第2話-2

 瞼の前が明るくなってきた。朝が来たようだ。目を閉じてはいたが、ほぼ寝付けなかった。昨日、魔物に出会ってしまった。魔物に会った人の話なんて聞いたことがない。魔物と戦ったという戦争ももう700年も前の話だ。魔物なんて昔話に出てくる生き物で、もういないんじゃないかと思っていた。マスターソフィア様に出会い、名前も知られた。呼ばれて色々と尋問されるんじゃないだろうか。考えると胸が苦しくなってきた。僕はいつも通りの日常をずっとずっと過ごしていたいんだ。眠い目をこすりながらベッドを出て学校の準備をはじめた。

「カイトおはよう」

母の穏やかで優しい声が胸に響く。

「おはよう」

母の目を見れない。見透かされてしまいそうで怖かった。父は今日は早番でいない。父も母も火のギフトを使って電気を作っている。もうすぐ僕も電気を作るロールがはじまる。定年まで幸せな日常が待っているんだ。穏やかな日常を過ごしたい。マザーの朝食の提案を見る。いつものを選択する。

「注文を確定しました。学校の食堂にお越しください」

昨日は何もなかった。何も見ていない。自分に言い聞かせ、学校に行く準備を普段と同じようにこなし、家を出た。

「おはようカイト!学校一緒に行こう」

ランが電動ボードで颯爽と現れた。やわらかな風が吹く。

「おはよう」

電動ボードに飛び乗りランの横に並ぶ。

「ファルマー病院だって……学校終わったらお見舞い行こう」

「昨日の……か」

口ごもる。魔物のことは口にしないほうがいいだろう。怪我をしたのか。それにしても助かってよかった。ファルマーがいなかったらどうなっていたことか。

「今日の朝ご飯何にした?」

「えっ?」

暗い表情で考えこんでいたんだろう。空気を変えるように明るい声でランが聞く。

「いつものパンとスープとサラダだけど」

「ほんといつも同じだね。私はパスタにした。この前からはじまった新作。美味しかったよ」

「そうなんだ。昼食べてみようかな」

「そうしなよ。私はお昼何にしようかな」

「まだ朝食も食べてないのに」

「ハハッ。お腹空いちゃった。はやく行こう!」

ランは笑いながらスピードを上げる。僕も笑顔で追いかけた。ランにはいつも助けられている。マザーでの相性診断の結果もよかったし、ずっと一緒にいられるといいな。

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