第14話 来栖理亜
来栖理亜は牢屋の端に出現していた隠し道を通っていた。でこぼことした道ではあるが彼女には関係ない。
走行の邪魔になるものはすべて魔法による攻撃ではじいている。
そのおかげか彼女の進撃はまったく衰えずすぐに出口に出ることができた。
「劉さん!!」
出てすぐ見つけたのは胸を貫かれて致命傷を負っていた劉の元に駆け寄る。
「………はっようやく来たか」
まだ声が出ることが驚きだ、それもこんなにも強気に出るなんて正直ありえない。
「待ってください、今回復魔法を」
緑色の光を手に込めて劉の胸に当てる。だがそれをとがめるように来栖理亜の手を払った。
「ちっ、そんなもんはいらねぇ心臓は消し飛んでる、今は魔力を血に変換してぎりぎり生き延びてるがなくした臓器は回復魔法じゃ治せねぇだろうが」
「………っ一体誰に」
「………そうだなぁ、そこのクズさ」
劉は顎を動かし腹を切り裂かれて絶命している天才守を指す。
「守さん………」
彼も決して悪い人ではなかった。ただ正義への異常な執着があっただけだったんだ。そしてそんな人が神宮寺郎に恩を感じていた。
さらに神宮寺郎の脱走………これだけの情報があればこの状況になった流れを理解できた。
「ちったくっ最後の最後に根性見せやがって」
悪態をついているものの劉の顔はどこか晴れ晴れとしていた。
「俺ぁ死ぬ、だから来栖理亜、お前はこいつをもって神宮寺郎を追いかけろ」
「これは」
劉から手渡されたのは少しごついスマホのようなものだった。
このごつごつとしたものは魔力探索機、対象の魔力を覚えさせれば死ぬまで追いかけることができるというものである。
「頼んだぜ」
「劉さん、あなたはかっこつけたがりですね」
「つけたがりじゃねぇ、俺はかっこいいのさ」
「っ………今までありがとうございました」
「さっさと行きやがれ、てめぇにいつまでもいられちゃ気持ちよく寝れねぇだろうが」
「はい、了解しました」
来栖理亜は劉を背に走りだす。
彼の死に際は決して看取らない。彼の覚悟に免じて彼女は背を向けるのだ。
劉は来栖理亜が行ったのを確かに確認した後天を仰ぐ。
「けっ俺ぁもうちっと生きていたかったんだがなぁ」
その言葉はもう誰にも届かなかった。
・
「はぁ!はぁ!はぁ!」
一体どれほどの時間走ったのだろうか。ただまっすぐに道を走り続けた神宮寺郎は前に一つに人影を見た。
「雅か」
「神宮司!!!」
その人影は竜胆雅であった。活発で目にいつも炎を宿していたはずの彼女はその光をなくし深い隈を浮かべている、それにげっそりとしていて頬がやつれている。
もうあのときの竜胆雅はいなかった。
髪はぼさぼさで四方八方に飛び跳ねている。服も泥だらけで腕や足にほんの少しの切り傷を残している。必死になって生きてきた証なのだろう。
「お前、また無理したのか?」
神宮寺が近づいてきた竜胆雅の腕をさする。
「大丈夫気にしないで、それより早く逃げよいつ襲ってくるとも限らないから」
「………あぁ」
さりげなく神宮寺の手を握った竜胆はさらに道を進む。でもいつかのあの綺麗な笑顔はもう彼女からは消えていた。
ただ暗く、そしてどこか恐ろしい、何かに憑りつかれたような不気味な笑みを浮かべるばかりだった。
「ここを曲がる」
「そしてここの壁を乗り越えて」
「この道の突き当りを左に」
竜胆雅はその目的地とやらの場所が頭に入っているのか全く迷うことなく道を歩んでいく。それに頼もしさを感じるものの神宮寺はどこか嫌な予感を感じ取っていた。
(何か、上手くいきすぎてやいないか?)
それは今までの流れを思い返してみて改めて思ったことだ。
天才守を連れて抜け道を通る、そして抜けた先で竜胆雅と合流する。
その間で特に障害らしい障害は一つもなかった。幹部じゃない一般警備の人が神宮寺を見つけることすらなかった。
なんのトラブルもなくここまで来ているのだ。何か嫌なものを感じるのも無理はない。
でもその嫌な予感を感じながらも人間という生き物は自分にとって都合がいい選択をしてしまうものである。
だから最悪な結果を引き寄せてしまった。
「私はあなたを殺したくはなった」
「「っ!!!?」」
冷たくおどろおどろしい声が彼らの背後から聞こえてきた。
全身の身の毛がよだつような圧力が竜胆雅と神宮寺郎にかかる。
(あぁ死ぬのか、俺は)
そう瞬時に思わせてしまうほどの絶望を彼女は持ち合わせていた。
「あなたと話せたこの一か月悪いものではなかったわ、私のジョークにあんなに突っ込んでくれる人はあまり出会ったことがなかった」
動きやすいように作られたらしいすらっと伸びたワンピースは純白であり、天使かと見違えるほど似合っている。
日本では珍しい青髪をセミロングに垂らしている。最近は色々なアレンジを加えているのか髪の端にチワワの顔写真をくっつけたヘアピンをつけている。
「来栖、理亜っ」
神宮司から向けられた視線は決して好意的なものではなく警戒色の強いものであった。
「………そんな目をあなたから目を向けられるのは、少し堪えるわね」
それは神宮寺郎を傷つけたくないという彼女に残った最後の良心。
「………あんたは」
「そう、竜胆雅あなたがいるのね」
そして神宮司以外の恐怖の混じった視線を向ける人が一人。その人間は強く神宮寺郎の手を握っている。
それを見て来栖理亜は一度目をつむった。
「なら大丈夫よね、あなたたちはきっと天国でまた出会えるはずよ」
彼女は冷酷にその良心を潰した。
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