鬱ゲーの大量の死亡フラグを持った悪役に転生した、頑張って死亡フラグを折ろうとしてるのになぜか無限に増えていく

@rereretyutyuchiko

第1話

「こんなイケメン俺じゃない!」

目が覚めたら読モも夢じゃないような超絶イケメンになっていた。


ツンツンとした赤髪に目つきの鋭い獣のような瞳、すっと真っ直ぐに伸びた鼻に大きくもなく小さくもない唇、180はあるだろう長身は日本では無双できるようなルックスだ。


多分俺はこの男に転生したのだ。


いやまぁ納得はできないし、したくもない。俺はぬくぬくした布団の上でネット小説を見るだけの人生でよかったのだ。なのに目が覚めたら急にこんな顔になっていた。


もうまじでなんなの。


いやさぁ、俺もこれが普通の転生だったらなんとか小一時間悩んだ末、このスペックに納得して前向きに生きることを許容したと思うけどさ、この男だけは違うのだ。


鬱シナリオゲー「ドラマフテイラ」、これは一部のオタクたちの間だけで流行ったゲームで、肝心な内容はくそだ。そんなゲームの悪役として現れるのがこの俺”神宮寺   じんぐうじろうだ。


こいつはまぁとんでもない男で、基本的に主人公に敵対意識を持っている。子供のころは幼馴染として仲良くやっていたみたいだけど、次第に誰とでも仲良くなれる主人公と自分を比べてしまい劣等感を持っていく。


そのせで歪んでいった神宮寺は主人公と敵対していくこととなる。


この世界では魔力というものがあり、魔力とは人の中に滞在するもので生まれた時点でほとんどその保有できる魔力の総量は決まっている。


そして魔力を消費して使うことができるのが日本人の夢である魔法だ。


基本的な魔法の使い方としては自然発生する人類の敵”魔獣”の討伐だ。


だが神宮寺は限られた人間しか魔力を保有できないというのにその力を悪行のために使っていたのだ。


それはもうひどいもので主人公の友達である”佐藤大樹”を血祭りにあげて生首を主人公である”小鳥遊累たかなしるい”の前に掲げるのだ、それも大笑いしながらな。


それに主人公と比べて病んだ神宮寺のことを気にかけてくれた生徒会長のことをレ〇プしたり、魔獣を見ずしらずの人の家に放ったり、ところかまわず主人公を殺そうとする。


まじで全プレイヤーから嫌われている敵役である。


このゲームのラスボスは神宮寺ではないのだがプレイヤーのヘイトを一番貯めたキャラとして有名だ。


「はぁ、どうしよ」

魔力を持ってると言っても別に最強クラスの力はないし、魔法を扱うセンスもとくに高くない。なんなら小鳥遊累の方が倍は強い。


けど魔力を持っている人が少ない、この一点だけで神宮寺はプライドを守って来たのだ。


にしてもこんな困ったプライドお化けに転生しちゃったらこの先生きづらいことこの上ないよぉ。


しかも急に前世の記憶を取り戻したものだからこれまでの神宮寺の記憶までも引き継がれていた。


………こいつまじでひどい、小鳥遊が頑張って部活に集中してるのに叫んで邪魔したり、小鳥遊に告白してきた女子に恐喝して、「実は嘘でした」と言わせたり、さらには魔力を使って数々の盗みを行っていた。


「もう無理、こっからどうやって挽回したらいいんだよ」


唯一の救いだったのはまだ原作が始まっていないということ。ならまだ死亡フラグが俺を襲うことはないはずだ。


確か原作は普通の人間であった主人公である小鳥遊累が下校中、いつもどおり神宮寺に突っかかられていたとき、突然現れた魔獣により瀕死に追いやられ、魔力に目覚めるところから始まる、人類で初の後天的な魔力発現に成功した例となった。


