usual
@Ritsu20
親子
狐の嫁入りであろうか。
雨粒が車窓をたたく音が心地良い。
モノの境界が溶けて消え入っている。
舗装された石畳の道路の上を、近年増え始めた2両編成の列車が走る。
先頭車両前方車窓の視界に入る車掌と、列車を引く3匹の馬を眺めた。
今は昼下がりである。
傾きかけた日に情趣を感じる。
向かいに座っている身なりの良い母子の会話が聞こえる。
2人は、揃って赤の花柄模様をアクセントにした白黒の色調の服を、それぞれレースワンピースとタキシードに身を包んでいる。
「おかあさま、僕には分かりません。なぜ向こうに着いたらおかあさまを『おかあさま』と呼んではいけないのですか?」
見れば、齢5つほどと見える男子は表情を曇らせていた。
その男子が声をかけている、隣に座る女性が目に入る。
女性は、目元に慈悲深い優しさを見せつつも、この質問に堪えがたいと言わんばかりの口元をしていた。彼にはそれが分かるだろうか。
路面の埋め込まれた線路の溝をなぞる車両が刻む一定のリズムを、カタン、カタンと感じる。
女性は彼の両肩を支え、顔を正面に向け微笑みながら、宥めた。いや、こう諭した。
「アキト。その理由を貴方に語ることは私には出来ません。それは公にされていない規則であって貴方を守るためのものです。おかあさんを信じて。お願い」
彼は次のように続けた。
「僕がおかあさまを『おかあさま』と呼んではいけない規則など、そんなことがあって良いのですか?如何なる規則も僕たちが親子であろうとすることを邪魔することは出来ないはずです」
彼はより一層表情を険しくした。
彼女はより一層優しい表情になった。
「ええ、そうです。アキト。私たちの仲を邪魔することの出来るものはありません。なぜなら私たちは深い愛で、強い絆で結ばれているからです。だから例え形式的にその関係が認められない環境が、規則があろうとも、私たちが親子であることは揺るぎません。ですから、安心なさって。私はあなたを心から愛しています」
その後彼女は一瞬悲しい表情を見せた。
少し応対がおかしい気がする。彼女は焦っている。
「分かりました。おかあさま」
少年は少し俯いて、悲しげにそう言った。
そこで会話は終わった。
それから少しの間、私たちは列車に揺られ続けた。
「次は、王宮東、東門前です」
落ち着いた男性の声が車内に響いた。
「アキト。次で降りますよ」
女性は彼に言った。
そして2人は次の停留所で降りていった。
なるほど、朧げではあるが理解した。
自己嫌悪でしょう?お義母様。
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