第8話:限界を超えた加速
ダンジョンの奥深く、空気は冷たく重い。暗闇に包まれた視界はぼんやりしていて、洞窟の壁から滴る水音だけが耳に残る。俺は足元の小石を踏みしめながら、深く息をついた。先ほどの強敵との戦いで、すでに体は限界に近づいている。それでも、歩みを止めることはできない。
目の前には、これまでのどんな敵とも違う、圧倒的な存在感を放つ巨大なモンスターが立ちはだかっている。黒い鎧のような外皮に覆われ、鋭い爪、赤い瞳が血のように輝いている。その咆哮が地を揺らし、俺に向かって突進してきた。
「……これが、最後か」
そうつぶやきながら、俺はまたしても加速スキルを引き上げる。筋肉が悲鳴を上げ、体が軋む音が聞こえるほどだ。それでも、俺はそれを押し殺し、前へ進む。
「加速!」
瞬間、世界がスローになり、モンスターの突進が遅く見える。けれど、俺の体も同じように鈍く感じる。疲労が蓄積し、スキルの発動がこれまでのように軽快じゃない。呼吸は荒く、心臓の激しい鼓動が胸に響く。
「まだだ……もっと速く……!」
さらに加速を強め、時間が一層遅くなる。モンスターの動きが止まって見える中、俺は全力で動き、脇腹に一撃を加えた。
「これで……終わりだ!」
刃が外皮を裂き、モンスターは苦しげにうめいた。だが、その巨体はすぐに体勢を整え、再び俺に襲いかかってきた。
「くっ……!」
モンスターの反撃があまりに速い。加速スキルを使っている俺ですら、その速さに追いつけない。鋭い爪が俺の肩をかすめ、浅い傷を負った。
「まだ終わらない……!」
痛みを無視して、再び加速。必死に攻撃を避けながら隙を探すが、体はますます重くなる。視界は霞み、体中に激しい痛みが走る。
「……限界か?」
自問しながらも、俺は加速をさらに引き上げ、最後の力を振り絞った。そして、なんとかモンスターの背後に回り込み、全力の一撃を叩き込む。
刃がモンスターの外皮を貫き、深く食い込む。巨体が悲鳴を上げ、激しくのたうち回る。そして、ついにその巨体は崩れ落ち、動かなくなった。
「終わった……」
息を整えようとするが、全身に鋭い痛みが走り、膝をつく。
「くっ……」
体が鉛のように重く、指一本動かすのも辛い。筋肉が限界を超えた負荷に耐えきれず、視界がぼんやりと歪んでいる。
「これが……加速の代償か……」
ようやく実感する。これまで無敵だと思っていたスキルが、今や俺の体を蝕んでいる。肉体的な限界が、まざまざと目の前に突きつけられたのだ。
「……俺にも限界があるのか?」
そう呟きながら、しばらく動けなかった。自分の限界を試し続け、力を引き出してきたが、その代償はあまりにも大きい。体中に広がる疲労と痛みを感じながら、俺はその現実を直視せざるを得なかった。加速に頼りすぎて、自分自身を過信していたんだ。
拳を握り締め、虚無感が胸に広がっていく。勝利を手にしたはずなのに、そこに達成感はない。むしろ、限界を突きつけられたことで、自分がこの程度なのかと思い知らされる。
だが、俺は限界を認めるわけにはいかない。孤独に戦い続け、自らの力を信じてここまで来た。信念を否定することは、自分を否定することになる。
「まだ……終わりじゃない」
疲れ切った体を無理やり起こし、足を踏み出す。全身に痛みが走るが、それでも歩みを止めない。戦い続けるしかない。そう信じて、進むしかなかった。
「これが……俺の選んだ道だ」
俺は自分に言い聞かせ、次の戦いに向かって歩みを進めた。だが、心の奥底では加速スキルの限界と、そのリスクを強く意識していた。
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