少女
林檎いと
第1話 プロローグ
死ぬまでにやりたいこと100コ
タイトルと、箇条書きの点一つだけ書いて手が止まる。三分間。気分を上げようと買ったハート柄のボールペンの先が、ノートにつくかつかないかの高さで震えている。一旦休憩。
ペンを放って、ノートの横で艶めくプリンに目をやる。いつもの一口よりちょっと少ないくらいの量を、スプーンで崩し取り、口に入れる。木綿豆腐のようなずっしりとした硬さとは裏腹に、舌触りは滑らかで、程よい甘さ。大きく息を吐くと、右手の震えが止まった。
別に、やりたいことがないわけじゃない。将来の夢だってある。だからこそ、昨日本屋で出会った「夢をかなえる方法」を、こうして実践しようとしているのだ。正確には、「起業して夢をかなえる方法」。教育系の会社を設立して、世界の教育に革命を起こすという、なんとも抽象的な夢を持つ私にとって、起業というワードがタイトルに入っている本は、立ち読みがマストだ。
であれば、やりたいことの一つ目に、起業と書けばいい。そんなこと、一週間後に華のセブンティーンを迎える私には、カップ麺を作るより簡単に分かる。だけど、三分経っても、麺が伸びきっても、食欲が湧かない。私はとうとうノートを閉じて、二時間居座ったカフェを後にした。
店を出ると、夕焼けが見える。ピンクとオレンジを混ぜて水で目いっぱい薄めたような、青春みたいな空に、私の鼓動がうるさい。
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