進学校の美少女たちは僕を好きになってくれない
ぬくぬく毛布
第1話 恋愛脳なクラスメイト!
カーテンの隙間から差し込んだ朝の日差しがまぶたの上から突き刺さる。もう少し寝かしてくれよと嘆く身体と喧嘩しながら立ち上がり部屋を出る。
「兄、おはよ」
俺、伊勢時成(いせときなり)にはひとつ下の妹、懐姫(なつき)がいる。
「おはよ」
兄妹の仲はいい方だろう。喧嘩した覚えもほとんどない。学年がひとつしか違わないから勉強なども教えあったりできる。数学が苦手な俺は懐姫に教えてもらうことが多い。出来のいい妹を持った特権である。
「学校どう?友達とかできたの?」
鏡の前に並びながら歯を磨いていると懐姫がそんなことを聞いてくる。
「お兄様はイケメンだからな。そのうちできるだろ。しらんけど」
いまだ友達は少ない。幼馴染が1人、同じクラスにいるだけだ。もしいてくれなかったら本当に詰んでいたかもしれない。だが、高校が始まってまだ4日しかたっていない。いまだ朝の教室は期待感とほんの少しの緊張感を感じさせる。
「お兄ちゃん、かっこいいのは否定しないけど、イケメンってぼっちになりやすいんだよ?気をつけてね?学校楽しくなくなっちゃうよ…」
妹が心配してくれるのは嬉しいがイケメンは友達ができづらいなんて聞いたことがない。中学校では小学校の頃からの友達がいたし、ぼっちにならなかったが、新しい友達だってつくれた。きっと高校でも大丈夫だろう。そんな風におもっているのだが、実際クラスは少しづつグループができ始めている。もしかして高校じゃイケメンは友達できないの?
「私、もう行くね。お家の鍵たのんだよ」
「わかった。忘れ物するなよ」
歯を磨き終え階段を上り、自分の部屋へ入る。壁に掛かったハンガーに手をつけ、まだ慣れない制服に袖を通す。男の子はまだ身長が伸びるらしく、少し大きいサイズで制服を購入する。不恰好なわけではないが、なんだか幼く見えてあまり好きではない。
「よし、行くか」
スマホをポケットに滑り込ませ、家を出て鍵を閉める。最寄駅の側にあるコンビニでヨーグルトを買い、改札口に定期をかざしてホームへ降りる。すぐに10両編成の電車がホームへ滑り込んでくる。我が家から俺の合格した高校『市立塔都(とうと)高校』までは電車で20分弱で着く。俺はいつも通り、前から3両目の1番前のドアから乗り込み電車に揺られながら単語帳に目を落とす。俺はこの時間が嫌いではない。実際、電車に揺られながら単語帳を眺めることなんて高校を卒業したらそんなにないんじゃないだろうか?だから「今、俺は青春を謳歌しているんだ」と実感できるこの日課がなんなら好きだったりする。最寄りからひとつ学校よりの駅に停まると見慣れた顔が乗り込んでくる。
「おはよう時成。今日、単語テストだっけ?」
「今日は金曜日ですよ。単語テストはあります」
中学時代に俺たちのクラスを担当していた担任の真似をしながら単語テストがある事を伝える。ふふっとさりげなく笑ってくれるこいつの横は居心地がいい。いかにも単語テストの勉強をやってなさそうな発言だが、こいつが単語テストを不合格になったところは中学校から見たことがない。小学校では単語テストなんてなかったから、こいつはきっと一度も不合格になってないんだろう。隣にならんでいるこいつは羽島光(はしまひかる)、園児のころからずっと同じクラスで幼馴染だ。2人で単語帳を眺めながら朝のテストにどの単語が出そうだなんて話をしていると高校の最寄りに着いたらしい。
「The next stop is Touto.The door will leftside open.」
心地の良い自動放送の聞きながら電車を降りる。定期を改札にかざして西口から徒歩4分ほどで市立塔都高校だ。光と一緒に靴を履き替え、1-Aと書かれた教室へ入ったところで別れる。高校が始まってまだ1週間もたっていないため出席番号順の座席だ。残念ながら光とは席が離れてしまっている。ずっと一緒だとマンネリ化するかもしれないしこれくらいがちょうどいい、なんて思うが、10年以上ずっと一緒なのだ。そうゆうレベルのお話ではない。俺の席は最左列の前から2番目。出席番号2番。1番じゃなくて良かったなんて、ひとつ前の席の人に申し訳ないのことを考える。俺は正直この席が嫌いだ。出席番号1番の女の子、藍沢さんはいつも友達と一緒だ。そのせいで少し居心地が悪い。
