事故物件よりヤバいんじゃないか?

@wlm6223

事故物件よりヤバいんじゃないか?

 長いこと不動産業界で食ってきたが、あれほどヤバい物件は一度きりだ。

 その物件は二子玉川の閑静な住宅街の戸建てだった。築二十年、地上二階建て、鉄筋コンクリートSRC造り、四台分の駐車場あり。5LLDK。460平米。二子玉川は東京でも高級住宅街だが、こんな贅沢な物件が出ることはそうそうない。

 私はその物件を内見せずに3億2000万円で買った。売価4億以上にはなる出物だ。同業他社もすぐに手を出すだろうから、私は内見もせずに即金で払った。この辺りの判断と行動の早さは業界でも大手の不動産屋に勤めているが故にできたことだ。

 さすがに築二十年ということもありリフォームは必須だったが、立地と物件の大きさを考えればすぐにでも売れてしまう好案件だ。

 私は早速いつもの残置物処理業者に依頼して室内の清掃を任せた。

 その残置物処理業者から私のスマホへ連絡が来た。

「ヤバいですよ、この物件。ちょっと見に来てください。ホント、ヤバいですよ」

 声は怯えていた。ヤバい物件と言えば、せいぜい事故物件となるような痕跡があったのだろうと私は判断した。

 しかし、二子玉川で事故物件なんて聞いたことがない。

 私は社用車で現場に向かった。辺りは画に描いたような高級住宅街。その中に閑として立つ大豪邸。その豪邸の前に停まる業者の車。

 業者のリーダーが「こっちです。ちょっと見て下さい」

 そう言われて私はリーダーの後に従った。

 一階のある部屋に入った。そこには床下へ続く隠し階段があった。

 はて、なぜ隠し階段がある?

「問題はこの先です」

 リーダーが階段の下へと私を案内した。

 その先は地下室へと続いていた。

 いや、買い取ったときの図面には地下室などなかったのだが、これは一体どういうことだ?

 地下室は二つあった。

「まずこっちから見て下さい」

 リーダーはその地下室へ私を招き入れた。

 コンクリート打ちっぱなしの室内には、天井からチェーンが三本垂れている。パイプ椅子が五脚。部屋の片隅には鉈、鋸、チェーンソーがあった。壁には無数の黒い染みがあった。特に床面の汚れが酷かった。何の匂いか分からないが、ちょっと異臭がした。匂いだけではなく、がらんとした部屋ながら異様な空気があった。

 私はその異様な光景に打ちのめされた。

「何なんだ、この部屋は」

「私にも分かりません。隣の部屋へ行きましょう」

 私はまたリーダーの指示に従って隣のヘアへ入った。

 そこは大きめの、いわゆるAVルームで隣室の異様な空気とは違い、リラックスした空気があった。100インチのプロジェクター、十人が座れるソファ、壁一面の棚にはDVDーRがぎっしり詰め込まれていた。

 私は何だろうと思い、壁から一枚のDVDーRを取り出した。

 それには「美少女血祭りパーティーVOL.137」とあった。

 幸い電気はまだ止められていなかったのでそのDVDーRを再生してみた。

 少女が手足を縛られた状態で半裸で椅子に座らされていた。そこにパンツ一丁にマスクを被った男がチェーンソーを振りかざし、少女の腹を引き裂いた。血と内蔵が飛び出した。男は笑いながらさらに腹から胸へとチェーンソーを振り上げた。血飛沫とともに内蔵がずるりと滴り落ちた。少女は悲鳴すら上げなかった。

 それは本物のスナッフビデオだった。

「これヤベえぞ。通報案件じゃないか」

 私は即座に警察へ通報すべく、すぐ車に戻った。

 いつの間にか家の前には黒塗りのセンチュリーが停まっていた。私を見付けると中からスーツの男三人が私を取り囲んだ。

「何してんだ」

「いや、この家、私が買ったから」

「我々がこの家を言い値で買い取る。いくらだ?」

「……十五億……」

 後日、会社に本当に十五億が振り込まれていた。

 止むなし。私はその家を売ることにした。

 後日、その家を見に行くと、解体工事の最中だった。

 あの地下室にあったものが何であるか、正体はもう闇の中だが、私は恐怖のあまり、この物件のことを黙っておくことにした。

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