第15話 何かを企む人がいるので
サラは兄を見送る時間より前に来てくれた。
「デイヴィット様、私にお任せくださいな」
兄に向って穏やかに微笑むサラとそれを見てなぜか悔しそうな顔をしている兄。本当にあの二人は相性が悪いようだ。
「……よろしく頼む」
サラが頷いて答える。そこまで深刻な話でもないだろうと思うが、二人の今生の別れのような雰囲気に何も言えなくなる。
「……サラ嬢、念のためにいくつか確認しておきたい」
「わかりました」
段取りを書いた紙を広げて何やら話し込み始めた兄とサラ。
サラ同様、兄の心配性は今に始まったことではないので気にしないようにはしているが、それにしてもいつにも増してすごい。
なにかあるのだろうか。
「レイ」
こういう時は兄に聞いてもごまかされて終わる。サラも結託している様子なので、彼女に聞いても無駄だろう。
レイは真剣に聞けば答えてくれる。そう思ってレイを見ると、困ったような顔で首を横に振った。
「すまない。あの二人に恨まれるから言えない」
「……危険なことではないの?」
レイは何度も首を縦に振る。
「それは大丈夫だ。見てみろ」
レイの言葉に、もう一度二人を見る。真面目に話し合っているのは確かなのだが、どこか楽しそうに見えてくる。
「何か企んでることは確かみたいね」
「……ノーコメントで」
やってしまったという顔を隠すことないレイ。この様子なら、特に心配することはないようで安心した。
********
「根拠はないけど、心配なものは心配なんだ」
そう言って後ろ髪をひかれている様子の兄は同じく心配そうな顔をしているレイに馬車へ押し込まれていた。
「それはオレも一緒だ。できるだけ早く帰れるよう調整する。これはグレン殿下も了承してくださっただろう?」
「でも彼、来なくていいとは言わないんだよ」
「外交的問題なのはわかるだろ」
二人して小突きあいながらも、私たちに手を振って、馬車の扉は締まった。
ゆっくりと動き出す馬車を手を振って見送る。
視察に行くガラス工房は王都の南西に位置する職人街の中にある。パラディオのガラス職人の技術は各国に誇れるものだ。周辺各国に留学して回ったルーク殿下はそう確信したらしい。
ラクシフォリア家の屋敷とは同じ王都内でも、距離があるのですぐには帰ってこれない。兄の懸念はそこが大きい。
第二王子派は完全に抑え込まれたわけではない。第二王子派にとって、イアンの元婚約者であり失脚のきっかけとなった上に、ルーク殿下の功績の足掛かりとなろうとしているラクシフォリア家は、ずいぶん邪魔な存在だろう。
大使のほうに意識が向かざるを得ない、この時期は彼らが動くのに最適なタイミングだ。
それを見越して、ラクシフォリア家は王城で行われる歓迎行事には出迎えに兄が参加するのみで、他は欠席の予定にしていた。
彼らに動きがあれば、すぐに動けるようにするためだ。
ルーク殿下もそれはわかっていたはずだが、テキトーな発言のお調子者なのは昔から本当に変わりない。
しかし、兄は大体のことを何とかしてしまうので、殿下から便利屋扱いをされがちである。
今回も何とか調整して、屋敷の警備を増やしていた。
兄とレイの乗った馬車が見えなくなった。馬車が向かった方向には青空が広がっている。
天気に恵まれたようでよかった。
あと数十分もすれば、パトリシアが頼んでいた品々を持ってきてくれるはずなのだ。雨は少し困る。
私は深呼吸をして屋敷の使用人たちのほうを向く。
「今日はよろしくね」
使用人たちは返事をして、それぞれの持ち場に散っていく。
サラとともに屋敷の中に入ろうとすると、ひんやりとした強い風が吹いた。
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