第38話 再訪
【グレイスside】
「船旅は1週間だって。やっぱり時間かかるな」
「そうね、でもしょうがないわね」
俺たちはカルディア王国に向かうために港町に来ていた。
ここからカルディア王国があるオルフェリア大陸まで船旅で1週間かかるらしい。
そこから更に険しいバルカン山脈を超え、そして更に広大なアムール砂漠を進む必要がある。
旅程をすべて合わせると1ヶ月近くかかる可能性もあった。
「オルフェリア大陸行きの船が出るのは明後日なのよね。じゃあ、今日と明日はゆっくりできる?」
「うん…………そうだな、じゃあこの前できなかったエリーゼのレベリングしちゃうか」
「まあそうなるわよねぇ……」
エリーゼは少し残念そうに言う。
その時、港町の人々が騒ぎ出す。
何事かと思ったら突如、俺たちの前に数頭のワイバーンが飛び降りた。
こんな市街地で魔物が急襲?
俺は鞘に収まった剣に手をかける。
するとワイバーンの背に人間が乗っていることを確認できた。
その人たちはどうやら僧服着ているようだ。
「突然すみません! もしや、グレイス様とエリーゼ様ではありませんか?」
「そうだけど……」
「よかった! やっと見つかった!!」
すると彼らは突如そこで土下座をしだす。
「この度は折角ラグナ教の総本山へと来訪いただきましたにも関わらず、こちらの不手際で門前払いをするような形になってしまいまして誠に申し訳ございませんでした!」
僧たちは地面に額を擦り付けながら詫びる。
「つきましては手前勝手ではございますが、是非ともラグナ教の総本山へとまたご来訪いただければと思いまして、こうして参上いたしました!」
「いや、そんなこと今更言われたって……」
犯罪者呼ばわりまでして追い返したのはそっちだ。
リュウゲンみたいな人間が他にもいるかもしれないと思うと、正直また来訪したいとは思えない。
「悪いけど、もうあそこに行くのは……」
「そうおっしゃらずに是非! グレイス様が望むもの、すべてご用意させていただきます! 食べ物、お金、秘宝、それにワイバーンをご所望でありましたら、無期限で貸出させていただきます!」
「へ、へえー、それはすごいね……」
俺は誠意を感じて心が少し動く。
でもなんでそこまでするんだろう?
「そこまで言うなら、いいんじゃない? これで流石にまた因縁みたいなのつけられることはないでしょうし。あのリュウゲンという副僧正も異論ないの?」
今度はエリーゼが問いかける。
「リュウゲンについてはグレイス様たちの対応について、大僧正のご意志に背く対応をした為、副僧正という任を解かれて今は罪状が確定するまで幽閉されております」
あいつがいないのはいいな。
正直顔も見たくないし。
でも、ただより高いものはないっていうから、少し探ってみた方がいいかも……。
よく考えたら隠した魂胆とかあるかもしれないしな。
「誰だお前らはーー!! 公共の場に魔物で来襲してきて敵かぁーー!!」
そこへ、港の衛兵と思われるものたちがこちらに走って向かってきていた。
「それではグレイス様に、エリーゼ様。早く、ワイバーンの後ろに乗って下さい!」
俺たちは急かされてそれぞれ操縦士がいるワイバーンに乗り込む。
しょうがない、なるようになれか。
出たとこ勝負でいこう!
するとワイバーンは衛兵たちが到着するギリギリで大空へ向かって羽ばたいた。
あれよあれよという間に高度が上がり、街の人々と建物は小さくなる。
「ひゃーーすげーなこりゃ!」
「きゃーー高い!」
「それではラグナ郷へ向かいます!」
飛び立ったワイバーンは風を切りながら、ラグナ郷に向かって進んでいく。
エリーゼは楽しげに景色を見渡し、俺も興奮を抑えきれない。
港町はあっという間に遠ざかり、地平線の向こうへと消えていった。
ラグナ教の総本山でどんなことが待っているのか、期待と不安が交差する中、ワイバーンは力強く空を駆け続けた。
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