第3話 天使ノアとの出会い
「えー……あの……あはは……私なんかご迷惑おかけしましたか……?」
「バカなッ……! 今更目覚めたというのか!? この人形が!」
気が付くとどこか知らない場所で、重そうな鎧を着た男に取り囲まれていた。
目の前の甲冑男が驚愕しているが、少女にとってはそれどころではない。
ここはどこなのかとか、どうしてこんな状況になっているのかとか、聞きたい事は山ほどあるけれど今そんなことを言ってられる状態ではなそうだ。
「た、隊長……! どうしますか……! 教皇様の指示を――」
少女の後ろに立っていた若い騎士が狼狽えながら指示を仰いでいる。
彼らにとっても少女の覚醒はあまりにイレギュラーだということだ。
「構わん! 今更人形が目覚めたことなど我らしか知らぬ! 我々は教皇猊下の命を遂行すればよいのだ!」
どうやら彼らは少女のことを殺せと言われているらしい。
でも彼女の反応が想定外すぎて戸惑っている。不測の事態が起きたら上司の判断を仰ぐのは常識ではあるが。
(このおっさん現場の判断だけで勝手に事を進めて後でどうなんても知らんぞ……って今私のほうがピンチなんだけど!)
その時、少女の身体から金色の粒子が光を纏いながら渦を巻くように飛び出した。
粒子はキラキラと輝きながら空中で凝縮し、奇妙な形を形作る。
「ライセリア様おはようございます。ただいまセットアップ完了いたしました。私は大神エデンより遣わされた大天使ノアでございます」
それは女性のような声を発する何とも奇妙なもの。
簡単に表現するなら空中を浮遊する鉄の虫――だろうか。
平べったい丸みおびたカニのような胴体に蜘蛛のような脚が数本伸びて、背中側からは高速回転する四枚の虫のような羽が生え、胴体の真ん中には青く光る眼のような器官が据え付けられている。
端的に言うとドローンとしか言いようがない物体。四枚羽のマルチローター式のドローンだ。
さらなる乱入者の登場で騎士たちも唖然としている。少女も何が起きてるかさっぱり把握できないでいた。
「まずはライセリア様の身の危険のようなのでここを離脱しましょう。緊急転送シーケンスを実行いたします」
"EMERGENCY TELEPORTATION SEQUENCE INITIATED."
「緊急転送シーケンス開始」
"CALCULATING SAFE DESTINATION COORDINATES..."
「安全な目的地の座標を計算中...」
"COORDINATES LOCKED: DENSE FOREST AREA, 500 KILOMETERS NORTHEAST."
「座標確定: 森林地帯、北東500キロメートル」
"ENGAGING ENERGY SHIELD."
「エネルギーシールド展開」
天使と自称するドローンの声と共に青白いドーム状の障壁が現れる。
唐突の出来事にも臆しなかった騎士の一人が剣で斬りかかってくるも障壁にあえなく弾き飛ばされた。
"ALERT: HIGH-LEVEL TELEPORTATION REQUESTED. VERIFYING AUTHORIZATION..."
「警告:高レベル転送要求。権限を確認中...」
"ADMINISTRATOR IDENTIFIED: ENTITY_LC_REPS."
「管理者識別:ENTITY_LC_REPS」
"AUTHORIZATION CONFIRMED. PROCEEDING WITH EMERGENCY TELEPORTATION."
「権限確認完了。緊急転送を実行します」
刹那、少女の視界が歪み身体がふわっと浮くような感覚に襲われる。
"INITIATING MOLECULAR DECONSTRUCTION..."
「分子分解開始...」
「ちょっ……今のアナウンスって……」
「はい、転送対象を分子レベルの情報に還元、転送先にて再構成する機能です」
「えええぇぇぇ!!! それってまるで一度死んでるようなものじゃないのっ!!!」
「? 何か問題が? 転送先にて情報を再構成するので何も問題は無いと思われますが……慣れるまでは若干の目眩や吐き気を感じることがあるのでそれはご容赦ください」
そうこうしているうちに自分の身体が粒子と化して消えかかっていることに気付く。
――こんなの聞いてないわよ!!! と、慌てる少女の狼狽をよそに身体の感覚が薄れていく。
"10%... 35%... 78%... 99%... COMPLETE."
「10%... 35%... 78%... 99%... 完了。」
そしてそのまま眼前がが真っ暗になり、身体が一瞬闇の中に拡散され――
"TRANSFERRING DATA STREAM..."
「データストリーム転送中...」
(あっ……この感覚、これマジ死んでるやつじゃん)
この謎の異世界で目を覚ます直前と同じ――身体が闇の中に溶けて消えていくような感覚。
嫌だ……また死ぬのは嫌だ……!
少女は悲鳴を上げようにも声を出す肉体が存在しないのでそれも叶わない。ただ心の中で声にならない叫び声を上げることしかできない。
"RECONSTRUCTION AT DESTINATION COORDINATES IN PROGRESS..."
「目的地座標で再構築中...」
"TELEPORTATION COMPLETE"
「転送完了」
どこかでノアの声が聞こえたような気がした瞬間、無散しかけた身体と意識が再び収束していく。
その瞬間、生々しい死の感覚がすぅっと消え失せ、代わりに心地よい風が頬を撫でていることに気付いた。
恐る恐る目を開けるとそこは鬱蒼とした森の中だった。目の前には大きな樹齢数百年はあろう大木がそびえ立っている。
「転送は無事に完了致しました。ふむ……バイタルがかなり乱れていますが大丈夫ですか?」
背後から声がして振り向くとそこには先ほどのノアと名乗る天使……いやドローンが羽音を鳴らしながらホバリングしていた。
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