DIY

壱原 一

 

住み良い土地ですから、新しい家がぽつぽつ増えます。幸せそうな若いご夫婦と幼いお子様が入居なさる例が多いようです。


ぴかぴかの新居で、夢と希望に満ちた未来への活力が漲るからでしょうか。


ご近所からは、元気なお子様の声や、つられてはしゃぐわんちゃんの声、快活に笑い合う親御さん同士の声は元より、休日ともなれば、仲の良いご家族を招いてバーベキューパーティーとか、広々したガレージで、ちょっと本格的な日曜大工に勤しむ音などが、賑やかに聞こえてきます。


今の若い方は、日曜大工なんて言わず、DIYと仰いますね。


とにかく、作業用の古着をお召しの若い方が、無骨な格好良い丸ノコやインパクトドライバをきびきびと取り回し、沢山の木材を根気強くカットして、ご家族みんなで和気あいあいとニスやらワックスやらで塗装し、穴を開け、組み立て、素敵なウッドデッキだの、おしゃれなシェルフだの、わんちゃんのおうちだのを次々に仕上げてゆく様子は、1日中ながめていたって、ちっとも飽きません。


年甲斐もなく、わくわくしてきてしまいます。


それで、自分でもやってみようと思って。


最近は、インターネットで調べれば幾らでもレシピがヒットするし、簡単な工具や材料なら、身近な小売店ですぐに手に入るのですね。


100円ショップのDIYコーナーで、木の板と、あの、大きなホッチキス…そう、タッカーを買い求めました。


不器用なりに、とっても楽しく作りました。ええ。これはその時の怪我です。


あんまり夢中になって、ばちん、ばちんと繰り返しタッカーを使っていたものですから、うるさい、静かにしろ、なんて怒られてしまったりして。


そんな風に、自分でやってみて感じたのですけれど、やっぱりDIYには、それなりの支度が必要です。さっきお話しした風に、電動工具なんて使うなら、安全ゴーグルとか、イヤーマフとか、防刃手袋とか、防音シートとか。


ですから、自分でやってしまった後で何でしたが、老婆心で、先様にお声がけしたんです。


これからまたDIYなさる時は、それなりの支度が必要で、たとえば安全ゴーグルをしないと、木片が跳ねて失明したり、防刃手袋をしないと、指に穴が開いたり、作業服かエプロンを着ないと、機材が服の裾を巻き込んでお腹に食い込んだりしますよって。


どうも、お節介で、ご不快にさせてしまったようで、申し訳ないことでしたけれど。


まあ、そうした次第なので、たとえ話はしましたが、何かしたなんてとんでもないです。それが偶々そうなったとして、何だって言うのでしょうね。


ああ、でも、立て続けに、大変でしたものね。気持ちの具合も、普段通りとはいきませんよね。


ええ。ええ。そうです。いつもご家族の朗らかなご様子を伺っているお礼にと思って、紙にご家族の絵を描いて、板に打ち留めました。


けれど、余計なお世話を申し上げて、ご迷惑をお掛けしてしまったので。その後にこんな不出来な物を差し上げるのもためらわれて、恥ずかしくなって、捨てたんです。それだけです。


不器用なものですから、タッカーを何度も失敗して、怪我の血がついてしまって、それが、ご家族みなさんのお怪我と同じ場所だったなんて、思いもよらないことです。


しかも、通り掛かりに見える加減で袋に収まってしまっていたなんて、もっときちんと、紙に包むなり、細かく砕くなりして、万一にも先様のお目をわずらわせないように捨てるべきでした。


行き届きませんで、申し訳ないことです。


はい。いいえ、そんな。どうも、ええ。そうですか。そう仰っていただけるなら、気にしないように致します。


ああ、もうよろしいのですか。とんでもない。こちらこそ、いつも、度々お呼び立てして、ご厄介になっておりまして。


ええ。いつもならこの時間から起き出して、そうするともう、あれですけれど。今日は調子が良いのか、朝からずっと静かで。ずっと寝ているのだと思います。ええ。静かで。本当に。ええ。


夢のようです。


はい。では、なんのお構いもせず…


触らないで!


ああ。すみません、突然。いえいえ、申し訳ないです。そうなんです。1作目がこの度の通りでしたので、次はと思って、描いて、打ち留めてみたんです。はい。すっかりはまってしまって。


今朝完成したばかりで。まだ乾かしている途中なんです。


この通りまた、針まみれ血まみれで、不格好な仕上がりですけれど、でも、これで良いんです。これで十分、ばっちりなんです。


え?ああ、本当…いいえ。大丈夫。ふさがりかけだったのが、少し開いてしまっただけです。いえ、そんな。これくらい大丈夫です。


慣れていますし、すぐに治ります。


ええ。全然へいきです。


こういうDIYには、怪我が付き物ですから。



終.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

DIY 壱原 一 @Hajime1HARA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