第30話 ヒロインと悪役令嬢
>>>ローゼマリー視点
「上手くいったわね!」
私たちはハイタッチをした。
上手くいったというのはもちろんハルト×エルヴィンの恋の進展だ。
エルヴィンを呼び出したのは一年Aクラスの女子だ。それを私たちはこっそり見ていた。
「呼び出したわね。あの子は伯爵家の子だったかしら?」
「入試は影武者を用意したとか」
「アメリーそんなことよく知ってるわね」
「あの子の頭でAクラスなんて無理ですよね」
「言われてみるとそうね。あの子は騎士に押し付けたから、あとはハルトお兄様がエルヴィンを追いかければいいのよね」
私たちはハルトお兄様が森に駆け出したのを確認すると、そっと後をつけた。
「エルヴィンはどこに行ったのかしら?」
「ハルト様が見つけられなかったら困りますね」
そんな会話をしながら後をつけると、とうとう池の近くでお兄様はエルヴィンを見つけた。
「(やった!)」
私たちは手を取り合って声に出さず口パクで意思疎通をして喜んだ。
「(抱きしめてる〜)」
黄色い声をあげたい気持ちをグッと堪えて、アメリーと共にそっと施設に戻った。
「いい流れね。このままお兄様がエルヴィンの気持ちに気づいてくれるといいんだけど」
「ローゼの話を聞いている限り、エルヴィンの気持ちにも自分の気持ちにも気づいていないようですね。ハルト様の気持ちはどうなんでしょう?」
「うーん、それは気になるところね。なんとなくだけど私に遠慮して気持ちを封じ込めてしまいそうな気がするわ」
「それは困ります。どうにかならないんですか?」
お兄様は私を大切にしてくれているから、『妹の婚約者』であるエルヴィンに手を出すなんて絶対にしないと思うのよね。エルヴィンも何を考えているのか分からないわ。
「エルヴィンはハルトお兄様に夢中なくせに、なぜ私との婚約を解消しないのかしら? 私からは解消しにくいですし困ったわ」
「王妃教育を一緒に受けろと言った時点でもうエルヴィンはハルト様のことが好きだったんでしょうか?」
そこは分からないのよね。
「お兄様は主席を取られた意趣返しと言っていたけれど、本心は分からない。ただし、エルヴィンの出会いイベント以降は完全にハルトお兄様に夢中よね」
私たちは偶然にも同じ部屋だったため、お兄様の動向を確認するために夜中も張っていた。
「コンラートイベントはあるかしら?」
「見て、ハルト様よ」
コンラートもキャラとしては嫌いじゃないけど、やっぱりお兄様にはエルヴィンルートに乗ってほしいわね。
お兄様の後をつけてみると、コンラートと食堂で書類を眺めていた。
「書類整理を手伝うんでしたっけ?」
「進展したって感じはないわね。やっぱり本命はエルヴィンよね」
私たちはそっと部屋に戻り、昼間の森でのことを思い浮かべながら心地よい眠りについた。
「お兄様はエルヴィンを警戒しているようね」
「ハルト様可愛いわ」
うっとりと目を細めて兄を見つめるアメリー。推しを見る目はこんなもんよね。
「エルヴィンを警戒してるってことは、裏を返せば意識しているということよね」
「ええ。悩まれているハルト様が可哀想で可愛い……」
その日は特に進展もないまま合宿にしては緩い感じで一日が終わった。
そして明日はマルセルのイベントね。森でマルセルに襲いかかった魔物からお兄様がマルセルを庇うんだったかしら? 結局あの魔物たちはどうなったのかしらね?
ゲームでは庇っていい感じになるってだけで魔物を倒したのか魔物は逃げていったのか、他の誰かが倒したのかは描かれてなかった。
私とアメリーはお兄様たちを見守るため、森の訓練には不参加と表明して、こっそりとお兄様たちの後をついていった。
「ハァハァハァ、ローゼ、私もう走れない」
「ハァハァ、私も無理……」
なぜかマルセルが暴走して森の奥へ走っていき、私たちも慌てて追いかけたのだけど途中で脱落してしまった。
仕方なく戻ると、返り血を浴びた騎士に背負われたお兄様と二人の生徒、マルセルは騎士に引き摺られるように泣きながら歩いて施設に戻ってきた。
「すっごい気になるわ。何があったのかしら」
「ハルト様はまさか怪我を? マルセルが暴走したせいね。ハルト様を危険に晒すなど何を考えているのかしら。これだから単細胞は!」
アメリーはマルセルにかなり憤慨していた。
怪我はなさそうなのでホッとしてメインイベントを待つ。
「ハルト様は本当に乗ってくれるのかしら?」
「ゲームの本能通りに動いてくれればきっと屋上に行くと思うわ。私はエルヴィンの方が心配だわ」
アメリーの策により、二人は夜中に屋上で仲を深めるはずだ。エルヴィンにまだ認識されていないアメリーが、『ハルトムート様が落ち込んで、毎日夜中に屋上で泣いておられます』というメモをこっそりエルヴィンのポケットに入れたのだ。
そして私たちは二人の動向を見守った。
二人は無事屋上で会い、なんとローブの中に一緒に入って暖をとっていた。
「尊い……」
アメリーが呟いて一歩踏み出した瞬間に床に置いてあった木材を蹴ってしまった。
一斉にこっちを向いた二人に私たちは焦って、急いで階段を駆け下りて部屋に戻ったのだけど、大丈夫だったかしら?
こうして私たちは無事合宿でハルトお兄様とエルヴィンの仲が深まったことを確認し、ほくほく顔で帰路に着いた。
合宿での作戦が成功に終わってから数日後、屋敷にアメリーを招いてお茶をしていた。
「やはり王家の世継ぎ問題ということでしょうか」
アメリーが思案するように顎に手を当てながら言った。
「え? 何の話かしら?」
「先日お話ししていたエルヴィンがなぜローゼとの婚約を解消しないかをずっと考えていました」
なるほど、それはそうかもしれない。エルヴィンは私と早く婚約解消してお兄様と婚約したいのに、陛下がそれをよしとしないのだとしたら……
「ローラントのところに男児が産まれれば、あっさり婚約解消となるかもしれないわね」
「そんなに簡単にいきますか? 今のところ王家の直系を産めるのは第一王子ローラントの妻クララ様だけ。二人くらいは産まれないと難しいかもしれません」
それもそうね。王子が一人しかいないと不慮の事故や病気で亡くなった時に大変なことになる。クララは身籠っているため彼女は妊娠できない体質ではないしローラント側にも問題はない。だけど男児が産まれるかは分からない。女児しか産まれないのならエルヴィンの子に期待しよう、なんてことになるとエルヴィンの妻は女性である必要がある。
「世継ぎ問題って大変ね……」
まさか自分の存在がハルト×エルヴィンの恋を妨害する原因になるとは……
やっぱり私は悪役令嬢なのかしら。
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