第12話 妹が見送ってくれたので Side:David
トリトニアの視察に合わせてトリトニアの王子を国賓として迎える。これは第一王子であるルーク殿下が第一線にたって進めていたことだった。
「お会いできて光栄です」
王城の謁見の間、国王陛下とあいさつを交わしている大使を他の貴族たちと並んで遠目で見ていた。
トリトニアとパラディオの交流は、大国トリトニアが発展途上である隣国パラディオに技術支援や物資支援をする形での、国家間の交流が主である。
それに加え今後、民間同士の交流を活発にしていきたいのが、第一王子を筆頭にした親トリトニア派の考えらしい。ラクシフォリア家は窓口としてかなりこき使われ、ここ一ヶ月は準備にあちこち走り回る日々を過ごしていた。昨日は深夜にレイに引きずられるようにしてなんとか帰宅し、やっとの思いで寝室に潜り込んだ。朝起きるとシャルや使用人に二人とも地を這うようなうなり声をあげて寝ていたと心配された。ラクシフォリアの屋敷にはレイの部屋も用意してあるのだ。
レイはトリトニアの外交官なのかトリトニアから出向してきたラクシフォリア家の人間なのか時々わからなくなる。
「いってらっしゃい。気を付けて。帰りを待っています」
疲れた顔をごまかして、正装に身を包み出かける私とレイを見送ってくれたシャルの笑顔を思い出す。
シャルの笑顔で目の下のくまは二割ほど減ったと思っている。
「我が友が愛するパラディオ国を直接訪れる機会を得て嬉しく思います」
謁見の間に大使の声がよく響いた。大使は王太子の息子、グレン、つまり私の
我が友のあたりでこちらに目をやらないでほしい。周りの視線が痛い。
しれっとトリトニア側の列に混ざり、案内役をしているレイもやったなこいつという顔をしている。
トリトニアにいる両親にはシャルの婚約破棄の件を報告した。祖父への直接の報告はしないでいたが、どうせすぐ伝わっただろう。
祖父に伝われば、再従兄弟に話がいくのは時間の問題だ。
若干居心地が悪そうな国王陛下に哀れみを感じるが、文字通り身から出た錆。諦めていただきたい。
つくづく、パラディオ国現国王は小心者であると感じる。息子たちに大胆さを分けすぎたのだろうか。
「視察の案内に彼らも同行する機会がございますので」
助け船のつもりか、ルーク殿下がとんでもないことを言いながら笑う。いつ、私が視察へ同行することになったんだ。
奥にいる宰相も目を丸くしている。王族が思い付きで適当なことを言うな。本当に調子がいい奴だな。父親の慎重さを分けてもらえ。
「おぉ、それは楽しみです」
グレンもいろいろ話したい事があるのですと言って笑う。国王と宰相が冷や汗をかいているであろうことが手に取るようにわかる。
その後も、何も知らなければ和やかな雰囲気、しかし実際は過酷な綱渡りのような会話を繰り広げ、謁見は終わった。
「無事に終わった……」
「……生きた心地がしなかったな」
謁見の間を出た貴族たちがそそくさと逃げ帰るように去っていく中、私の肩には宰相の手が添えられている。
「……どうされました? 私は屋敷で祖父を迎え入れる準備をしなくてはなりません」
何を言われるかは大体わかっているが、悪あがきはしたい。そう思いながら言ってみたが、宰相は鬼気迫る勢いで私の両肩を掴んだ。
「二日後の王都のガラス工房見学に同行してくれ……してください」
「……無理です」
「スケジュール的に厳しいのはわかる。せめてラクシフォリア家の手の空いているものは……」
「いるとお思いで?」
「……いや」
至近距離で宰相の顔を見続けるのはきつい。私はため息をついて肩に置かれた手を慎重に離させる。
「殿下が嘘をついたことになるのは、私も本意ではありません」
「……すまない」
「祖父に相談します。ある程度のわがままは通るでしょう。妹とともに最善を尽くし、明日返答しますので、人をよこしてください」
宰相の顔がぱっと明るくなる。こういう表情はシャルにしてもらいたい。
それにしても、シャルをかなり頼らなくてはいけない状況になってしまった。シャルに申し訳ない思いとともに調子の良い笑みを浮かべたルーク殿下の顔を思い出し、すこし腹が立ち始めた。私たちはパラディオ王家との相性が異常に悪いらしい。
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