第39話 バランス

ロイは神殿の中で、徐々に自分の体が変わり始めているのを感じていた。痛みがあった時の全身は、すでに癒え、動くたびに軽さと力強さが増していく。傷ついた体が癒されるだけではなく、体全体が強化されている感覚だ。


「身体が…軽いな」


動かすたびに、自分の体が今までとは違う感覚になっていることに気づく。手足の感覚が鋭くなり、瞬時に動きを制御できるようになっている。神殿の神秘な力そのものが、ロイを強くしているかのようだった。



剣を握りしめ、体全体に力を込めてみると、以前とは違う感覚が全身を駆け巡る。筋肉が瞬時に反応し、全身の力が剣に集中していく。


不思議な感覚だった。今まで感じたことのない力が、ロイの中で湧き上がっている。これまでの自分とは明らかに違う。体が自分の意志に瞬時に反応し、動きが軽くなっているのを感じていた。だが、同時に、その軽さに不安を覚える瞬間もある。


(身体は軽くなったけど・・)

(その分、またコントロールが・・)


そう思いながらも、剣を抜いて一振りする。スターナイトは軽く、まるで風のように手の中で動く。しかし、その軽さが逆に、剣を完全にコントロールする難しさを感じさせる。力を込めすぎると、剣は勢い余って空を切り、動きが過剰になりすぎている。


「ダメだ...!うまく扱えてない・・」


剣の動きがぎこちないのは明らかだ。それでも諦めずに動きを繰り返す。身体は新しい力に適応しているが、完全なコントロールまでには至っていない。ロイは慎重に、確実に、身体の動きを覚えさせるように、剣を振り続ける。


(もっと..もっと..精度を上げないと..!)


一振りごとに、動きを確認し、調整を繰り返す。腕の力を抜き、足の動きを軽くする。剣が自分の動きに応えるようになるまで、何度も同じ動作を繰り返した。


(これでどうだ・・?)


再び剣を振ると、今度は先ほどのようなぎこちなさが消える。体が自然に動き、剣の動きと一体化している感覚がでてきた。だが、それでも完璧ではない。剣の軽さがまだ完全には馴染んでおらず、力を抜きすぎると逆に剣がくうを切ってしまう。


「はぁ、、。」

(まだだな...)


ロイは一息つき、剣を握り直した。スターナイトは彼の動きに応じて、かすかに光を放つ。それはまるで、剣自身が彼にさらなる指導をしているかのようだった。


(スターナイト・・。)

(俺に何かを教えてくれてるのか・・?)


意識を集中させる。スターナイトを共に戦う相棒として身を任せるように、動くべきかもしれない。剣が彼の動きを導き、力を最大限に引き出してくれる感触が、徐々に強まっていく。


(もう一度だ....)


ロイは再び剣を構え、今度は体全体を使って振り下ろす。今度の動きは、以前とは比べ物にならないほど滑らかになる。剣が風を切り、空気を裂く音が耳に響く。そうすると、動きに無駄は無くなり、体の力を最大限に引き出すことができていた。


「よし!これなら・・!」


自身の動きを確認しながら、満足げに頷いた。剣の動きが滑らかになるたびに、体はさらに軽く、そして強くなっていく感覚があった。スターナイトと共に戦うことで、彼の力は確実に成長している。だが、まだ限界には達していない。


(もっと..もっと..精密に)


ロイは何度も繰り返し訓練を続けた。体はすでに強化されているが、それでも満足することはできなかった。彼の中で、さらなる強さと向上心を求めているのだ。それは自分の成長を確信しているからこそ、次の段階へ進みたい気持ちが表れている証拠なのだ。


(俺の体は...どこまで強くなれる?)


自らの成長を感じつつも、足りない部分を見つけ出そうとする。剣技の基礎を固めることは大事だが、それだけでは不十分だと感じていた。ロイの体はもっと成長する余地があり、剣技もまた進化していく。


「共に高みを...」


スターナイトは光を放つ。ロイは剣を振り下ろす。剣は空気を切り裂き、音もなく滑らかに動く。自身の体と剣が完全に一体化した瞬間を感じた。だが、まだ足りない。剣技が完成するには、もっと何かが必要だ。


(何かが足りない....)

(それは...何だ?)


神殿の中での訓練は、彼に新たな力を与えているが、それがまだ全てではないことに気づき始める。この場所が彼に何を教えようとしているのか、まだその全貌を理解できていない。


(もっと...深く)


剣を構え直し、再び動きを確認する。スターナイトの力が体に流れ込み、動きを導く感覚はある。その導きに従い、彼は剣を振り続ける。何度も何度も同じ動きを繰り返し、体に覚え込ませるように。


(この動き…これでいいのか?)


疑念が頭をよぎるが、今は考えるよりも、体に覚えさせることが重要だと感じていた。考える時間は後で十分にある。今はただ、動きを極めることに集中するしかない。


(軽くなったな・・)


スターナイトを振るうたびに軽すぎて、力を込めすぎると過剰な動きになり、力を抜きすぎると制御が効かないため、絶妙なバランスを取ることが求められていた。


(もっと...繊細に)


動きにさらなる注意を払い、剣技を磨き続け、スターナイトの力を感じ取りながら、自分の身体と剣の動きを調整。体全体のバランスが取れ、剣と一体となる感覚が少しずつ芽生えてきた。


動きが滑らかになり、力を込めることなく、剣が自然と体に馴染んでいくが、まだ全ての力を引き出せているわけではない。スターナイトはまだ、全貌を見せていない。


(お前の力は...まだまだあるんだろ?)


今度の動きは、これまでのものとは一線を画していた。空気が裂け、周囲の空間が微かに震える。彼はその瞬間、スターナイトが持つ真の力の一端を垣間見た。スターナイトは、まだまだ底が見えない。この力を解放するために、ロイはさらに成長する必要があると感じたのだった。


「スターナイト...お前の底が見えない」

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