神の童
カズのこ。
プロローグ 神の子 爆誕!
とある町外れ。うっそうと生い茂った雑木林の中に、いわゆる忍の隠れ里のような、ある一族が住まう集落があった。
日が落ちれば頼りになるのは、昔ながらの日本家屋から漏れ出す灯りくらいで、質素で閑静な集落である。
日も落ちかけた頃、集落のなかでも一際大きく長い歴史を感じさせるような屋敷、その一室から産声が聞こえた。
かすかな畳の香りと、床の間に飾られた花の香りがする座敷で、生まれたばかりの赤ん坊を抱き抱えているのは、この一族の特徴である濃い藍色の髪と瞳を持ったすらりと背の高く、しかしどこか貫禄のある男だ。
「っ、……」
男は嬉しさか、安心感からか、息子を抱き抱えたまま言葉を失っている。
「あぁ…よかった、、生まれてきてくれて…ありがとう。」
そう、息を切らしながら言ったのは、その男の妻であり、夫と同じく藍色の髪と瞳を持った女だ。額には汗が滲んでいる。
「私にも…その子の顔をみせてください」
女は、優しくやわらかな笑顔で言った。
しかし、男はまばたきもせず自分の息子を見ているだけだった。
その夫の纏う尋常ではない空気を感じ取ったのか女は焦るように聞いた。
「どうしのですか?…その子がどうかしたのですか?!」
それでも男はなにも言わずに、ただ赤ん坊を女の方に抱き抱えて、、
何事かと、女が自分の息子を見ると、そのほっそりとした目をまんまると見開いて固まった。
その赤ん坊は輝かしいほどの銀髪に、
◇◆◇
それから少し時間がたち、夫婦二人と出産に立ち会った数名が集まり話し合っていた。
「大丈夫さ、」
男は妻に向かってそう言葉を掛けるが、そう言った男を含め、その場いる全員の表情は芳しくない。というのも、この一族から生まれる白髪(銀髪)の子は《神に逆らうもの》つまり忌み子であるとされ、この事が一族の間で広まれば、赤子がどうなるかはこの場にいる全員が分かっていた。
「幸いにも、と言うべきでしょうか。まだこの事は我々しか知るものはおりません。」
そう言ったのは女が妊娠してから、女の体調などを管理してきた医者の一人である。
「ああ、そうだな、、しかし……」
全員が神妙な面持ちで俯いたままだ。
「私、、でも、、この子は本当にーー」
「っ、大丈夫だ、!この子が忌み子だろうがなんだろうが、俺たちの子供だ、」
噛み殺すようにそう言った男の方を、はっと我に返ったように見上げた。女の焦点を失ったような虚空の眼に、だんだんと夫の姿が写し出される。
「ですが、これからどうしましょうか。なにか対策を練らねば…」
先ほどの医者が夫婦に尋ねた。
「、ひとまずこの屋敷で様子を見よう。二人は一番奥の部屋に移動して、落ち着いたらまた考えよう。この子のこれからについて。」
「ええ、わかったわ。」
「心配するな、もしものときは必ず二人を守る、絶対に。」
そう言いながら男は、女の背後から肩に手を回しそっと抱き寄せた。
それから数週間。木の葉も落ち始め肌寒くなってきた頃。
季節に似つかわしくないほど冷え込んだ日の夜。
その一族は一夜にして滅亡した。
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