第6話:孤高の戦いに疑問を抱く

ダンジョンの深部へ進むごとに、冷たく重くなる空気が体にまとわりついてくる。足音が虚ろに洞窟の壁に反響しているだけで、耳に届く他の音はない。以前なら、この孤独な戦いが唯一正しいと信じて疑わなかった。俺の力で、俺一人ですべてを打ち倒す――それが俺の道だった。だが、今は違う。心の奥に微かな違和感が広がっている。


目の前に現れたのは、全身が黒い甲殻で覆われたモンスター。まるで闇そのものが具現化したような、圧倒的な存在感を放っている。咆哮と共に、そいつが俺に向かって突進してくる。


「加速!」


慣れた手つきでスキルを発動。時間がスローに感じられ、モンスターの動きが遅く見える。瞬時に背後に回り込み、一撃で甲殻を砕いた。モンスターは苦しげな叫び声を上げ、崩れ落ちた。


「また……一匹か」


勝利を収めた。けれど、いつもなら感じるはずの達成感はなかった。むしろ、心の中には虚無感が広がっている。なんだ、この感覚は?


「この戦いに、終わりはあるのか……?」


心の中で自問する。これまで、ただ自分の力を証明するために戦ってきた。仲間なんていらない。誰かに頼ることは、自分を弱くするだけだと思ってきた。孤独こそが俺を強くする――ずっとそう信じてきた。


だが、最近、胸の奥に広がるこの違和感……何だ?


「これが……本当に正しいのか?」


かつて、仲間と共に戦ったことがあった。でも、あの時、信じていた仲間に裏切られた。それ以来、俺は誰も信じないと決めた。誰かと共に戦えば、弱さが生まれるだけだ。それが俺の結論だった。


けれど、ダンジョンを進むたび、心の中に疑念が生まれ始めていた。なぜ俺は、こんなにも一人で戦い続ける必要があるのか? 他の冒険者たちは助け合っているのに、なぜ俺だけがこの孤独な戦いを選んだのか?


「俺は……間違っているのか?」


その思いが頭をもたげるたび、俺はそれを振り払おうとした。これまでの信念を疑うことは、これまでの自分を否定することになる。そんなこと、耐えられるわけがない。


次の敵が現れる。複数のモンスターが俺を囲むようにして襲いかかってきた。巨大なゴーレムに鋭い牙を持つ獣――どいつも、俺を倒そうと迫ってくる。


「くそ……」


疲労が体を蝕んでいるのがわかる。加速スキルを使おうとした瞬間、鋭い痛みが体を突き抜けた。スキルの酷使が、体にも精神にも限界を近づけている。


「まだだ……まだ、終わっていない!」


無理やり加速スキルを発動。再び時間がスローに感じられるが、俺の動きは前ほど軽快ではない。疲れが反応を鈍らせている。それでも、何とかモンスターたちを倒したが、勝利の感覚はますます薄れていく。


「これが……本当に正しいのか?」


虚無感が胸に広がる。孤独に戦い続けることが、本当に俺にとって正解なのか? 疑問が頭を離れない。それでも、その疑いを口に出すことはできなかった。俺には、もう進むしかないんだ。


ふと、脳裏に過去の仲間たちが浮かんだ。彼らは俺を裏切り、見捨てた。だから俺は孤独を選んだんだ。誰も信じない、誰にも頼らない――それが一番だと思った。


けれど、もしあの時、別の選択をしていたら? 今、誰かが俺を助けてくれる存在がいたなら? そんな思いが俺を苦しめる。


「そんなはずはない……誰も信じない方がいいんだ。俺には、俺の力がある。それで十分だ……」


自分にそう言い聞かせるが、言葉に以前ほどの確信はない。戦いが終わるたびに感じる孤独感と虚無感。次第にそれらが、俺を蝕んでいる。


それでも、足を止めるわけにはいかない。迷いが心をかすめながらも、俺は次の戦いへ進む。道中には、俺が倒した無数のモンスターの屍が転がっている。俺の過去の戦いが、ここに刻まれている。


「これが、俺の選んだ道だ……」


そう呟きながら、さらに奥へ進む。しかし、その背中には以前のような確固たる信念はなく、迷いと虚無感がまとわりついている。


孤独に戦い続けることの意味。誰も信じない道の先に待つもの。その問いが、俺の心に重くのしかかってくる。


「俺には、答えが……あるのか?」


問いに答えられないまま、俺は進み続ける。



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