第8話



今日はいつもと違う大事な仕事が入っている。ノーデンスは頭の中で段取りをイメージし、気を引き締めた。

相変わらず暖かい昼下がり。鍛冶師の製作場に数人の客人を招き、完成して間もない短剣の精度を見せた。銃も多く扱っているが、個人的には剣の方が勝手がいい。もっとも今手にしているのは戦いの為ではない、狩猟をする為のナイフだ。刃先が滑らかな皮剥タイプをメインに、その魅力を伝えていた。

客人は皆他国からやってきているが、商人や料理人、そして軍関係者まで、幅広かった。宣伝活動としては幸先が良い、有意義な一日だった。


「ノーデンス様、お疲れ様でございます。まさか狩猟用の武器を展開するとは思いませんでしたよ。どうなるかと思いましたけど、好評で安心しました」

「ほんとにな。余裕ができたら、本格的に調理道具も造るかね」


「ノーデンス様の神気を無機物に込める力は天稟ですが、知略や炯眼にも圧倒されます。間違いなく、今後のこの国を引っ張っていくお方ですよ」


俺の能力に気付いているのは同族を含めた少数だ。平和に暮らしている一般市民は神力は愚か、武器の価値も軍の内情も知らない。兵に与えられた役割と配置、所有する兵器等は極秘情報として一切公開されてない。

他国に攻められた時の対処や避難方法ぐらい常日頃から演習しておくべきだと思うが、ローランド達はそれすら市民を不安にさせるかもしれないと二の足を踏んでいる。これで本当になにか起きれば大惨事。愚の骨頂だ。


「ところで……ノーデンス様、エプロンも似合いますよね」

「そう?」


解体の時につけたエプロンがそのままだった。スーツが血と油まみれになっては大変なので、わざわざ用意したものだ。外してから水を張ったバケツに放り入れる。

「普段料理する時はエプロンなんてしないけど」

「えー、つけても良いと思いますよ。クールで仕事できそうだからこそ、ギャップがあるというか。何も知らない人が見たら、良い奥さんだったと思うはず……ハッ」

そこまで言いかけた時、オッドは目を見開き口を手で塞いだ。まるで見てはいけないものを見てしまったような目で見てくる。


「どうした」

「い、いえ……それはそれとして! 完璧な貴方の唯一の弱点を上げるとしたら、ひとの情欲に疎いことです。ノーデンス様を狙っているひとは腐るほどいますが、誰か心当たりいます?」

「ひとりも」

「そうでしょう……だから俺もいつも苦労してるんです。さっきも貴方のことが気になるという業者がいて、上手く話を逸らすのが大変で大変で」

と、何やらオッドが頭が痛そうなので、胸ポケットから寸志を取り出した。


「何に悩んでるのか知らないけど、最近仕事ばかりして煮詰まってるんだろ。小遣いやるから夜遊びに行きな」

「そう……そう、そういうところです」




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