第17話:ちっちゃい神社
大学の時に同じ学科だった田上さんから聞いた話。
「ちっちゃい神社ってあるじゃん。ビルの間に、鳥居と祠だけ建ってるやつ」
田上さんはネイルを塗りながら話してくれた。学生もまばらな空き時間の講義室。友人の用事が終わるまで暇をつぶしているという。
「うちの犬、ダイコクって言うんだけど、散歩コースにあるちっちゃい神社の鳥居にいつもしょんべんしてくんだよね」
不謹慎って言うか、罰当たりだよね~と、田上さんはカラカラ笑う。
「一昨日も夜中にダイコクと散歩してたら、いつものちっちゃい神社で祈ってるおばあさんいてさ。さすがに目の前でしょんべんさせるのはやばいべって、ダイコク引っ張って素通りしようとしたんだわ」
さすがの田上さんでも、それくらいの常識はあるらしい。
「したらダイコク、絶対やだって動かなくなっちゃって。いくら引っ張ってもらちあかんのよ。仕方ないからおばあさんがいなくなるまで待とうって思ったんだけど、いつまでも手を合わせて動かないのね。ぶつぶつなんか言ってるし気味悪くって」
田上さんは塗り終わった爪にフッと息を吹きかける。
「あんま遅くなったらうちの人に心配されちゃうじゃん? もういいやって思って、ダイコクに任せることにしたんだわ。そしたら、てててって歩いて行って、おばあさんの足元でしょんべんしたの。鳥居じゃなくて、足にかける感じでさ」
田上さんは爆笑っしょ、と大笑いするが、私は全然笑えなかった。
「おばあさんは案の定びっくりして飛び上がって、それからキーって振り向いたんだ。したらその顔、何かドロって溶けてんだよね。上手く言えないんだけど、プラスチックとかを燃やしたみたいに、ドロドロって崩れてきてんの。ダイコクはまだしょんべんしてるし、どうしたらいいか分かんなくてさ」
田上さんはネイルの道具をしまって、何やらごてごて飾られたスマホを取り出す。
「とりあえず『あー、すんません』って言ったら、そのままプシューって一気に溶けてなくなっちゃった。あっ、ごめん。用事終わったって。あたし行くわ」
ここで終わりはないでしょう! 私が慌てて引き留めると、田上さんは「でもそんだけだよ」とあっけらかんとした顔で言う。
「昨日も同じとこ散歩したけど何もなかったし。ダイコクもいつも通り鳥居にしょんべんしてたからね」
田上さんはそのまま、「じゃね、お疲れ~」と行ってしまった。
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