第七の月

いずれそうなるとは分かっていたものの…いやはやこれはどうしたものか…


少女は、青葉の季節の木漏れ日からも伝わるような陽光の暖かさを感じながら、子供達の声を遠くに聞きながら、少し離れた森の中を歩き、神妙な面持ちで思案していた。




「ねえ母様、お腹が痛い…。それに血が出てくるの…どうしよう。」



ある朝、まだ日も上らぬうちから、ローシュが眉を顰めながらそう言って、そっと彼女を揺り起こした。


「大丈夫だよローシュ。体が怠いだろうけど、こちらへおいで。綺麗にしよう。

そうして何が起こったのか説明するよ。」



あぁ、遂にこの時が来たか…。




そう思いながら、


少女はローシュを優しく宥めて、体が冷えないように毛布をかけてやり、湯を沸かして、身体を拭くように促した。


そして、こういった時のために別で用意していた下着をローシュに手渡しながら、人間の性と誕生について、女の身体の変化と男の体の変化について、なるべく噛み砕いて説明をした。


ローシュは気怠さを押しのけて、珍しく途中で眠ることなく、前のめりに少女の話を聞いていた。




神が造ったと言えるイーサンとローシュは、色々と彼女の知る人間とは異なるところが多々あった。


しかし根本のところ、人間であり、人間も神を型どって作られただけで、動物であるという事実は変わらず、彼女の知識もそう言っていた。



いつぞや神の言っていた、「産めよ、増えよーーー」

という言葉通りそろそろその時が近づいているということも。



ローシュのそこからの変化は凄まじいとも言えるものだった。


体つきは更に女性らしくなり、色香といえるようなものが溢れ出すようになった。


夕焼けの空のように紅く、透き通った髪は更に艶を増し、長い睫毛は憂いを帯びたようにして緑に輝く瞳の印象を更に強めて、頬は僅かに淡紅色に染まり、唇はその血色の良さと潤いから思わず少女をもってしても触れたくなるほどであった。





イーサンにも変化はあった。


春の、あの大誕生祭とでも言えるような行列に出遅れた動物たちの交わりを、植物採集のために訪れた森で見かけた時。


あぁ、また母様の祝福が必要になるな。


などとしか思わなかった光景に、何故か目が離せなくなり、気がつくと身体の一部が大きくなっていたのだ。



そのことは、その晩。

ローシュがすやすやと眠り込んでから、とても恥ずかしそうに、しかし深刻そうに相談してきたのである。



いずれ来ると分かっていたものの、


彼らの身体の成熟が余りに早いことから、きっと早晩こうなると思っていたものの、


それでも複雑な心境で、イーサンにもローシュにしたのと同様に説明をしてやることにした。




「イーサン、大丈夫。君の身体が変わっていくのは自然なことなんだ。

君もローシュと同じように成長しているんだよ。」


イーサンは恥ずかしそうに視線を落とし、少女よりも大きな体を縮こめながらも、真剣に彼女の言葉を聞いていた。


彼の深く蒼い瞳には、理解と安心を求める気持ちが浮かんでいた。


神によって造られた彼らの身体は、元の世界の人間とは異なる部分が多いものの、生命の成長や営みは共通していた。


その変化をどう受け止め、どう対処すべきかを、少女はできる限り分かりやすく教えていった。





自分にも経験などないというのに…全くどうしてこうなったものか…




だとしても、彼らの身体が成熟し、大人へと変わりゆく様子を見守りながら、少女は彼らの支えとなることを誓った。




その成長がもたらす変化が、どのように彼女自身や彼らの未来に影響を与えるかについては、



まだ誰にも分からなかった。

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