滅ぶべくして滅んだ無秩序インフレ異世界に放り出されても困るんだよ!

不明夜

第1話 そりゃそうなるよ神様よ

 俺の名前は三上みかみ砂翔さしょう、享年21。死にたてホヤホヤの大学生だ。

 大学からの帰り道、スマホを見ながら歩いていたら、おそらく信号無視をしたであろうトラックに轢かれて死んでしまった。

 俺がスマホを見ていて赤信号に気が付かなかっただけの可能性もあるので、あまりトラックの運転手を責める気にはならない。


 日本における交通事故の死者数は年間3000から4000人程らしい。無念も未練も腐るほどあるし、ソシャゲのガチャ石も冷蔵庫の中身も腐らせてしまったが、運が悪かったと諦めるしかないのだろう。


 そして、常識として。

 


 何故、なんて疑問は意味をなさない。そういうものだからだ。

 善人は死せば天国に、悪人は地獄に。

 地獄の中でも犯した罪で行く場所が変わるだろう?


 だから、交通事故で死んだ奴限定のあの世、冥界があっても変じゃないんだ。


「分かったかい?そろそろ分かってくれないと神、困っちゃうな」


 ––––––––正直に言おう、分かるかいボケ。


 改めて。 

 俺の名前は三上みかみ砂翔さしょう、享年21。

 死んでも不思議と意識は消えず、地獄でも天国でもなく企業の会議室みたいな場所に流れ着き、異常なまでに髭と白髪が伸びた『私が神です。どっからどう見ても神です』みたいな奴に説明されている。


 何を説明されているのか?

 そりゃ当然、これから行く羽目になる異世界についてだ。


「あー、頑張って口頭で説明して頂いているのは有難いですよ?でもね、分からないのよ。無理なの。固有名詞の説明に固有名詞を出されても分からないんですよ!」

「……それに関しちゃ悪いのは神じゃないな。君より前の転生者達のせいだ」

「それもだ!俺が納得出来てないのは!そ、れ、も、だ!」

「え?何か変な事言ったっけなあ」


 何も映っていないプロジェクター用スクリーンの前に立つ自称神は、手を顎に添えて小首を傾げる。動作で可愛げを出そうとするなよ。

 第一なんで神の間(仮称)の見た目が会議室なんだよ。雲の上に机だけあっても、六畳半のワンルームでも文句は当然言ってたが、それにしても何故会議室。

 座りづらいパイプ椅子をどれだけ並べようと、バカでかいプロジェクターを配置しようと、ここは死者と神で一対一マンツーマンだろう。意味がない。


「なあ神。神様よ。不敬だろうが俺は何度でも言うぞ、どうして交通事故で死んだ人間全員にチートスキル渡して異世界に飛ばした!?」

「クライアントからの要望だったのさ、死因別に冥界を作った方が死者の話も弾むし管理も楽になると」

「はあ」

「そしたら神の同僚……あ、今の神は一人称ね。でも二人とも種族は神」


 知らねえよ、そう口から溢れそうになる。

 何なら『知らね』くらいまで出てた気さえする。

 神って種族だったのかーとか同僚居るのかーとか、話す度に疑問点が増えて行く。


「で、その同僚神が言ったのよ。異世界転生って面白いよねって」

「はあはあ。……それで?」

「それだけだけど?」

「つまり、思い付きだけで年間4000人にチートスキル渡して異世界に放り込んだと」

「10年くらいやってるから、40000人は送り込んだかな」


 ガッデム!!!

 

 おお神よ、もし本物の神がこの世界に居るというのなら、目の前の能天気お気楽ジジイに天罰を喰らわせてやってくれ。ついでに元凶の同僚も天罰を受けてくれ。

 

「さて……じゃ、改めてお願いするよ。好きなスキルを一個作ってあげるから、ざっくり40000人の転生者をもう一度殺してくれるかな?」

「嫌です!!!!!」

「これ以上拒否するなら、神にも考えはある。ここに飲みの席で考えたスキル『ゲーミング』があるんだけど、これを持って転生してもらう。効果は凄いぞ、なんと体を約1680万色に光らせる事が––––––––」

「謹んでその話お受けさせて頂きます!!!!!」


 漢三上、得意技は変わり身と裏切りと自己保身。

 ここでちゃんとチートスキルを超えるチートスキルを入手し、気ままにスローライフと行こうじゃないか。

 40000人中の10000人くらいが同じ事を考えていたら土地が消えていそうだが、それはそれ、これはこれ。

 スローライフとは名ばかりの領地争奪戦が始まっていたら、潔く一番強そうな転生者の下に就くとしよう。


「オーケー、物分かりが良くて助かるよ。じゃ、どんなスキルが欲しい?」

「んー……定番だけど『クラフト』とか。材料集めたら何でも作れる」

「それだと300人くらい持ってるけど、大丈夫かな?」

「よし違うので。『スキルコピー』、『モンスターテイム』、『チャーム』、この辺は?あとナチュラルにめっちゃ剣術凄いとか魔法全部使えるとか」

「どれも約100人ずつ居るね、間違いない。神、その辺のスキルめっちゃ渡したよ」


 その後も無意味な問答は続いた。俺が思い付く限りのスキル名を出し、神はどこからともなく取り出したタブレットで名簿を見ては、何人がそのスキルを持っているか確認して伝えてくる。

 自分と同じ思考回路の人間が何人いるかテストの様なものだ。

 想像以上に精神の削れ方が半端じゃない。


 無敵で地面も空も泳げてビームも出せるサメを召喚できるスキル持ちが3人居た時点で、俺は考えるのをやめた。


「……もうさ、単純に無敵になるスキルとかないの」

「うーん、『絶対回避』も『完全無敵』もあるけど、それを掻い潜れるスキルも無数にあるかな。というか、そんなに言うならもう『ゲーミング』で良くない?」

「仕方ないだろ、来世の命運を悪ふざけで決めたくない。主人公にはなれないしなる気もないが、せめて最初に死ぬモブになるのだけは回避したいんだ」

「そんな強欲な君にはこれ!これが嫌なら『ゲーミング』で行ってもらうからね!」


 この場に於いて優位なのは、間違いなく自称神の方だ。なにせ、俺は来世を握られている。

 一回『異世界とかいいので現世に帰してくれ』と言ってみたが、『地獄に行く人が現世に帰りたいって言っても聞く訳ないでしょ?同じだよ』とド正論を喰らって終わった。


「運命のスキルは……これ!」


 どこからともなく、わざとらしいドラムロールが流れる。

 会議室の電気が明滅する。プロジェクターが光を放つ。

 ……置物じゃなかったのか。


 スクリーンにでかでかとスキル名が映し出される。

 俺知ってるぞ、あれ無料フォントだ。



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