「あのとき魔獣に襲われた神宮寺が魔獣の爪に当たって胸にひどい傷を負う事になるんだよなぁ」

しかもその傷はかなり深く入れられて、一生残ることとなる。


ときおり胸を抑えて痛がる演出があったからな。まぁでも主人公の前ではそんな態度を全く見せなかったのは気高くて好きだけどな。


「でもそんな古傷を抱えるなんてごめんだ、絶対に回避してやる」

原作開始の日時までまだ時間がある、その日までに魔力を鍛え、たくさんの魔法を覚えることとしよう。そして、あれも今の内にやるしかないだろうな。


と、意気込みながら家の扉をくぐった。


「「あ」」

なんて不運なのだろう、目の前に通り過ぎたのは某主人公小鳥遊累である。


目立つ格好をしている俺とは対照的に短くも長くもない黒髪をなんのセットもなしに垂れ流し、優しそうなまん丸とした目の上に黒縁眼鏡をかけている。そんで俺と同じ制服を着ているが俺とは対照的に真面目に第一ボタンまで閉めている。


「おはよう、神宮寺」

「あぁおはよう」

「!、え、返してくれた」

「あ、やべ」

あまりにノータイムで言われるものだから俺もノータイムで返してしまった。だが考えてみればそうだよな俺は神宮寺累、敵対してるはずの小鳥遊累にあいさつを返すなど言語両断だろう。


………仕方ない、非常に不本意だがストーリー通りに傲慢なキャラを演じつつ、メインキャラ達に敵対されないように動いていこう。


「ふっ気まぐれだ、お前なんぞにあいさつなど返すか」

「だよな、やっぱそういうことだよな」

おい!残念そうな顔すんな!心が痛いだろうが!

「あぁそうだぞ、くそが」

「ははっまたそんなこと言って」

なんでこんなに言われてもお前はそんな笑顔なんだよ、なんなのマゾなの?


