第六の月

山際に沿って空が白み始め、夜の帳が静かに退けられていく。


雲の端が竜胆色から淡い藤色へ、そして朱華から赤橙へと美しく染まりゆくさまは、まるで春の到来を祝福しているかのようだった。


柔らかく、心地よいぬるさを含んだ春の空気が、一呼吸ごとに冬の冷たさを和らげ、少女の心と体を解きほぐしていく。


世界は新たな季節を迎え、家の周りは鮮やかな花々と、その蜜を求めて集う虫たちで活気づいていた。


鳥たちの囀りもひときわ軽やかで、まるで春の喜びを謳っているようだった。


動物たちにも恋の季節が訪れ、森や草原ではその活気で満ち溢れんばかりになった。


我が世の春とばかりに、はしゃぎ回る彼らの姿は、自然の豊かさと新たな誕生への歓びを映し出していた。





「母様、今日は私が自分で鳥を捕まえてくるわ!母様は絶対付いて来ないでね! 

母様が一緒だと、みんな逃げていかないんだもの。」


ローシュはつい先日、少女と一緒に作った弓と矢を抱え、誇らしげに声を張り上げた。


彼女はすでに少女の背丈を追い抜き、体つきには女性らしさも感じられるようになっていたが、快活な性格は幼い頃と変わらず、むしろその明るさは増しているようだった。


「ローシュ、その…気を悪くしたらごめんね?

でも、母様にそんな言い方は良くないと思うよ?自分で鳥を打って、母様をびっくりさせたいのはわかるけれど…」


少し低めの声で、イーサンがローシュを静かに諌めた。


いつもローシュに押されている彼にしては頑張った方である。


彼もまた立派に成長し、背丈はローシュよりも高く、既に偉丈夫の風格を備えていた。


しかし、その優しい心根と控えめな性格は変わることなく、むしろ大人になるにつれてその繊細さが一層際立っていた。




少女は2人を見つめ、どこか懐かしさを感じながら微笑んだ。


いつの間にか、2人は立派な大人になっていた。


しかし、彼らの性分や個性は変わらず、そのままの形で育ってきたことに、ほっとするような、そして少し寂しさを感じるような気持ちが入り混じっていた。



「気をつけて行っておいで。でも、ローシュ?

絶対に無理はしないようにね。」



「イーサン、ありがとうね。貴方はもっと堂々としていていいよ。優しいところも素敵だけどね。」



少女は優しく声をかけた。


ローシュは嬉しそうに頷き、弓矢を手にドアを勢いよく開けると森へと駆け出していった。



イーサンは少女の言葉にもじもじとして、

その後少し心配そうにローシュの背中を見送りながら、日課の土いじりの為に準備をし始めた。


さてーーーと、少女も、外に出て

青草の上に座り込んだ。

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