第19話 無慈悲と決意

ロイとシアは日々頑張っていた。


 そんなある日、鉱山の中の空気が張りつめていて、

 何故かいつもより監督者の目が、鋭く光っている。


 異様な雰囲気が漂い、奴隷たちもそれを感じ取り、

 無言で作業を続けていた。


 ロイもこの状況がおかしいと感じ、

 シアの方を見て、小声で話しかける。


「シア、何か変だね」


「うん…何か張りつめた空気と変な雰囲気してるね」


 シアも周囲を見回しながら返答し、

 二人は作業を続けながら、異様な空気を警戒した。



 昼過ぎ、突然監督者が大声を上げる。


「おい、そこのガキ!出てこい!」


 シアが驚いて振り向くと、監督者が自分を指さしていることに気づく。

 シアは顔が青ざめ、僕は心臓が跳ね上がる。


「シア、どうしよう….?」


「わからない…でも、行かなきゃ…」


 僕が動揺しながら言うと、シアは震える声で答え、

 ツルハシを置き、外に向かった監督者の所に、ゆっくりと歩き出す。


「待って、シア!」


「僕も一緒にいくよ!」


 僕の呼び止める声に、シアは否定の言葉を掛けてくる。



「ついてきたらダメ!! 」



「えっ!?」

「..ど、どうして?」


「僕は大丈夫だから、待ってて。

 もし一緒に来ると、監督者に何されるかわからないでしょ?

 それに、ロイが傷つけられるかもしれない思うと、いてもたってもいられないから......」



「だけど、それは僕も同じで....」


「大丈夫だから。.......お願い....信じて....」



「..わかった.....」



「ごめんね....」


「ううん、できるだけ気を付けて....」


「ありがとう..。すぐに戻ってくるね」


 その後ろ姿を見つめながら、何もできない自分に苛立ちを感じる。


(どうか無事でいて….)


 僕は心の中で祈りながら、シアの背中と歩く姿を見守った。

 シアは振り返らず、そのまま洞窟の外へと消える。


 その後の作業は、僕にとって拷問のような時間だった。

 心配と不安で胸がいっぱいになり、体が鉛のように重く感じる。

 シアがいないことで、鉱山の空気はさらに冷たく感じた。


 夕方になると、ようやく作業が終わり、他の奴隷たちと一緒に洞窟の寝床に戻ったが、

 シアの姿はどこにもない。苛立ちと不安で胸がさらに締め付けられる。


「シア…どこに行ったんだ…?」


 夜が更けると、監督者が洞窟に入ってきた。

 彼は無表情で、奴隷たちに向かって冷たく言い放つ。


「今日からあのガキはここには戻らない。あいつは貴族に買われた」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の心は一気に凍りつく。


「そんな!!…..シアが!?」


 頭の中が真っ白になり、何も考えられない.....。

 シアがいなくなるなんて、想像もしていなかったのに.....。

 僕は震えながら監督者に話しかける。


「シアは........。

 .....シアは....どこに......どこに行った..のですか?..」


「ふん。俺がそんなこと知るわけねぇだろうが。」


「そんなことより、明日もきっちりやるんだな」


「わかったか、クソガキ?

 わかったら、さっさと、どけぇ!!」


 監督者は、無慈悲に突き放す。



 少し時間経つと、涙がこぼれ始める。


「シア…お願い...戻ってきて…」

 その願いが届かないことをわかっていても、

 そう呟かずにはいられなかった。


 シアがいなくなったことで、深い喪失感に襲われ、

 自分にとってどれほど大切な存在だったのか、さらに気づかされる。


「僕は..どうすればいいんだ…?」


 呆然としたままその場に座り込み、シアがいなくなった鉱山の夜が、

 これまで以上に暗く、冷たく感じられた。

 シアの笑顔や声が頭から離れず、胸が痛んで仕方がない。


 夜はほとんど眠ることができず、シアのいない現実が、どうしても受け入れられない。

 戻ってくるのではないかと、何度も目を覚ましては周囲を見渡した。


「シア…僕たち、約束したよね…?」


 涙を流しながらつぶやく言葉は、むなしさをかもし出し、

 洞窟に響き渡る。




「シア..会いたい。

 今すぐ会いたいよ...こんなのは嫌だ......。」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 ・・・・・・僕は・・・・。



 ・・僕は・・・。



 僕は・・。


 諦めたくない!



「僕は絶対に諦めない!」



 気づけば、僕は声に出していた。


 自分の心の声が、気持ちを満たしていく。


 僕は強く誓う。

 シアとの再会を果たすために。


 涙をく。

 どんな困難にも立ち向かうために。



(シアとの約束......もう一度、シアに会う。

  そして次は絶対に守る。.....そして...自分自身も強くなる!)




 そうして、僕は誓いを心に刻み、

 シアと再会を果たすため、立ち上がることを決意したのだった。

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