「おはようございます神宮寺先輩」

「あ?あぁ美音か、今日もそのくそ重そうなもの持ってるな」

「これは兄さんのためのお弁当です、あなたには関係ない」

俺にそう挨拶してきたのは小鳥遊のそばを歩いていた気弱そうな女性であった。髪は漆黒の黒であり、長さは腰まで達している。


彼女の名前は小鳥遊美音、小鳥遊累の妹である。


重い前髪で顔がよくわからないがその髪をひとたびあげれば超絶美人だ。


スチルで見たときびっくらこいたわ、別人すぎて。


というか、このムーブつらっ、なんでヒロインの一人にこんな敵意向けられなくちゃいけないの?俺はブラコンの美音ちゃんしかしらないからもう心が持たないよ。


「ちっ、おいその弁当よこせ」

意訳「重そうだから俺が持ってあげるね」

「いやです、あなたなんかに弁当は渡しません!」

「そういう意味じゃっ、………いやなんでもねぇ」

くっなんと嫌なキャラなのでしょう、こうも素直になれないとは。


まぁいい少しづつ態度を改めていくか。


「………なぁ神宮寺、お前なんか変わったか?」

「あぁん?なんも変わってないだろ、よく見ろ腑抜け」

「いやいつものお前ならこうやって一緒に登校とかしないのになって思って」

「………気分だわくそが!!」

あ、あぶねぇ、確かにいつもの神宮寺なら悪態をついてからすぐさま退散してたはずだ。


………でもさぁ少しぐらいゲームのキャラと話したっていいじゃん、俺だってそういう気持ちあるんだからさ。


「そうかい………なぁ神宮寺そういやお前寝ぐせ立ってるぞ」

「何?どこだ」

「このあたりなんだけど………」

「あぁ、サンキュ」

「………やっぱお前今日おかしいよ」

「な訳あるかくそが!」

俺の悪役ムーブは善と多難らしい。


と、そんな俺達の会話を妹である神宮寺美音は不思議そうに見つめていたのであった。



神宮寺美音、彼女は魔力をもたない普通の人間だ。だが極度のブラコンで、ストーリーが進むにつれて傷が増えていく累のことを心底心配していた。

だがそこは鬱ゲー「ドラマフテイラ」、癒しとなっていた美音をこのゲームは容赦なく殺す。

無抵抗である美音を犯してから首を切ったのはほかでもない、この俺神宮寺郎だ。うん、まじでくそだね。救いようないね。


まぁ今その神宮寺を操っているのはこの俺だ、絶対にそんなことしない。なんならもう必要以上に関わろうともしない。


そうだな、俺は主人公を魔力に目覚めさせたら後はもう少しづつ身を引いていこう。そうすりゃ死ぬことはないだろう。………多分。


「じゃあ俺の教室はこっちだから」

「知ってるわくそが!」

そこで俺は累と別れ、人だかりができていた廊下を歩こうとすると、一気に俺専用の道路みたいに人だかりは解散された。

「おい、聞いたか?神宮寺のやつまた一年に手を出したそうだぞ」

「何それまじ?最低じゃん」

「あいつと一緒の空気吸いたくないわ」

「「「あぁほんと退学してくんないかなぁ」」」


それがこの学校の総意であった。


はぁ今までにしてきたことがあまりにひどいからこうなるのは仕方ないとしてもやっぱ来るものがある。


「あ!竜胆雅だ、皆逃げろ!」

「「おおぉ!」」


すると俺に向かってくるように歩いてきたのは一人の女性であった。彼女は竜胆雅りんどうみやび、ドラマフテイラのメインヒロインの一人だ。


落ち着いた黒髪ながらも活発さを象徴するようにその髪はポニーテールでまとめ上げられている。きつそうな目つきは俺と同じように人を寄せ付けんとしている。だがどこからどう見ても美少女であるプロポーションを持った彼女は出るところはきちんと出ている。


まさに学校のマドンナってやつだ。こいつに告白して振られた人間が何人いたことだろうか。ちなみに俺もその一人だ。だがこいつにはある欠点があって、今では学校中が恐れる存在となっている。


模試の成績はオール90点台、スポーツ万能、魔法も使えるし、さらにその才能は作中最強キャラの一角と評されている、さらには曲がったことが嫌いという、まぁいうなればお堅い委員長キャラって感じだ。


