第27話 やはり上手くいかない

 それから数日が経った。優奈は俺に相談してから、中村君との関係を修復するために焦らず少しずつアプローチしようと努力しているようだった。

 しかし、どうやら状況はあまり良くなっていないらしい。


 放課後、俺はまた図書館で読書をしていた。


 今日も特に変わったことはなく、日常が流れている──はずだった。

 しかし、ふと感じた視線に気づいて顔を上げると、またもや優奈が不安そうな顔で立っていた。


「田中先輩……また、相談に乗ってもらってもいいですか?」


 彼女の顔には明らかに疲れと焦りが見えていた。俺はすぐに彼女を座らせ、話を聞くことにした。


「もちろん。どうしたんだ?前に話した時、少し様子を見てみるって言ってたけど……」


「それが……あまりうまくいかなくて……」


 優奈はため息をつきながら、ポツリと呟いた。


 彼女の表情は本当に困惑していて、中村君との関係がますますぎこちなくなっていることがすぐに分かった。


「中村君とは、相変わらず話しづらいままで……。私、前よりも積極的に話しかけるようにしてるんですけど、やっぱり彼の反応が冷たくて……どうしてなのか、全然分からないんです。」


 優奈は俯きながら話す。

 彼女は一生懸命に中村君との距離を縮めようとしているのに、どうしても彼との関係が良くならないことに苛立ちと悲しさを感じているようだった。


「そうか……焦らずにって言ったけど、やっぱり難しいよな。中村君と話すタイミングとか、彼の気持ちがどうなってるかも分からないし……。」


 俺は少し困った顔をしながら、どうアドバイスすべきか考え込んだ。

 優奈は頑張っているのに、その努力が報われないのは辛いだろう。

 俺もどうすればいいのか分からず、少し迷った。


「もしかして、何か他に理由があるんじゃないか?例えば、中村君自身が何か悩んでるとか、そういうことはないのか?」


 俺がそう提案してみると、優奈は首を横に振った。


「それが、前に中村君に『何かあったの?』って聞いたんですけど、『別に』って言われて……そこからまた距離を感じるようになって……」


 彼女の声はどんどん沈んでいった。

 どうやら中村君自身も、自分の気持ちをうまく表現できずにいるようだ。

 それがさらに優奈を不安にさせているのだろう。


「それは辛いな……中村君は何か言いたいことがあっても、言えない状態なのかもしれない。もしかしたら、彼も自分の中で整理できていないのかも。」


 俺はできる限り彼女を励ますように言った。


 中村君の反応からすると、彼も何かしら不安を抱えているのだろうが、それをどう伝えればいいのか分からないのかもしれない。


「でも……どうやってその気持ちを引き出せばいいんでしょうか?私が何かもっとできることがあるなら、やりたいんですけど……」


 優奈は真剣な表情で俺に聞いてきた。彼女の熱心さには心を打たれるものがある。中村君との関係を修復したいという強い思いが伝わってきた。


「うーん……今の状況だと、無理に引き出そうとすると逆に彼が余計に閉じこもってしまうかもしれないな。今は、優奈が話しかけ続けて、彼が話したい時に話せる環境を作るのがいいんじゃないか?」


 俺はそう答えた。焦って話し合いを迫るのではなく、少しずつ距離を縮めながら、彼が自分の気持ちを伝えられるようなタイミングを待つことが重要だと思った。


「そうですよね……私も急ぎすぎたのかもしれません。もっと、彼が話したい時を待つべきだったのかな……」


 優奈は少し反省したように呟いた。彼女はどうにかして中村君の気持ちを知りたいと焦っていたのだろう。

それが逆に、彼にプレッシャーを与えてしまったのかもしれない。


「焦る気持ちは分かるよ。俺も、誰かを待つのって難しいと思うことがあるからさ。でも、今は無理せずに、中村君のペースに合わせてみるのがいいかもな。」


 俺自身、結花との関係で同じような感情を抱いている。自分の気持ちを伝えたくても、どうすればいいのか分からず、焦りと不安が募っている。優奈の状況を見ていると、まるで自分のことのように感じた。


「……そうですね。私、少し焦りすぎてたのかもしれません。中村君が話してくれるのを待ってみます。」


 優奈はようやく少し笑顔を取り戻してくれた。彼女の表情が少しでも明るくなったことに、俺はホッとした。


「ありがとう、田中先輩。私、少しずつだけど、中村君との距離を縮めていきます。焦らずに……彼が話してくれるまで待ってみますね。」


 彼女がそう言って立ち上がる姿を見て、俺も安心した。優奈は中村君との関係を修復するために、また頑張ろうとしている。


「うん、焦らずゆっくりやっていこう。俺も応援してるからさ。」


 そう言うと、優奈は明るく頷いて図書館を後にした。彼女が前向きに考えられるようになったのは良いことだ。だが、俺の心にはまだ一抹の不安が残っていた。


「中村君……本当は何を考えてるんだろう?」


 俺は静かな図書館で一人考え込んでいた。優奈の話を聞いて、どうしても中村君が優奈に対して急に冷たくなった理由が掴めない。

俺自身も恋愛の経験があるというわけではないが、恋愛におけるすれ違いというものは難しいと感じる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る