第78話 ノマド・ゴエモン

「カヌカ、まずはこれを飲みなさい」


 カヌカに中位回復薬水を渡す。


「ほ、本当にいいんだべ、いいんでずが……?」


「ああ、これも治験の……俺の修練の一つだから」


 カヌカが薬水を飲む。そして俺はまたカヌカの顔に指を這わせ、微量の魔素をカヌカの魔経脈に送り込む。カヌカの身体に薬水が浸透していくことがわかる。それは魔経脈に沿って、魔経脈を通って身体中に浸透していく。


『まずは患者の体内のどこに魔毒瘤まどくりゅうがあるかを知ることです。そして薬水の効果をその魔毒瘤まどくりゅうに集中させる。特に自分で作成した薬水であれば、その薬水には自分の魔素が浸透している。より薬水の効果を患者の体内で操作コントロールできるはずです。特にユキアさん、あなたの魔調力があれば、【医術師】レベルの治療ができるはずだ』


 ……カムゼン先生の言葉が頭にこだまする。そうだ、俺ならできるはずだ、集中しろ……つかんだ、これが薬水……俺の魔素に引き寄せられるように集まってくる。薬水をカヌカの顔の魔経脈に集中させる………………魔毒瘤まどくりゅうに薬水が浸透していく…………


「あ、ああ、な、なんが痛みが……軽くなっただぁ」


「ふう、とりあえずはここまで。あとは寝る前にまた少しやるから」


 戦闘とは違った魔素の使い方に、深い疲労を覚える。非常に繊細な作業だ。上級職である【医術師】のスキル【魔触診】。患者の魔経脈を通して患部を特定し、集中的に薬水などで治療を行う。通常の『職』すら持たない俺が、帝国総人口2億人のうち、600人程度しかいない『上級職』のスキルと同等のことをやってしまった……別に【魔触診】のスキルを取得したわけではない。ただ同等・同様のことをやっただけだ。


 ――元々『職』や『スキル』はこの世界の人々に魔素をなじませるために作った“型”だからな。職やスキルがなくても魔素さえ扱えればできるのは当然……


 ……何の話だ…………だめだ、頭痛くなるやつだコレ……


「――メシにしよう!!」


 ◇


 携行魔導炉の上に金網を載せて、デカ角兎の肉と野菜を串に刺して焼く。BBQスタイルだ。それにしても薬師ギルドに加入してから食卓が豊かになった。前はせいぜい塩を振るくらいだったが、今では薬師ギルドで取り扱う香辛料が何種類もあり、味のバリエーションも広がった。


「こら、ミリィ。お肉ばっかり食べないで、お野菜も食べなさい」


「うっ、はい……」


 ったく、古今東西どころか世界が違っても、子供は野菜が嫌いなものかねぇ。


「ぐばばば、2人は恋人同士がと思えば親子みたいだし、おもじれぇだなぁ~」


「親子じゃありません!」とミリィが抗議している。


 少し、カヌカの話を聞いてみるか。


「……カヌカは歓楽街で働きたくて、ルーベリスに来たのか?」


「はい、うちの村は貧じかったから村にいでも働き口がないだで。たいじて頭もよぐねぇし、職もスキルもながったし。村長から『お前は顔はそこまででもねぇが、身体はエロいからルーベリスさ行け』っで言われて」


 なっ!? 村長っ! ど、どういう職の斡旋の仕方を!


「い、嫌じゃなかったのか? その、そういう仕事?」


「男の人とまぐわうのは嫌じゃながったで。まぐわってる間は、男の人も優じいし、何より気持ぢいいし」


 ……何と言っていいかわからん。でも、歓楽街で働くことに、ネガティブではなさそうだな。


「でも、元々美人でもながったのに、さらにこんな顔になっちまって、もう男の人とまぐわうこともできねぇ……」


 ミリィがカヌカに寄り添い、そっと手を握る。そして励ますように声をかけた。やはり天使だ、この子は……と思っていたら、


「大丈夫ですよ、カヌカさん。主さまが必ず治してくれます。そしたら、またいっぱい、たくさんの男の人とまぐわいましょう!」


 いや、励ましの方向性っ!! 意味わかって言ってるのか、ミリィよ!……まぁ、本人がそれを望むならいいんだけど……話題を変えよう。


「カヌカ、口の中は痛くないか?」


 瘡顏症そうがんしょうの影響は口の中までも及び、カヌカは固い肉にかぶり付くことが難しくなっている。ゆえに、肉と野菜をかなり煮込んで具材を柔くしたスープを与えていた。


「あるじざまの治療のおかげで、だいぶよくなっだだよ~。本当ありがでぇ」


「そうか。寝る前にももう少しするからな。さぁ、食べ終わったら風呂入るぞ。健康の第一歩は清潔さを保つことだ」


「風呂って、そこの川で水浴びすればいいだが?」


「まぁ、俺だけならそれでいいけどな。カヌカとミリィは薬水風呂に入ってもらう」


 ◇


 俺は河畔の少し開けた平らな場所にを設置する。一応カヌカの手前、魔収袋から取り出したように見せた。


「ぞ、ぞれは……なんだでずが……!?」


「ふっ、これこそ俺が野営を好む理由の一つ……携行釜風呂、その名も『ノマド・ゴエモン』だ!」


 黒い鉄釜が丸太鼓のようにずしりと据わり、下段は釜を抱える黒い炉台。炉台には炎の魔晶石が埋め込まれており、魔素を流し込めば火が起こる。携行魔導炉と同じ仕組みだ。そう、いわゆる五右衛門風呂だ、しかも持ち運び可能! なのは異空間魔法があるからだけど。


 ノマド・ゴエモンに水聖水を入れ、さらに回復薬水(低)を異空間から5本分ほど、直接投入する。俺が作る低位二等級回復薬水は1本3~4万バースほどだから、なかなかの高級風呂だ。

 といっても一度きりの使い捨てではない。低位薬水はともかく、今は水聖水の残量が心もとない。入浴後は薬水風呂の湯から“汚れや細菌などの除去”を強くして異空間に収納し、数回は再利用する。ただ、衛生面の担保については検証しようがないため、使用は3~4回までにとどめている。

 今回はカヌカを迎え入れて最初のお風呂だし、歓迎の意味を込めて、新たにお湯を張ろう。まぁでも最初はミリィだけど。


「悪い、カヌカ。先にミリィを風呂に入れるから、お前は待っていてくれ」


「もちろんだです! お二人でゆっぐりじてくだせぇ。アダシは他の片づけじときまずから」


 カヌカは食事の片づけと寝床の準備に取り掛かってくれた。





――――――――――――――――――――

【あとがき】

 自己満足のために書き始めたのですが、やっぱり『★★★』や『ハート』、『レビューコメント』いただけると、モチベ爆上がりします。少しでもこの物語が気になっていただけたなら、よろしくお願いします!


新作

「少年、森で奴隷を拾う ~拾った奴隷は狂剣聖女。聖女、転生拒否ったってよ~」

投稿してます! よろしくお願いします!

https://kakuyomu.jp/works/822139839131898511

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る