第3話 はじめての友達



「木の実、美味しいですの?」



「カリカリカリ……チュウ!」



 島で会った最初の住民(?)に木の実をあげると、前歯で器用に殻を齧って中身を取り出し、美味しそうに食べてくれた。

恐らくリスなどのネズミ系の魔物だろう。

子供の頃、お屋敷の庭に生えている木の近くで遊んでいた時に似たような魔物を見かけたことがある。



「あなたが美味しそうに食べてるってことは、この木の実は安全そうね」



 本当にどうしようもなくなったらこのリスの魔物を木の実でおびき寄せて捕まえて食べるしかないけど、今のわたくしにはそこまでの覚悟が出来なかった。



「はあ……いいわね、あなたはこの木の実何個か食べればお腹一杯だものね」



「チュチュチュウ?」



「あっ頬袋に貯めるのはズルいわよ。わたくしの分がなくなっちゃうじゃない」



「チュウチュウ」



 手のひらに木の実と小さい現地民を乗せて森を探索する。



「ねえあなた、この辺りになにか美味しい食べ物はないかしら」



「チュウ~?」



「そうよね、分かんないわよね」



 わたくしったら、魔物相手になに聞いてるんだろう。

でもこの子のおかげで寂しさが少し紛れて前向きになれたわ。



「あなた普段はなに食べてるの? キノコとかかしら……でもキノコの方が毒がある可能性は高いわよね……」



「チュウ!」



「あっ」



 リスの魔物がわたしの肩に登ってから近くの木の枝に飛び移る。

……毎回リスの魔物っていうのもなんか変ね。

よし、この子はリス子と呼ぶことにしましょう。女の子かどうか分からないけど。



「なによ、食べるだけ食べたら行っちゃうのね」



「チュウチュ!」



「えっ? どうしたのかしら」



 リス子はどこか遠くへ行ってしまう……ということもなく、わたくしの少し先にある木の枝まで行くと、そこで止まってわたくしが追い付くのを待っているようだった。



「もしかして、どこかに案内してくれてるの?」



「チュウチュウ」



 魔物に言葉が通じているとは思わないけれど、なんとなくリス子の後を付いて行ってみる。



「ふふ、わたくしったら、まるで童話の女の子ね」



 来ている服はボロボロだし、草ボーボーの歩きにくいジャングルみたいな森の中だし、どれだけ進んでも王子様もいない無人島だけど……ちょっとだけワクワクするかも。

かぼちゃの馬車があったらしばらく食料に困らないのだけれど。



「チュウ!」



「はあ、はあ……どうしたの? ……っ! こ、これって……!」



 しばらく森を進むとリス子が足を止める。

そこには、周りに生えている木よりも一回りも二回りも大きな木が生えていて、その木の枝の周りには別の植物のツルがまるでカーテンのように垂れ下がっていた。

そして更にそのツルの先には、ブドウのような果物がたくさん実を付けていたのだ。



「た、食べられるの……?」



「チュウ!」



 リス子が毒味をするかのようにブドウのような果物をひとつ取って食べ始める。

どうやら毒はない……らしい。リス子が平気なだけかもしれないけど。



「チュウチュウ!」



「一粒くらい、食べても大丈夫よね……ぱく」



 リス子と同じように房から一粒だけとって口に運ぶ。



「もきゅ、もきゅ……あ、甘い……美味しい……!」



 思わず皮ごと食べてしまったけど、意外と皮も渋くない。

ギリス王国で暮らしていた時に食べたものよりも酸味が強いけど、これは完全にブドウ……野ブドウだ。多分毒もない。多分。

これならさっきの木の実と違って少しだけど水分も摂れる。



「リス子、感謝いたしますわ……!」



「チュウ!」



 無人島生活1日目、わたくしに素敵なお友達が出来ましたわ。

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