隣国にスパイとして乗り込み故郷の敵である騎士団長様へ復讐をしようとしたのにうっかり恋をしてしまいました

るあか

第一章 白狼騎士団

第1話 復讐を誓って

 故郷の森が燃える夢。


 辺り一面火の海で、逃げる場所も隠れる場所もない。


 これで見るのは何度目だろうか。


 魔女の同胞が悲鳴を上げて、次々に死んでいく。


 目の前のお母さんに手を伸ばす。


 でもお母さんは触れる前に涙を流して姿を消した。


 そして、嘲笑あざわらう白い鎧の男。



⸺⸺⸺


⸺⸺




⸺⸺ヴァルトーマ帝国 帝都ヴァルトア 宿屋の個室⸺⸺


「はっ!」

 私はガバッと身体を起こす。


「はぁ……」

 またあの夢か……。


 私は“ルカ・エマーソン”18歳。12年前に滅びた『魔女の森』の唯一の生き残りだ。


 当時6歳だった私の脳裏に焼き付いたのは、燃える森、死んでいく仲間、そして……『ヴァルトーマ帝国』の白い鎧。


 私は今の今までその白い鎧への復讐を誓って、当時魔女の森を領土としていた国『メドナ王国』で暗殺やスパイの訓練を受けてきた。


⸺⸺


 そして私は今、『メドナ王国』の“クリスティア女王陛下”の命令の下、隣国『ヴァルトーマ帝国』の『帝都ヴァルトア』へとやってきている。


 これが私の初任務。任務内容は、スパイとして帝国の騎士団に所属すること。

 そして、帝国の“皇帝セシル・ヴァルトーマ”が戦争を仕掛けようとしている事実を掴むこと。


 それが分かり次第メドナ王国は対抗すべく対策をたてる手筈てはずとなっている。

 初任務にして祖国の明暗を握る大事な任務。しくじる訳にはいかない。


 あわよくば白い鎧の騎士団である“白狼はくろう騎士団”へと所属をし、その騎士団長である“ヴァレンタイン将軍”を暗殺する。

 国からの任務はあくまでもスパイの任務。所属する騎士団に指定はないし、暗殺も命じられていない。

 これはあくまで私の願望だ。だから、暗殺することをクリスティア女王陛下にも知られる訳にはいかない。


⸺⸺


 メドナ王国で当時の文献を調べていると、魔女の森の事件には謎が多く、何によって滅ぼされたのかも未だ不明のままだ。

 でも私は確かにこの目で白い鎧を見たんだ。

 そして当時白い鎧の白狼騎士団は“ヴァレンタイン”という名の将軍が騎士団長についており、今もそのままだ。


 つまり、あのヴァレンタインとかいう将軍は、私の故郷の魔女の森を滅ぼしてからも、今の今までずっと騎士団長の椅子で胡座あぐらをかいているということだ。


 絶対に許せない。


⸺⸺


 そして今日はその帝国騎士団の入団試験がある日。

 だけど、ここへ来てある壁にぶち当たる。


 それは、昨夜宿屋の女将おかみさんに白狼はくろう騎士団に入りたいと話をしたときだった。


「あ~、白狼に入りたいのか~」

 女将さんは残念そうに言う。


「何か、問題があるんです?」

「あそこの騎士団長様はね、重度の女嫌いなんだよ」


「えっ……」

 固まる私。


「だから白狼騎士団は全員男。譲ちゃんはいくら実力があっても門前払いだろうね……」

「そ、そんなの男女差別じゃない!」


 最低! なんなのそのヴァレンタインとかいう将軍!

 私の故郷である魔女の森を滅ぼした挙句あげく、女が嫌い?

 まさか、魔女の森が女しか住んでいなかったから滅ぼしたとでもいうの?


 ほんっと信じらんない!



「いやぁ、私に言われてもねぇ……」

 あ、それはその通りだ。

「そうですよね、ごめんなさい……!」

 私は慌てて頭を下げる。


⸺⸺


 そして、今に至る。


 私は今、宿屋の個室で自分の髪の毛にナイフを当てている。

 ブロンドのゆるふわの長髪……結構気に入っていたんだけどな……。


「ええい、やるのよ私っ!」


 これも復讐のため!


 ナイフを思い切って振り上げると、バサッという音と共にその長かった髪は一瞬でショートボブへと変化した。


 そして、個室のランタンの火を使って切った髪は跡形もなく燃やしてしまった。


 鏡を見ると、今までの私はどこにもおらず、女とも男とも見える性別不明な人がそこに立っていた。


 いける、これなら……!


 私は胸はそんななかったけど一応晒しを巻いて、女の子っぽい道具は全部捨てた。


 宿屋を出ると、その足で防具屋へと向かう。


 私が出て行った直後、女将さんが驚いて入り口から顔を出して私を見ていたらしいけど、復讐心で視野が狭くなっている私は気付なかった。



 そして防具屋で男性用の防具を購入し、更衣室で着用して外に出る。


 もうこれでどこからどう見ても男の魔双剣士まそうけんしだ。


「よしっ」


 と、気合を入れると、私は帝都の騎士団総本部へと向かった。


⸺⸺騎士団総本部⸺⸺


 うわ……すごい人。建物のロビーは若い人たちでごった返していた。

 そりゃそうか。この国の人々はみんな騎士団に憧れるし、倍率も1000倍とかって聞いた。

 しかも一部例外を除いて入団資格は18~20歳の人限定。私と同年代の人がこれだけいるということだ。


 すごい倍率だけど、大丈夫、たくさん訓練してきたんだから。


 試験の内容は“筆記試験”に“身体能力試験”、そして、各騎士団長による面接だ。

 この国の騎士団は白狼騎士団だけではない。全部で5つの騎士団があって、それぞれ色で別れている。


 それぞれの騎士団には特徴があり、私の希望する白狼騎士団は“質実剛健”。真面目でしっかりとした力強い騎士団らしい。


 人の故郷を滅ぼしておいて何が質実剛健よ。直接入ってその化けの皮、剥いでやるんだから。


 標的の男が何が弱点か分からなかったため、私は物理も魔法も両方極めた。

 そのおかげで身体能力試験は恐らく楽勝だ。男の能力で測られたとしても十分通用すると思う。

 まさかあの努力がこんなところで約に立つとは。


 そして筆記試験は過去10年分の過去問で猛勉強をして対策も万全だ。

 女王陛下に試験問題盗んで来ようかと言われたけど、ズルはしたくなかったので“絶対受かりますので”と言ってそのお心遣いは受け取らないでおいた。


 それなのにここへ来て“性別詐称”とかいう大ズルをかまそうとしているんだけど、それはだって……どうしても白狼騎士団に入りたいし……。


 私は受付のための長蛇の列に並ぶ間、まだ見ぬかたきの顔を思い浮かべていた。

 少なくとも12年前から騎士団長をしているんだから、年はきっと40代から50代。

 それで容姿はキモい顔のハゲたおっさん。

 鎧の兜を取った瞬間モザイクがかかるレベル。


 絶対そうだそうに違いない。そんなやつが私の故郷を滅ぼしておいて質実剛健な騎士団の団長なんて……。

 ぐぬぬ……絶対に許せない。


「次の方どうぞ」

「あ、はい」


 待ってろキモおじ! 絶対に復讐してやるんだからっ!


「こちらに必要事項の記入をお願い致します」

「はい、分かりました」


 私は頭の中のキモおじをかき消して、用紙を持って記入台へと向かった。


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