庭に美しい(初めて見る)桜が咲いている。

 綺麗だな。

 縁側に座って、そらはぼんやりとしながら、綺麗な桜を見ている。

 桜の花びらが風に舞って、一枚、二枚と、縁側の木の床の上に落ちてくる。

 そらはあおの画用紙を膝の上に抱えるようにして、持っている。

 桜を見ることをやめると、そらは、あおの(可愛らしい)まるっこい文字がたくさん書かれている画用紙を一枚一枚読みながらページをゆっくりとめくっていた。

(あおは自分の画用紙を一ヶ月ごとにまとめていて、それを一年ずつ保管していた。一日一日の日付もちゃんと書いてあった)

 ずっと騒がしかったのだけど、今では家の中はすっかりと静かになった。

 あおのお葬式が終わって、少し前に、あおのお父さんやお母さん、それに親戚のみんながいなくなったところだった。

 そこにいるのはそら一人だけだった。

 そらはあおの画用紙を読み終わってそっと画用紙を閉じた。

 活動限界がきます。

 そんな自分自身の声が体の内側から聞こえる。

 そらは自分の座っている姿勢をできるだけきちんとした座りかたにする。

 カウントを始めます。購入者にそのことを伝えてください。活動停止まで、六十秒。五十九秒。……。

 三秒。二秒。……。

「一秒。……、零」

 と、小さな声で、そらは言う。

 その瞬間、そらの世界はあっという間に、(まだ午後になったばかりなのに)真っ暗な夜になった。

 おやすみなさい。そら。そんな(一度も聞いたことのない)あおの声が聞こえた気がした。

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