第10話
正午、城門を抜け、中庭の噴水の前を通り抜ける。すると甲高い声と共に、目の前に小さな影が現れた。
「きゃあ!」
「おっと……!」
ノーデンスにぶつかったことでバランスを崩した少女を、地面に倒れる前に慌てて引き寄せた。
全く心臓に悪い。ひとまず体勢を整え、ほっと息をつく。
「ロッタ様! あ、ノーデンス様! お帰りなさいませ……!」
声がする方を見ると、長いスカートを捲りあげながら宮女が駆けてきた。
「もう、ロッタ様! 今日授業を受けなかったら今度こそ陛下にお叱りを受けますよ!」
「だってつまらないんだもの。王族の歴史なんて、覚えてなにか役に立つの? 数ページならともかく、紙にぎっしり書かれた史実を百ページも! そんなの覚えるぐらいなら薬草の種類を覚えた方が誰かの役に立てるわ」
「貴方様は王族の血を引く者なのですから、これは義務です。学問や礼儀もまだまだ足りないのですから、汚れそうな場所に赴くことは了承しかねます」
突如勃発した口論に呆けてしまったが、“いつも”のやつだろう。内心では笑いながら、腰に手を当てて前へ出た。
「ロッタ様、今日の勉強は進んだんですか?」
「物理は真面目にやったわ。古典が嫌いなの。午前だけ勉強して、午後は外に行きたい。この間西の森まで馬に乗って行ったんだけどね、珍しい植物がたくさんあったの。身体にいいものもあるかもしれないわ」
「じゃあ俺と今から探しに行きましょうか」
「ええっ!?」
ノーデンスの言葉に反応したのは宮女の方だった。蒼白になりながら、口をぱくぱくさせている。もちろん勉強をしなければ彼女の責任になるので、小声で付け加えた。
「俺が陛下に謝っておきます。その代わりロッタ様は、明日は必ず午後も勉強すること。それを約束していただけるならお連れしますよ」
軽く微笑むと、彼女は宝石のように大きな目を輝かせた。
「もちろん! 絶対やる」
「決まりだ。さっそく行きましょう。時間がもったいない」
「ありがとう! ソフィア、夕食までには戻るわ」
「え、え……ちょっと、気をつけてくださいよ!? ノーデンス様、申し訳ございませんがお願いします!」
まだ狼狽えている彼女に手を振り、来た道を戻った。
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