[激推し!]「1-24 越すに越されぬアタカとは〜あるいは時計師が竜を討ち滅ぼすまで〜(第一会場一位投票)」

【対象作】

 1-24 越すに越されぬアタカとは〜あるいは時計師が竜を討ち滅ぼすまで〜

 https://ncode.syosetu.com/n6955jk/25/


【推し語り】

 時計師である主人公の一人称語りで進んでいく本作。

 個人的に最大の魅力は「世界の循環が透けて見える」「語りが世界に溶け込んでいる」点でした。


 一例を挙げれば、滑龍なめろうと呼ばれる生物について。

 出だし場面は、主人公が滑龍の骨を注意深く研磨している場面から始まります。研磨の様子が繊細な描写で描き出されますが、この時点ではまだ「そういう素材なのね」くらいの認識でした。

 しかし文章が進むにつれ、追加でいろいろなことがわかってきます。

 滑龍の骨は特殊な性質を持っており特定用途に適すること、それゆえに時計師にとっては重要な素材であること。

 滑龍が巨大竜「アタカ」を恐れて姿を見せなくなったこと、それゆえに時計師の稼業に大きな悪影響が出てきたこと。

 つまり因果が全部繋がっているんですよね……滑龍の存在と主人公の生業と、それらに対する竜アタカの影響。互いに影響を与え合って世界が回っている(あるいは回っていない)様が、明確に見て取れる。


 話中に登場するほかの要素についても同じで、時計師の社会的立ち位置が書記の仕事へ繋がり、さらにそれが竜退治への同行依頼へと結びついたりと、作中世界のさまざまな要素が有機的に結びついて動いていることが察せられます。

 背景世界が生きている、と感じます。



 そして主人公の語りにも、世界に溶け込んでいる感じがあります。

 諦観の色を少なからず感じる語りには、疲れたような色が乗っていて、その世界で生活している人間としてのぼやきに聞こえます。決して、よそのひと向けの世界観解説ではなく。

 時折混じる主人公の心情吐露、たとえば「誰も僕を愛さない」「生きることとはこういうことだ」「まあそんなものだ」のようなフレーズに、この世界の住人感が滲んでいて好きです。



 一点だけ気になったのは、時計師の収入事情について。

 時計には多大な需要があると語られており、また時計師が高度な技術を要求される職種であることも本文内容から明白と思われるのですが、だとすると「時計師なんて大体儲かるものではない」のはなぜだろう、と疑問に思ってしまいました。通常、高度な技術職でかつ高い需要があるのであれば、収入は技術力と需要に応じて高くなるのでは……という気がします。

 ごく軽い一言だけでよいので、需要の高さと低収入との矛盾を解消できるような理由付けがあれば完璧だったように思います(たとえば「時計自体の需要は高いが、しっかり作った時計は耐用年数が長いので、買い換え需要がほとんどなく新規には売れない」「平時は儲かるが、アタカの影響で材料費が暴騰し、元が取れる水準でなくなった」など?)

 世界が立体的に組み上がっているからこそ、少しだけ引っかかりを感じた部分です。



 ……とはいえそれはささいなことで、垣間見える背景世界の完成度はとても高いように見受けられました。

 ということで、第一会場一位票を投じてまいりました。

 読後、この精緻な世界の続きを見たい気持ちになったのは間違いありませんでしたので!

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