は俺自身は恋愛経験が少ないんだ。」
俺が正直にそう言うと、水瀬は少し首をかしげた。
「でも、他人の気持ちをちゃんと見てるんだなって思う。特に、優奈ちゃんと中村君のことも、田中君がちゃんと背中を押してくれたから、うまくいったんじゃないかな。」
その言葉に、俺は少しだけ照れた。水瀬は時々こうして鋭いことを言ってくる。自分がしていることを褒められるのは悪い気はしないけど、俺自身はただ流れに任せているだけのつもりだった。
「俺はただ、優奈がどうしたいかを聞いてただけだよ。結局は、二人が自分で選んだことだから。」
「でも、すごいよね。そういう風に他人の気持ちを支えてあげられるのって。」
水瀬の言葉には、いつも不思議な重みがある。それは、おそらく彼女自身がいろいろな人から期待され、周囲から注目される存在だからだろう。彼女もまた、他人の気持ちに敏感なのかもしれない。
「……でも、田中君は自分の恋愛にはどうなの?」
突然、水瀬がそう問いかけてきた。俺は一瞬、言葉に詰まった。自分の恋愛――それは、最近ずっと考えないようにしていたことだった。
「え、俺の恋愛?いや、俺は……」
言葉がうまく出てこない。自分の気持ちがどうなのか、まだはっきり分からない状態だったからだ。
「そっか、田中君は他人のことばかり見てるもんね。でも、自分のことも、ちゃんと向き合わないとダメだよ?」
水瀬は少し冗談っぽく笑いながら言ったが、その言葉が俺の胸に深く刺さった。
「自分の気持ちに向き合うか……」
優奈と中村君の恋愛を見て、俺も自分の気持ちを整理しなきゃならないと感じていた。だけど、それが水瀬との関係だと考えると、急にどうすればいいのか分からなくなる。
水瀬は俺の様子を見て、少し微笑んでいた。
「田中君、いつか自分の気持ちにちゃんと向き合ってみてね。きっと、誰かを好きになるって素敵なことだと思うから。」
その言葉に、俺はただ頷くしかできなかった。水瀬が俺に言ってくれたその一言が、心の中で大きな波を立てた。
「……ありがとう、水瀬。いつか、ちゃんと考えてみるよ。」
俺がそう言うと、水瀬は明るく微笑んで「うん!」と頷いた。
教室の窓から差し込む夕陽が、二人の間に静かに流れる時間を照らしていた。水瀬との会話が、俺に少しずつ自分の気持ちに向き合う勇気を与えてくれたような気がした。
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