第20話 エピローグ(孤独からの成長)
シアが貴族に連れ去られてから、ロイの心にはぽっかりと大きな穴が開いたようで、何をしても埋まらない虚無感が広がりながらも懸命に生きていた。
暗い天井を見上げると、冷たい空気だけで、洞窟の壁が自分の心をますます孤独にさせる。
「どうして..俺は何もできず.…シアは連れ去られてしまったんだ…..。」
ふと、自分が「俺」と言ったことに気づいた。
これまで自分を「僕」と呼んでいたが、
最近になって「俺」という言葉が口から自然に出るようになったな・・。
シアがいなくなってから、心の中で何かが変わった気がする。
この厳しい現実に適応しようとしているのかと考えるようになった。
シアがいなくなったことで、孤独と向き合うことが増え、
俺は心が次第に硬く、冷たくなっていくのを感じる。
朝が来ると、鉱山での過酷な労働が待っていて、重い足取りで鉱山へ向かい、ツルハシを手に取る。
体の痛みは日を追うごとに増し、シアがいた時のほうが、楽だったのかもしれない。
「シアがいたら、もう少し楽だったのになー。」
そう思いながらも、ツルハシを振り下ろした。
その時、手のひらにできた豆が裂け、鋭い痛みが走る。
顔をしかめながらも、ツルハシを離すことせずに痛みに耐え、自分の弱さに打ち勝つように働く。
昼食の時間になっても、食事を取る気になれない。配られた硬いパンを見つめながら、シアのことを思い出す。シアと一緒に食べたあのパンが、今はただ苦いだけのものに感じる。
「どうして…こんなことになったんだ…?」
俺はパンをかじることもせず、ただじっと見つめていた。
その時、他の奴隷たちの話し声が聞こえてきた。
「なぁ、あのガキ、まだ生きてるのか?」
「ああ、でもそのうち死ぬだろうさ。こんな生活、耐えられる奴なんていない」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが切れた。
ツルハシを握りしめ、立ち上がった。
「俺は…死なない。死んでたまるか、絶対に」
それは、俺の誓いだった。シアのためにも、家族のためにも、
そして何より、自分自身のために。必ず生き抜くことを決意した。
それから考え方が大きく変わる。
一人称を「俺」に変え、自分を強く奮い立たせるようになった。
「俺」という言葉は、「僕」よりも力強く、決意を感じさせる。
その言葉を使うことで、少しでも強くなれるような気がした。
「負けん」
毎朝そう言い聞かせながら、鉱山での労働に立ち向う。
体中の痛みは相変わらずだが、その痛みすらも成長の証だと思う。
手のひらの豆が破れ、血がにじむこともあるが、この痛みが生きている証だ。
日が経つにつれて、体力も少しずつ戻っている。
俺はツルハシを振るうたびに、筋肉が強くなっていくのを感じた。
体の痛みが少しずつ和らいでいく中で、自分が変わり始めていることに気づく。
「俺は…必ず強くなる」
その言葉が、生きるための唯一の支え。
俺は自分を信じ、前に進むことを決意していた。
冬の寒さが厳しくなると、鉱山での生活はさらに過酷になる。
寒さが骨まで染み込み、食べ物も減るが、薄い布で体を包み、寒さに耐えながら働き続けた。
「寒いな…だけど、これも試練なのかもな...。」
一日一日が生き抜くための戦い。
俺はこの戦いに勝つたびに、自分が少しずつ強くなっているのを感じ、
少し喜びに浸っている。
春が訪れると、体も心も一段と強くなっていた。
他の奴隷たちと同じように働きながらも、強さが芽生えた事に高揚している。
俺は、もう弱い頃の「僕」ではない。
自分の力で生き抜き、自分の力で未来を切り開こうとしている強い「俺」だ。
夕方、鉱山での労働を終え、洞窟の外に出る。
夕焼けが空を染め、太陽がゆっくりと沈んでいく。
その美しさに心を奪われながらも、ふと立ち止まり、空を見上げた。
「シア、生きててくれ..。」
あれから、時間の流れが速くなり、月替わりも早くなった。
夏が近づき、鉱山の中は蒸し暑くなっていた。
汗が流れるたびに、ロイは生きていることを実感する。
暑さが体力を奪う中で、一瞬たりとも気を抜くことはない。
秋が来ると、鉱山の中は少し涼しくなる。
ロイはその変化を感じ取りながら、体がさらに強くなっていることを実感した。
ツルハシを振るうたびに、筋肉が付いたことを感じていたのだ。
「最近は…心も身体も負ける気がしないなー。」
一年が過ぎる頃、ロイは孤独の中でも成長していた。
自分の弱さを受け入れ、それを克服するために努力していた。
その努力が少しづつ実を結んできている。
孤独でも生き続けた一年の終わり、強くなったことを感じ、鉱山の空を見上げる。
暗い洞窟の中からは見えない・・。
だが、自由な世界が広がっているはずだ・・・。
「必ずあの空の
そして、この言葉が・・。
新たな物語の始まりになるとは、思ってもいなかった.…....。
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