その曲がったことが嫌いっていうのが災いして、彼女はちょっとしたもめ事でも首をつっこみ問題をさらにややこしくしてしまうことが多くあった。


まぁ別に悪いやつではないから俺みたいに表面的に悪口は言われないが、裏ではかなり言われている。


不器用な人間なのだ、うまく作り笑いをすることもできないくらいにな。


だがたまに崩した笑いを見せる、それがかわいくてオタクたちの間でもかなりの人気を博している。


「あんたは逃げないのね」

「逃げるかくそが」

「ん?何そんなに怒ってるの、まさか根に持ってるの?」

「ちげぇわくそが」

「まぁいいけど、あんたまた問題を起こしたのね」

「それがなんかあんのかよ」

原作でもお互い腫物のせいかなぜか会話が成り立っているのだ。


まぁといっても会話の中身は竜胆雅に注意され続けるのを嫌々聞いてるだけだったが。


「いい?高校二年生ともなったあなたがいつまでもそんな子供じみたことをしているといつか絶対に後悔するわよ」

「はっ、友達の一人も作れねぇようなコミュ障にそんなこと言われたくないね」

「舐めないで、私だって友達の一人や二人くらいいるわ」

「はっ嘘つくな、じゃあラインの友達見せてみろ」

「いいわ、ほらこれを見なさい」

ずいっと雅が見せてきたのはラインのホーム画面、そこには確かにともだち 12、と書いてあった。


「これ、全部友達かぁ?怪しいぜ」

「何?かんぐる男はモテないって話知らない?あんたみたいな犯罪者一歩手前のカスにはわからないかもしれないけどね」

「………はっぼっち野郎がいっちょ前に口回しやがって、あーそろそろ始業だ、じゃあな」

「え………うん、じゃ、あね?」

それだけを言って俺は自分教室に入り、自分の椅子に座った。


俺が入って来た瞬間凍り付いた教室の雰囲気を俺は生涯忘れることはないだろう。うん、すごく居心地が悪い。



そして放課後になった、俺は帰宅部なので速攻帰ることができるのだが、なんと過去のこいつ、その時間を利用して部活中の累に嫌がらせしてやがった。


たくっ、面倒なことを日課にしてやがる、これは今日もやんないと不信がられるよなぁ、くぅまぁいいすぐ終わらせてすぐ帰るか。


「兄さん頑張ってください!」

累はテニス部だ、しかも二年ながら三年を抑えてのエースの座を奪いつつあるらしい。さらには髪をあげれば美人の美音ちゃんをマネージャーにつけている。


うん、これは神宮寺も嫉妬するしかないね。神宮寺は一度美音ちゃんの素顔を見てるからなぁ。


「おぉい美音」

「なんですか、神宮寺先輩」

相変わらず冷たい視線を送ってくるなぁ。


体育着の美音ちゃんの姿をもっと見ていたかったけど、だめだ、この視線を長時間見るなんて今の俺にはできない。


「今から俺がすることをよぉく見ておけよ」

「?はい」

美音ちゃんはよくわからないのか首を傾げた。そんな美音ちゃんを横目に俺は新品のスポーツ飲料のペットボトルを取り出す。


「はっ、いくぜえ!」

ペットボトルのふたを回し、ちゅっとほんの少しだけペットボトルの中身を飲んだ後、蓋をしめ、美音ちゃんに渡す。

「これをよぉ、あのくそ累に渡しとけぇ」

「え、あ、はい」

「はっじゃあなくそがっ!」

俺はすぐさま踵を返す。頭にはてなマークを浮かべている美音ちゃんを背に。



「さーてとっ、魔法の勉強を始めますか」

学校から帰った俺は机の上に魔法についてかかられた本を拡げる。


こいつ、対して才能ないくせに努力すらしてなかったからな、こっから俺が頑張んないと。


「えーとっ魔法とは………」


魔法とは限られた人間のみが使える神秘である、これを口外することは許さず、、もしこの禁忌を犯した場合「魔法統一会」による処罰を行う。


魔法により無害の人間を傷つけた場合も同様である。


魔法で傷つけてよいのは魔獣のみである。


魔法による力には様々なものがあり、物を燃やす、水を作り出す、光線を放つ、爆発を起こす、などは魔法の第一歩目でしかなく、魔法を極めれば人を作り出すことも理論上可能である。


