夢なら覚めないで欲しかった

琉月

本編

俺は今日、借りていた本を返すために、幼馴染の女の子の家に立ち寄った。チャイムを押しても反応はないが、勝手知ったる幼馴染の家だ。合鍵の隠し場所も知っていた。俺はその合鍵を使って鍵を開け、家の中へと入った。

その幼馴染は昔からしっかり者の真面目ちゃんであり、俺は家にお邪魔する度必ず手を洗うために洗面所へと連れていかれていた。そんな習慣が染み着いてしまっていたので、家に入ってまず俺が向かったのは洗面所だった。特に中を確認せずに扉を開くと、中には先客、全裸の幼馴染がいた。

目を見開いて一瞬硬直する幼馴染に対して、俺はそこを素通りして洗面台に向かおうとした。いや、本音を言えばもっと目に焼き付けておきたかったが、コイツを気にしていると思われるのは癪だった。

次の瞬間俺は幼馴染に突き飛ばされた。そして上に跨られて、顔と利き腕である右腕を掴まれ、完全に押し倒された。

幼馴染の本体は恐らく今、完全に無防備だが、俺の視界はその手に阻まれていた。しかし、腹の上から微かに伝わる熱や、先ほど少し除いてしまった肢体に俺は僅かながらも興奮しており、下半身に血液が集まっていくのを感じ取っていた。

この後俺は何をされるだろうか。

どちらにしても、幼馴染こいつも手を離さない限り服など着られないだろう。

なあ、手を放してくれよ…。そう言おうとした。

声が出ない。

自由なはずの左腕を動かそうとした。やはり動かない。

金縛りだろうか。視界は暗かった。まるでような暗さだった。

それに気付いたとき、俺の視界は急速に歪んでいった。


目が覚めた。

どうやら俺は、ソファーで眠ってしまっていたらしい。

まだ視界は暗く、顔の上半分が何かに押さえつけられている。俺は慎重に、自分の体の状況を一つずつ確認していった。

左腕は体とソファーの背もたれの間に挟まっていた。

右腕にはスマホの充電コードが一周していた。

腹の上に乗っている熱は、恐らく動画をつけっぱなしのスマホだろう。

じゃあ、いったい何が顔の上に乗っているのだろうか。俺はペットなど飼っていない。

俺は右腕を顔の前に持っていって、それを掴んだ。人の肌のような触り心地で、片手で掴める程度のサイズ。

それをゆっくりと顔から離していき、自分の目でそれを確かめた。

それは人間の足だった。見えるのはつま先の部分。

足を持ったまま、逆の手で、その足を辿っていくと、どうやら自分の左足のようだ。

俺は仰向けのまま右腕を動かし慎重にゆっくりと自分の脚を、いわゆる膝を抱える状態に持っていった。

どうやら俺の脚は、膝の付け根辺りから脛が真っ二つに折れ曲がっているようだった。

その折れ曲がった左脚が、膝は胸の近くまでたたまれていて、左足は甲を下裏を上にして顔面に乗っていたのだった。

俺は折れ曲がった部分を丁寧に触りながら、元の形に戻した。

痛みはない。元の形に戻された脚は、違和感なく継ぎ合わされているように見えた。

寝起きの頭が徐々にはっきりとしてきて、むしろ先程までの出来事は夢だったんじゃないかという気もしてくる。

しかし、脚が折れていたのは現実だ。ではなぜそんな部分が折れたのか。普通に生活している限り、骨折などする部位ではない。

頭がはっきりしてくるにつれて、焦りが顔を出してきた。まずは病院に電話した方がいいだろう。

そういえば、歩けるだろうか。

そう思って立ち上がったその瞬間、激痛が走り、俺は意識を失った。

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夢なら覚めないで欲しかった 琉月 @Naru19

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