「あ!伊勢くんおはよ〜」
「おはようございます。藍沢さん」
義務的な挨拶を済ます。藍沢さんは愛嬌を鍋に詰め込んで煮詰めたような人柄なのでこうやっていつも挨拶してくれる。やはり男子にとって、女子からの挨拶は嬉しいものだ。でもまだ友達とは言えないかな、というのが俺の彼女に対する印象だ。営業スマイルを俺に振りかざした後、すぐに藍沢さんはガールズトークに戻っていく。挨拶してくれるのはうれしいのだが、いつも俺が教室に入る前に藍沢さんと話していた女の子たちが「こいつ誰だよ」って目でチラッと見てくるのがすごく嫌だ。居心地が悪すぎる。手持ち無沙汰なのでスマホで教室の中央あたりの最後列、クラスが見渡せる位置にいる光に意味のわからないスタンプとかを送る。するとプロフィール画像にありえないサイズの胸をしたアニメキャラを使っている趣味丸出しのどすけべ、光から文字が送られてくる。
光「いいよなぁ時成は。もうすでにヒロイン見つけやがってさ。」
ほんの一瞬戸惑う。「ヒロイン?だれのことだ?」と思っているとさらに光から通知がくる。
光「藍沢さんすごくいいよな。ヒロイン感というか主人公感がやばすぎる。時成が恋に落ちるのも納得だわ」
でたよ。これだよ。光はほんとにいい奴で、口も硬く相談ものってくれる。なにより一緒にいて心地よい。しかしあいつの唯一の欠点は恋愛脳すぎる。まだ学校始まって1週目だ。男女が少し会話しただけでリア充がどうだとか、どっちの片想いだとか両思いだとか、ほんとに救いようがない。
時成「お前さぁ、そうゆうのは中学までにしとけって言ったじゃん。ここは進学校だぞ。恋愛なんてしてる暇ない。藍沢さんもきっと学校に勉強しにきてるんだよ」
藍沢さんは噂によると帰国子女で、英語が堪能らしい。というか主席だ。入学式でみんなの前でなんかしてた。そんな藍沢さんが恋愛?ありえないし、なにより毎朝挨拶を交わすだけの関係。友達なのかすら怪しい。
光「なんでだよ!藍沢さん可愛いだろうが!早く仲良くなって気持ちを伝えないと藍沢さんがほかのクソ男どもにとられちまうぞ!」
時成「なんで俺なんだよ。そんなに藍沢さんが気になるならお前が気持ちを伝えろよ」
光「い、いや俺じゃダメだ。英語ができない。共通の話題がない。」
こいつは藍沢さんをなんだとおもってるんだ?藍沢さんの会話デッキには[英語]しかないと思ってるらしい。意味がわからない。しかし、藍沢さんが気になる光の気持ちも全くわからないわけではない。太陽ような明るい笑顔に優しい声と人柄。髪型はボブで、彼女の明るい雰囲気にマッチしている。スカートも膝上くらいの短さで可愛い。案外、短すぎるスカートというのは男子ウケが悪いのだ。彼女はそこを分かっている。スカートから覗く脚は健康的で運動ができそう、という印象を受ける。おまけに成績優秀ときた。モテない方がおかしい。
時成「こっち来るか?藍沢さんと話せるかもしれないぞ」
親友の素晴らしい気遣いに感謝して欲しい。藍沢さんと仲良くなるチャンスをあげようと言うのだ。断る理由もない。しかし、光からの返信がない。不思議に思って教室の後ろをみると、鼻の下をブラジルまで伸ばした光がみえた。
「全然そんなことないよ〜。三河さんってすっごく可愛いね!連絡先交換しようよ!」
光は右の席の三河さんになにか褒められたりでもしたのだろうか。デレデレしながら楽しそうに会話している。というかちゃっかり連絡先交換してるじゃねぇかふざけるな。
光「やっぱり俺のヒロインは三河さんだ。というか三河さん以外の女なんてありえねぇ!俺のことかっこいいってゆってくれたぜ。高校デビューだ!!」
