第36話 失敗

 囲まれているロイは、素早く状況を把握したが、敵があまりにも多いため、背を向けないように体を低く構えた。しかし、ワーウルフの群れはそんな事を一切気にすることもなく、一斉に襲いかかってくる。


 ロイは冷静に攻撃を見極め、かわすように動くが、避けるのに精一杯で、反撃ができない。

 また、数の圧力に、少しずつ追い詰められ、ついには背後の木に追い詰められる。


「「「「「「グルルルルルル」」」」」」


(本当にまずい......!)




「ロイ!援護する!」


 攻撃を受けそうになるその瞬間、ガイウスの声が聞こえた。

 ガイウスのパーティが駆けつけてくれたのだ。パーティメンバーはワーウルフたちの注意をすぐ引きつけてる。ロイはその隙を逃さず、一気に体勢を立て直し、ワーウルフの群れに反撃を開始する。


「助かった、ガイウス!」


「気にするな!一緒に仕留めるぞ!」


「ああ!頼む!」


 ガイウスのパーティメンバーで、ジョブスキルが『弓士』弓使いの男性、『魔術師』の女性、『盾士』の男性、『槍士』の女性が一斉にワーウルフに攻撃を仕掛ける。


「ふん!」

「くらえ!」

「燃えなさい!ファイヤーアロー!」

「ぶっとべ!この犬どもが」

「死になさい!ドブ犬ども!」


「「「「ギャッゥゥゥゥ」」」」


 ガイウスのパーティメンバーがワーウルフを一気に殲滅せんめつしていく。

 ガイウスの大剣による力強い剣裁けんさばき、『弓士』の華麗な弓の弾き、『魔術師』の綺麗な詠唱、『盾士』の怪力な体当たり、『槍士』の洗礼された槍の素早さ、これを見たロイは、ガイウス達に負けじと、参戦する。


「はぁっ!」


「グギャァ」


 ロイは、モンスターを討伐してきた経験を活かし、独自の動きでワーウルフを倒す。その動きは、まるで剣を持ったちょうが舞い踊るように、裁いていた。


「よし、これで最後だ!」


「ギャォォォッ」


「ハァ...ハァ...」

(ふぅ、、やっと終わった・・)


 そうして、ワーウルフの討伐が終わり、森の中は静けさを取り戻す。ワーウルフの死骸がいくつも転がっており、ロイとガイウスは肩で息をしながら戦いを終えた達成感を噛みしめる。


「ふぅ...なかなか手強かったな」


「そうだな、俺一人だったら危なかったよ」


 ロイは苦笑いを浮かべ、今回の戦いでガイウスのパーティと協力がなければ自分一人では厳しかったことを実感し、自分の弱さを思い知らされたのだ。


「ははは!だろうなぁ」

「ロイよ。もしよかったら、このまま俺らのパーティに入らねぇか?」


「・・・」

「ごめん。また何かあれば、協力はする」

「だけど、俺はこれからもソロでやるつもりだ」


 その言葉に一瞬迷ったが、シアとの約束もあり、パーティに入ると迷惑になると考えた。また、ロイ自身がソロで強くなりたいと思っているのだ。ガイウスは、その言葉に笑みを浮かべる。


「分かってたよ、ロイ」

「お前はそう言うだろうってな」


 そう言ってガイウスは、ロイの肩を軽く叩いた。討伐も完了したため、もう1組のパーティに合流し、皆で、そのまま森を後にし、街へと戻っていく。


 街に戻ると、ワーウルフ討伐の報告をギルドで済ませにいく。

 ロイは、ルルカに心配された事と感謝の言葉を貰い、報酬の大銀貨を多く受け取ると、次の依頼について考えていた。ワーウルフ討伐は無事に終わったが、この先の冒険に対して強さと一層の覚悟が必要だと感じているのだった。




 ワーウルフ討伐の翌日、ロイは再び単独で森に入っていた。今回はゴブリンの討伐依頼だったが、Eランクのゴブリン討伐はこれまでの経験から考えると大したことはないと考えている。今のロイの行動は、少しでも強くなりたいという心の焦りが討伐依頼に向かわせているのだ。


「ゴブリン一匹くらい、すぐに倒せるな」


 しかし、その考えは甘かった。ロイがゴブリンを倒して森の奥へ進んでいると、突然、気配が変わる。

 森の中が異様な静けさに包まれ、何かが潜んでいるのを感じた。


「何だ...?」



「シャァァァァ」


 その声が響いた瞬間、木々の間から巨大なスネークが姿をあらわす。Cランクのモンスター、スネークだ。その姿に一瞬、言葉を失う。


「くそ...こんなところに...!」


 スネークは狙いを定めると、滑らかな素早い動きで一気に突進してくる。ロイはその攻撃を何とかかわすが、スネークの動きは予想以上に速くてキレがあり、逃げ場が限られていた。


「逃げるしかない.......!」


 全力で森の奥へと走り出すが、スネークは執拗に追いかけてくる。そのため、さらに森の奥へと進んでくが、やがて崖に追い詰められた。下には深い谷が広がり、川が流れている。


(行き止まりか・・・!)


 ロイは崖のふちに立ち、眼下に広がる谷底を見下ろす。スネークは鋭い目つきで睨みつけ、逃げ場を失った獲物をじっくり狙おうとしている。崖の下には川が流れているが、この高さは危険すぎだ。しかし、選択肢も残されていない。


(これ以上は..無理だ・・)

(それなら、スネークに一矢報いてやる・・!)

 ロイは、とっさに落ちている石をスネークの顔に向けて投げ、すこし注意が引いたところを、たかのように飛び、スネークに斬りかかる。


「くらえ!」


 しかし、ドンッと音がした後に、ロイの身体が、くの字に曲がる。


「えっ、、、、、ぐはぁっ」


 スネークは、動きを読んでたかのように、尻尾を素早く横に振りながら、ロイを吹き飛ばしたのだ。


 スネークの攻撃で、落下する一瞬、身体が無重力状態のような感覚になるが、すぐに冷たい川の水が全身を包み込み、強い流れに飲み込まれていく。激流に巻き込まれたロイは、意識が遠のき、川の中で流れに逆らうこともできず、そのまま流されていったのだった。

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