第9話 装備品
「このミスリルの剣はいくらですか?」
「そちらは金貨50枚になります」
手持ちは金貨5枚しかない。
この前の魔石を換金しての全財産だった。
お店には来てみたものの予想していた通り、全くお金が足りないな。
ちなみに金貨3枚で成人男性が一月生活できると言われているので、金貨1枚でおおよそ10万の価値である。
このブレイス・オブ・ワールドの世界では、同じレベル帯での基礎ステータスは登場人物ごとにそれほど違いはない。
強さはスキルに大きく依存するが、基礎攻撃力や防御力を上げたければ、装備を充実させる必要があるのだ。
つまりユニークスキルは最初から授かるものであるから、強くなりたければ強い装備を手に入れる必要がある。
まあ当然と言えば当然のことだけどね。
「これなんかどうでしょう? 金貨3枚とお値打ちでお客様にお似合いかと思いますが」
店員が進めてきた鋼の剣を鑑定してみる。
種別:片手剣
攻撃力:20
特徴:中古で傷んでおり、すぐ破損する
価値:銀貨20枚
銀貨100枚で金貨1枚になるので、銀貨20枚は2万くらいか。
たぶん装備から初心者の冒険者と侮られてふっかけてきてるな、こいつ。
態度もどことなく横柄だし。感じわるー。
「結構です」
「そうですか」
俺は渡された剣を返すと、店員は奥に装備を片付けに向かう。
「…………ちっ」
おいおい、舌打ちがここまで聞こえてきてるぞ。
まあこっちもはじめからここの装備屋、ゴールデン・タレットで剣を買うつもりはないんだけどね。
相場感がゲームと相違がないか確認したくて来ただけなんだよ。
その時、黄金に輝くきらびやかな鎧をまとった一人の男が来店してきた。
先程の店員は小走りで男の元へと駆け寄る。
「ようこそお越しくださいました、ヴォルフ様」
「おう、頼んでたやつ出来てるか?」
「はい、もちろんでございます!」
店員に連れられて奥に行く最中にヴォルフは俺に気づく。
くそ、他人のふりをしてたのに。
「おい、グレイスじゃないか。こんなところで何やってんだ、そんなみすぼらしい格好して」
ニヤニヤとしながらヴォルフはこちらに近づいてきた。
少しからかってやろうというのが、その表情から垣間見える。
「どんなものがあるのかと、ちょっと見に来てました」
「ふーん、見るだけか? よかったら、俺が何か買ってやろうか? 同じカイマン公爵家のお前がそんな格好してたら俺が恥ずかしいからな」
「カイマン家の御子息の方でございましたか! これは失礼いたしました!」
先程とは打って変わって店員は愛想を振りまきだす。
商売だからしょうがないのかもしれないが、こういう人間は信用できないな。
「悪いけど、オーダーメイドで頼むつもりなんだ」
「オーダーメイド? 言っとくけどこの店でオーダーメイドは結構値が張るぞ。そこまでの金は出さねえが、お前に払えんのか?」
「いや、違う店でオーダーメイドするつもりだから」
ここは貴族御用達の店だ。
扱っているものの品質は高いが、金額と実用性が伴っていないというのが俺の印象だった。
それに値段の割にはそこまでの装備も揃っていなかった。
「なんだよ、他の店って。ゴールデン・タレットよりいいとこあるなら教えろよ」
店名を教えるか少し躊躇したが、見てくれを気にするヴォルフはあの店に興味を示さないだろうと判断する。
「黒炎の工房だよ」
「黒炎の工房? あの小汚いじじいがやってる小汚い店か?」
「うん、まあそうだね」
「ぎゃははははははは!!」
ヴォルフは馬鹿にしたように大笑いする。
「まあ、いいんじゃね。ゴミが作ったゴミ装備をゴミが身につけるのはな」
「……言っとけよ」
「なんだよ、負け惜しみかよ! まあ、お前にはお似合いの店だぜあれはよ!」
ヴォルフの
黒炎の工房の店頭にはヴォルフが言うようにゴミのような装備しか展示していない。
しかし、黒炎の工房を運営している鍛冶師は自身が認めた人物だけに装備をオーダーメイドで作成しており、その腕は超一級品なのだ。
気難しく有名になることを嫌っていて、更に自身の鍛冶の腕を吹聴することを禁じているため、一般には知られていないのだった。
何周かゲームクリアしているが、その存在を知ってからはずっとお世話になっている鍛冶屋である。
やりこみ勢の中でも知る人ぞ知るという名店なのだ。
俺は早速その黒炎の工房へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます