加速の覇者と幻影狼の絆

りおりお

第1章:孤高の覇者

第1話:突如現れたダンジョン

現代社会は、その日もいつもと変わらず、ただ流れていた。ビル街を駆け抜ける喧騒、電車の軋む音、スマホに顔をうずめたまま歩く人々。どこにでもある日常。そんな光景が、何の前触れもなく、突如として壊れた。


午後の昼下がり、街の中心に突然、巨大な「ダンジョン」が現れた。まるで大地が引き裂かれたかのように、巨大な裂け目が地面に走り、そこから異様なオーラが立ち上る。誰もがその光景に足を止め、目を見開いていた。裂け目から黒い霧が立ち上り、見る者すべてに恐怖を植え付けていく。穏やかに見えた街が、一瞬で未知の世界に繋がったようだった。


街中にパニックが広がるのに時間はかからなかった。ニュースは瞬く間に広まり、警察や自衛隊が駆けつける。だが、裂け目から次々と現れる異形のモンスターたちは、今までの常識を覆す存在だった。巨大な怪物、鋭い爪を持つ獣、そして人間のような姿をしたものまで。モンスターたちは容赦なく人々を襲い、街は瞬く間に混乱の渦に飲み込まれていった。


「モンスターだ!」「早く逃げろ!」

人々の叫び声が四方八方に飛び交い、街は恐怖に支配されていく。その中、政府や自衛隊が必死に対応しようとするも、異形のモンスターたちはあまりにも強力だった。


だが、そんな混乱の中で、俺はただ冷静に、その光景を見つめていた。


俺の名はまだ誰にも知られていない。そしてそれでいい。俺は、他の誰とも違う存在だ。ダンジョンが現れる前から、自分の力に気づいていた。「加速の支配者(アクセレレーター)」——俺は、時間を加速することができる。自分自身や周囲のものすべてを、思い通りに速める力だ。


街が混乱の渦に包まれる中、俺は静かに歩を進める。慌てふためく群衆や逃げ惑う人々には目もくれず、ただ一人で。彼らの目には、俺の姿はほとんど映らない。俺の加速した時間の中では、彼らが鈍く見えるのと同じように、彼らの世界も俺にとっては遠いものだ。


「またか……」


俺は静かに呟く。まるで日常の出来事のように、街に現れたダンジョンを見据えていた。恐怖は感じない。むしろ、心が少し高揚している。これまで経験したことのない挑戦が、目の前に広がっているのだから。


群衆が逃げ惑う中、俺はダンジョンに向かって進む。その瞬間、巨大な怪物が俺の前に立ちはだかった。鋭い牙を剥き出しにし、咆哮を上げながら襲いかかってくる。その姿を見ただけで、普通の人間なら腰が抜けてしまうだろう。しかし、俺には恐怖など微塵もない。


「加速」


その言葉を心の中で唱えた瞬間、世界はスローになった。怪物の動きが止まる。いや、実際には止まっていない。俺が圧倒的な速さで動いているだけだ。怪物の爪がゆっくりと空を切るが、すでに俺はその攻撃の届かない場所に立っている。


振り向けば、怪物の背後に俺の姿があった。そして、一瞬のうちに拳を振り下ろす。衝撃波が周囲に広がり、巨大な怪物は音もなく吹き飛ばされる。後から轟音が響き、怪物の体が地面に叩きつけられた。


「この程度か……」


周囲を見渡すと、次々に現れるモンスターたちがいた。だが、俺にとってはどれも同じだ。加速した世界の中で、彼らの動きは鈍く見える。俺は再び加速し、次々に敵を仕留めていく。


人々が恐怖に包まれる中、俺の姿は誰の目にも映らない。ただ一瞬、モンスターが倒れ、次の瞬間には何もなかったかのように平静が戻る。


俺は静かにダンジョンの裂け目に目を向けた。そこからさらに強い気配を感じる。


「もっと強い奴がいるはずだ……」


この程度では物足りない。俺はさらなる強敵を求め、ダンジョンの奥へと向かう。誰も俺の存在に気づくことなく、ただ俺一人がこの世界で戦い続ける。


孤独な戦い――だが、それは俺にとって日常だ。誰かに頼る必要も、助けを求める必要もない。俺の力だけが、俺を支えている。


裂け目から立ち上る異様なオーラが俺の肌を刺すが、恐怖はない。むしろ、その異様さが俺を引き寄せていく。もっと強い敵が、きっとこの先にいるはずだ。


俺は静かに、だが確実にその闇の中へ足を踏み入れた。


「俺の力を試すには、これくらいがちょうどいい」


そう思いながら、俺はさらに奥へと進んでいく。

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