お前さっきまで藍沢さんのこと気にしてただろ。女の子なら誰でもいいのかよふざけるな。俺は《親友との縁の切り方》と検索しそうになったが踏みとどまる。そんな簡単に縁を切るような人間にはなりたくない。もっとも、あいつと俺の縁は切ろうとしても多分切れないけど。
時成「あんまりがっついて、三河さんに迷惑かけるなよ。でも応援してる。がんばれ」
光「あったりまえだろ。俺は三河さんとお家デートするんだ!!」
なんだかとんでもない通知が見えた気がしたが、気のせいだ。おうちデート?そんなのエッチすぎます。懐姫いわく、俺は女子の家に行くと捕食されるから気をつけろと言われている。女はアリジゴクか何かなのだろうか。光にも気をつけるよう伝えると言った時にあいつは食べる側だからどうでもいいとか言ってたっけ。懐姫すげぇな。中学時代の同級生いわく、顔面の偏差値は俺>光らしいが、顔面の系統が違いすぎるからあまり当てにならない。光は女子ウケのいい、愛嬌のあるイケメンである。もちろん光もここ、市立塔都高校の生徒である。すなわち、頭が良い。というかあいつの数学はなんかこう、おかしい。彼はいわゆる数学徒といつやつで意味不明なまでにすらすらと問題を解いてしまう。彼いわく、英語みたいなクソ教科よりよっぽど簡単に点を伸ばせるとのことだ。三河さんに数学を教えている間に意気投合して付き合っちゃいました!なんて未来が想像できる。光ならワンチャンスあるんじゃないかなんて思える。三河さんも光に好印象を抱いていそうだったし、ほんの少しだけ妬いてしまう。ぽやぽやとくだらないことを考えていると前から優しい声が飛んできた。
「伊勢くん。学級委員するつもりあるかな?」
「うーん。いまのところはするつもりはないですね」
俺は周りの人間をまとめるのが上手い、というよりセンスがあるんだと思う。小学校でも中学校でもそうゆう役割をすることが多かった。しかしここは進学校。まわりの奴らも皆、そうゆう役割をこなしてきた人間だ。きっと俺なんかよりもずっと上手くまとめれる人がいる。それに1年生から学級委員はなんだか気恥ずかしい。あまり気が進まない。
「そっかぁ。残念だなぁ」
なんだか藍沢さんはガッカリしている。なんでだよ。藍沢さんだけやればいいのに。
「藍沢さんは学級委員やるんですか?」
「うん!やるつもりだよ!」
さすがは主席、モチベーションが常に最大値をとるらしい。藍沢さんならクラスもうまくまとまりそうだ。
「でも、あれって男子1、女子1でしょ?男の子あんまり得意じゃなくってね。なんか話しかけても適当な返事しかしてもらえなかったりするの。それで男の子の友達が伊勢くんしかいないから聞いてみたの」
おっとっと。と、友達?毎朝挨拶してるだけじゃん、なんておもったけど悪い気はしない。多分男子は照れ隠しで冷たい対応をするんだろう。適当なわけではないと思うがわざわざそれを伝えるほど野暮ではない。藍沢さんはうーんと唸って「私困りました」なんて吹き出しが出てそうな顔をする。
「そうなんですね。もし、誰も立候補しなかったら学級委員も考えてみますね」
気づいたときにはそう口にしていた。え、なんでだ。俺は学級委員なんてしたくないのに心と口が繋がってないみたいだ。決して藍沢さんとの会話に浮かれているわけではない。
「ほんとに!?伊勢くんと学級委員するの楽しみにしてるね!」
うん。学級委員したくなってきたぞ。ついさっきまで光のことを恋愛脳がどうだとか言っていたくせにこれである。目も当てられない。ぽわぽわとどうでもいいことを考えているとチャイムがなる。それと同時に担任が「よいしょっ」といいながら入ってくる。
「おはようー。とりあえず、テストするから単語帳しまってくれー」
一瞬教室がざわざわとする。高校生活第1週目、初めてのテスト。やはり皆、思うところがあるのだろう。「やばい緊張してきた」だとか、「これ不合格だったら飛び降り案件だな」なんて声まで聞こえてくる。たかが単語テストだぞ。命なんてかけるな。
「え!た、単語テストなの!?」
目の前の主席さんがこっちを振り向いて確認してきた。こくこくと首を縦に振ってそうだよと伝えてあげる。
「なんでみんな教えてくれなかったんだろう…」
