第7艦隊の艦長ゲーム世界に転生~超弩級AI美女アルセウスを添えて~

@tobu_neko_kawaii

プロローグ

 宇宙統合機構ミスレール黄星雲カースーン星域防衛艦隊第7艦隊の艦長として俺は数百年の経歴を持つ。


 外宇宙から現れたスライムとの戦いで断層の壁を吸収され、やむを得ない状況で俺は緊急離脱システムを起動させた。この数百年における俺の経歴には緊急離脱システムは一度たりとも使ったことが無かった。


 まさかその一回で俺が第7艦隊のAIのアルセウスが使っていたマテリアルボディーと一緒に艦外へとはじき出され、そのまま黒い塊に吸い込まれるように死亡した。


 そのまま死んだ、そう思っていたのに気が付くと俺は見たこともない部屋で見たこともない赤の他人に起こされることになった。


 彼女は俺のことを兄であると言い、俺はその子の名前さえ分からないままに自分の名前が口から出ることはなかった。


 彼女の言葉を信じるなら俺の名前は【高宮たかみや優真ゆうま】といい、16歳の高校生でしかも冒険者育成学園の学生であると言う。


 高校生でも冗談に聞こえたのに加えて冒険者?その育成学校?この子は何を言っているんだ。


 そう思いながら俺はそのまま彼女に鏡を突き付けられて顔の傷を指摘された。その鏡に映る姿は本来の俺ではなく、彼女の言うように高宮優真に間違いなかった。困惑する俺に彼女は顔の傷は中学生の時に彼女を守って付いた傷らしいが俺としては記憶がない。


 傷を忘れたことに彼女は酷く傷ついた様子で部屋から出て行く。俺はそのままベットに横になると自身の視界内に艦長時代に何度も使用したUIが表示されていてすぐにそれを使用しようとする。


 現れたアルセウスとの通信に頭の中で声を響かせた。だが、それは一方的なものになっていて俺の声は聞こえないようでアルセウスは勝手に話をし出した。


『聞こえますか?艦長さんですか?私は……阿野村あのむら和香のどか、私はあなたが誰なのか知りたい……そして私が誰なのかを――』


 通信は直ぐに切れてしまったが、間違いなくアルセウスの声で彼女は【阿野村和香】と高宮優真と同じ語感の名前を名乗り自身を誰なのかを忘れているようだった。


 彼女も俺と同じように別の人間の体に意識が入っているのでは?これは壮大な電脳空間で精密がゆえにリアルなのでは?と俺は考えるようになる。


 ただどこまでも現実であると思わせられることがすぐに起きてしまう。高宮優真が付き合っている幼馴染が訪問してきたのが始まりで、彼女は同級生らしいが覚えていないし今日が休日でデートの約束をしていたなど知らないし、しかも彼女が泣きだしてそれをなだめるために彼女に性交渉を持ち掛けられて、強引にベットで始まりその快楽や体温感情の変動はどう考えても現実そのものだった。


 幼馴染と話を合わせて帰した後、妹が部屋の中まで入ってきて服を脱ぎ始めた時は思考がマヒする感覚を始めて覚えた。妹は血がつながっているのに既に高宮優真とそういう関係になっていて、日ごろから幼馴染を裏切り二股をしていたようだった。いや厳密に言えばどちらを裏切っているのかはその時には分かるはずもなかった。


 強引に妹と幼馴染の二人とそういう関係を終えた俺は自身の体のステータス画面が見えるようになっていることに気が付いた。そこに記載されている【高宮優真】という文字とDNAの変質による強化身体の文字。強化身体とはつまりナノマシンによる強化体であることを説明欄から読み取った。


 本来の高宮優真と妹は血のつながりがあっただろうが、強化体である今はDNAが変化していることで近親ではないと何故かほっとしてしまう。そもそも俺が所属していた宇宙統合機構の法では近親相姦の禁止はされていないため、罪悪感など感じないはずなのに今感じているということはつまり、やはりこの体は高宮優真という一人の人間のものだったということは間違いない。


 モヤモヤしたまま母親と対面し食事や風呂などを終えてボロが出ることなくその日は色々まだあったが、ようやく一日を終えることができて眠りにつくことができた。


 そして翌日、制服を着て冒険者育成学園へ登校すると校門前で体に電気が走る感覚に襲われる。すぐに攻撃であると思ってしまうのは元艦長だったからだろう、だが実際にそうなってしまったのは校門前に立っていた一人の女性のせいだとすぐに理解する。


 銀髪のあまりにも目立つ青色の瞳、スタイルは奇跡的なまでによくまるでどこか周囲との違いがあるせいで浮いている女性。あまりに急に電気が走ったためにすぐに気が付かなかったが、彼女の頭の上に見慣れたUIが俺の視界内に映し出される。


 UIには【個体名アルセウス】の文字がはっきりと見えていて、おそらくあちらもこっちの個体名を認識しているであろう視線を感じた。


『見つけた――』


 出会ったその銀髪の美女がアルセウスだとすぐに気が付けなかったのはその表情の緩さからだろう。だが、彼女もまた自身がアルセウスであるという認識がないままに俺を艦長と認識している状況に陥っていた。


 子どもの頃から普通の少女として暮らしていた彼女はあの休日の日から急に視界に見たこともないものが見えだして最初は恐怖したのだそうだ。だけど、その中でも知らない文字が読めるようになったり、知らないはずの知識を知ることができたりして自分の声と同じ声で録音された音声を元に自身が特別な存在であることを認識し始めたのだそうだ。


 才色兼備の阿野村和香と高宮優真が校門前で見つめ合う様子はかなりの人に見られていたし、幼馴染にも隣接する中学に通う妹にも目撃されてしまっている。


 そしてアルセウスのデータから阿野村和香が知ったこの世界について俺は知ることになる。それはこの世界がとあるゲームの中であること、主人公たちが卒業した年が現在であることを知らされて困惑する。


 ゲームの中であり、アルセウスである阿野村和香と俺である高宮優真にはナノマシンによる強化体になっている事実。これらから始まる俺の学園生活は冒険者を目指すものではなく、ゲームの悲惨な結末の回避に向けて行動することになる。


 幼馴染と妹と阿野村和香とゲームのキャラクターたちと誰でもない高宮優真との複雑な物語はまだ始まってもいない。

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