重力井戸の底

@al_qamar

第1話

「準知的生命体を発見、楽園プロトコルを開始します。」


西暦2036年のあの日、おびただしい数の宇宙船が空に浮かんでいた。私も、歴史的瞬間の目撃者となった。ふと車窓から、激しい光が降り注いだ。


信じられなかった。

私は敬虔な聖教の信徒だ。経典から導き出される限り、宇宙人なんて存在しないはずだ。私の中で、何かが千切れたような痛みを感じた。

法王は経典の解釈を改め、「神は、人とともに異星人を創造された」...とした。


事実は事実だ…

だが、真実はいつも事実の裏にある。


私も、屈辱的なことに経典の解釈を変えざるを得なくなった。

そう、法王とは真逆の解釈...

「異星人は悪魔である」と。


宗教権力は地に堕ち、退廃的な価値観が浸透しようとしている上に、宇宙人が来た。

「神よ、私はどうしたらよいのでしょうか!」

神が人から離れたわけではない。人が神から離れ、悪魔の手に渡ってしまったのだ。


これから、大患難時代の幕開けだ。


2036.10.6.ミハイル・アレクサンドロヴィチ・イヴァノフ


朝起きたころには、世界は変わっていました。

連日、地球に来たという宇宙人の話で持ち切りです。

私は特に驚きませんでした。

宇宙は広いですから、宇宙人がいることは思えば当然でした。

宇宙人の人たちは、どうやらみんなロボットかなんからしくて、私の小学生の弟が好きそうな見た目をしていました。


祖母は、宇宙人のニュースを映画の宣伝だと思ったらしく、最近の映像技術はすごい。とか言っていました。


宇宙人が来てから数日後、父が機嫌がよさそうな顔をして帰ってきました。父の長話を要約すると、「宇宙人が来て、仕事はやらなくてもいい。さらに良い暮らしをさせてもらえる。」とのことでした。


父がどこまでぐうたらになるのかが楽しみです。


ちなみに、私の学校はあります。


2036.10.12.石川みゆ


この社会は実に面白い生き物だ。

宇宙人が来たのにもかかわらず、それをもう受け入れてしまっている。

いや、受け入れざるを得ないと言った方が妥当だ。


私の研究していたことは、宇宙人にネタバレされた。

ちょっと腹が立ったが、数々の新たな理論を目にしたとき、怒りは喜びに溶けていった。私は今、最高に興奮している!!


正直、宇宙人は頭ではいると考えていたが、心はそれを否定していた。

自分たちが宇宙で唯一の存在でありたい。と思っていたからだろう。

だが、一人よりも二人の方が断然良い。

私の仕事でもそうだ。


私は、ケイ素の友人を心から歓迎する。


2036.10.15 劉忠


「第7126番星「地球」生物の調査完了。プロトコルを続行します。」

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