魔法を使うには魔力を使用する。使用する魔力は魔法の種類によって増減する。


魔法を極めろ、汝が後の歴史に名を遺す魔法使いになることを願っている。


「はぁ、なるほどねぇ」

神宮寺の記憶にも魔法について習っていたのは知っていたけど、やっぱ自分の目で改めて見ると感じ方が違うな。


神宮寺はどう小鳥遊累をおとしめるかだけを考えていたから実践的魔法しか学んでいなかったらしい。


けど俺はもっと奥深く魔法を知りたいから魔法の起源に興味を持っていた。


「魔法とは、神秘、ねぇ………」

とはいうくせにゲーム本編では人と人で魔法の技術をめぐった血みどろの戦いとか死ぬほど起こってたけどな。


「すげぇ」

ためしに指に炎を灯してみる。マッチについたような小さい炎が出てくる。


指に炎を灯すのって熱くないのかなってゲームやってるとき思ってたけど案外そんなことはなかった。


ほんのりと指先に暖かさを感じるだけで、熱くはない。


「はっでももっと頑張ないとなぁ」

最強の一角竜胆雅が俺と同じように指に炎を作ろうとしたら小さい太陽ができるだろう。それは出力の問題だ。


それくらい魔力量ってのは重要なのだ。


だが魔力量を格段に増やす方法は存在しない。


………人としての尊厳を守ってる場合に限っての話だがな。


一つだけ、どんな人間も忌避するような魔力量の増やし方がある。


邪道中の邪道、邪道故にその方法を知るのは魔法統一会の人間でも上層部の一部の人間しか知らないようなものだ。


その方法が「魔獣を食すこと」


最悪で醜悪で、見るに堪えない愚行だ。それに致死率15%という危険もついてくる。まぁこの点に関しては特に心配してないんだどね。


でも神宮寺はこの方法をとることによってゲーム終盤まで主人公についていけるようになる。


「………やるしか、ない、よな」

今の内にこの方法をとれば俺が死亡フラグを乗り越えられる可能性が高くなるだろう。


「いくか………」



通常魔獣は夜にしか現れない、長年生きてる魔獣もそれは同様である。


ちかっ、ちかっと夜の街道において不安を掻き立てるように街灯が不安定に点滅している。

首都東京から少し離れた場所にあるここ美住市は人口こそ多いが街のほとんどが住宅地で生成されているため夜の人通りは少なくなっている。


昼には栄華を誇っていたはずの道を若干不安になりながら歩く。


すると、遠くの方から獣のうなり声が聞こえてきた。

「きたか………」

魔獣が日中どこに身を隠しているのかなんて知らない。だが夜になると突然現れる、その性質だけがわかっているのだ。


魔獣は害ある生物だ。魔法以外で殺すことができないくせにあいつらは俺達人間を好んで食べやがる。


「殺すぜ」

俺は短い毛に体を囲まれた狼のような獣に向けて炎を放った。



「ふぅ、さすがは神宮寺、弱すぎるぜ」

俺が戦ったこの狼のような魔獣は多分纏ってた魔力的にあんま強くない部類だ。


RPGゲームでいうスライムぐらいの立ち位置だろう。


だが俺はそんな初期敵キャラのようなやつを倒すのに15分もかかってしまった。多分主人公なら1秒もかかっていなかっただろう。


「格差えぐいよな、ガチで」

俺は完全に絶命し、腹から血を流しているその魔獣を冷たく見下ろす。


………食べなくてはいけない。


この毛だらけの獣を、肉も骨も内臓も、すべて食べなくてはいけない。


「くっ………」

死臭のようなものがただよい始めた、早く食べなくては湧いて出た蛆虫によって食べられなくなるだろう。


いやだ、いやだ、いやだ。


日本人としての思考がその獣を食すことを拒絶する。


けど食べれば強くなる。


いやだ!


たべないと今後死ぬかもしれない。


それでもこれを食べるよりましだ!


俺は食べないといけないんだ。


いやだいやだ!吐き気がする。悪臭もする!こんなの、こんなの食い物なんかじゃない。せめてせめてもっと料理らしくしてくれ!


だめだ、魔獣は殺してすぐ喰わないと意味がない。


やめてくれ!そんな、そんなのって!


俺は知ってるんだよ、今後訪れる最悪の展開を、それを回避するために絶対に必要なことなんだ。


でも、いや、いや………いや、い。


俺は拒絶してきた本能を理性で押さえつける。


そして、くちゃっと一口目を食べ始める。


吐き気がするような獣臭、生々しい血の匂いがする。まだ喰いやすいであろう筋肉ですらこれなんだ。内臓など喰ったときどうなることだか。


だが大丈夫なはずだ。神宮寺にはある才能があった。


それは魔獣をどれだけ食っても死なないという最悪で最もいらない才能があったのだ。


「だい、じょうぶ、大丈夫」

噛むのを拒もうとする口をむりやり動かし噛み続ける。その才能だけを信じて。


「おえっ!」

何度も吐いた、こんなの食い物でもなんでもない。だが食べる。


その吐いたものをもう一度口に運び反芻する。


「あっ!げぇ!」

想像してた通り内臓はやばかった。とくに脳と心臓らしきものにはこの世のどんな食べ物でも形容できないようなえぐみがあった。


「あっ、だい、じょ、

くちゃ、くちゃ、知らず知らずのうちに落ちてきた涙をぬぐいながら食べ続ける。


20分が経過した。


「はぁ!はぁ!はぁ!」

食べ、切った!ひとつ残らず綺麗に食い切ってやったぞ。


未だに胃腸がとんでもないスピードで動いてるのがわかる。今日は一日中トイレにこもりっぱなしだろうな。


「………あれぇ?君なんで魔獣喰ってるの?」

「!、来たかくそアマ」

後ろから聞こえてきたのは絶対に聞きたくなかった、俺の仇敵の声。


後ろにいたのは神宮寺郎を闇落ちさせ続けた張本人、愉悦部所属の魔獣”如月”だった。















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