あぁ、藍沢さんがしょんぼりモードになってしまった。うん。可愛…、どんまいです。
「そしたら始めるぞー。大体5、6分で回収するからなー」
カツカツとシャーペンが机に当たる音が心地よい。これこそ進学校の雰囲気である。あんな恋愛脳だらけの浮ついた雰囲気は進学校にふさわしくないだろう。俺はてきぱきと問題を片付けていく。金曜日の小テストは5〜6分で30問。しかしこれがそこそこ難しい。英単語が与えられて、その単語について説明している英文を選択するというものだ。いわゆる英→英翻訳。単語の意味を理解した上でそれを説明している英文を選ぶ必要がある。これは単語の勉強をしていない生徒だけでなく、英語が苦手な生徒も詰むのではないか?藍沢さん、光どんまいです。
「よーし。後ろから前に回してくれ。名前絶対忘れるなー」
俺は30問中26問は迷わず解けた。しかしなんかえげつないのが混じっていたように思う。[hay]とか[optimistically]だとか大学受験じゃ当たり前なのだろうが、これは高校1年生の1回目、しかも朝の単語テストである。やりすぎでは?と思いもしたが、進学校たるもの、こうあるべきというのもわからなくはない。
「そうだそうだ、学級委員やりたい奴いるか?」
担任がどうでもよさそうにクラスに問う。待ってましたと言った雰囲気で、目の前の女子が手を挙げる。
「おぉ、主席さんはさすがだねぇ。女子の1枠は藍沢さんでいいかな?」
担任がクラスの女子に問うと全員うんうんと頷く。
「じゃあ次、男子でやりたい奴いるか?」
藍沢さんとペアなんてやりたい人が大量にいてもおかしくないと思ったが、主席とタッグになるのはなかなかのプレッシャーらしい。誰も手を挙げない。担任が困ったなぁといった顔をする。当たり前だが、可愛らしさは皆無だ。
「誰か1人は絶対に必要なんだ。先生が勝手に選ぶがいいか?」
クラスに緊張感が走る。クラス全体の人数は30人とちょっと、男子は16人だから当たる確率は6%程度だろうか。静寂を破るように光が発言する。
「先生、藍沢さんに選んでもらうのはどうでしょう?一緒に仕事するんだし、藍沢さんがやりやすい相手がいいと思います」
その瞬間クラスの男子15人の当たる確率が0%になり、俺の当たる確率が100%になった。これが確変とかいうやつなのだろうか。最悪である。担任もそれいいね!といった表情である。
「藍沢、えらんでいいぞ。男を選ぶのは慣れてるだろ?はははっ」
担任がそんな発言していいのかと思ったが藍沢さんは営業スマイルで担任のうざい絡みをかわして、「伊勢くんでお願いします」と告げる。悪い気はしない。藍沢さんと仲良くなって、学級委員から恋に発展。シナリオとしては悪くない。だがあの大雑把な担任が目をまん丸にしている。そして意味ありげな笑みをうかべて話しかけてくる。
「伊勢、お前なかなかやるな。転がってきたチャンスを掴む実力はお持ちかな?」
おいまて。なんだこのクラス。担任まで恋愛脳なのかよふざけるな。クラスの女子もなんかざわざわしてるし、男子は男子であいつは藍沢いったかぁ〜とか聞こえてくる。居心地は最悪である。
「そしたら今日もがんばろうなー」
そう言って担任が出ていく。なんだか悪目立ちしてしまった。だが、避けようがなかった。某野球ゲームで例えるならば100%の確率で調子が紫色の落ち込んだ顔になるイベントだったのだ。
「伊勢くん!1年間よろしくね!一緒に頑張ろう!」
藍沢さんが嬉しそうな顔で話しかけてくる。前言撤回である。調子はピンクの顔面が踊っている。藍沢さんとの学級委員、頼ってもらえるように頑張ろう。そう心に決めた高校生活第1週、金曜日の朝だった。
進学校の美少女たちは僕を好きになってくれない ぬくぬく毛布 @nuku2mo-2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。進学校の美少女たちは僕を好きになってくれないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます