第15話 今の私たちに出来ることを

 崩壊していくアルカディアの街を必死で駆け抜けながら、私の頭の中は混乱に満ちていた。

 科学では説明できない現象、リリアの自責の念、そして迫り来る虚空議会。

 全てが渦を巻いて、私の理性を揺さぶる。


「はぁ……はぁ……」


 息を切らしながら、ようやく人気のない路地に逃げ込んだ私たちは、その場にへたり込んだ。

 背後からタカハシたちの声が聞こえなくなり、一時的に安全な場所に辿り着いたようだ。


「リリア、大丈夫?」


 隣を見ると、リリアは膝を抱えて震えていた。

 その姿を見て、私の心が痛んだ。


「私のせい……全部私のせい……」


 リリアの呟きが聞こえる。

 彼女の目は虚ろで、まるで魂が抜け殻になったかのようだった。


「違うよ、リリア」


 私は必死に言葉を紡ぐ。


「これは誰のせいでもない。ただの……」


 言葉が途切れる。「偶然」と言おうとしたが、それが適切な言葉ではないことは分かっていた。

 目の前で起きている現象は、偶然では片付けられないほど壮大で複雑だ。


「でも、アヤカ」


 リリアが顔を上げる。

 その目には深い絶望の色が浮かんでいた。


「マーカス長老が言ったでしょう。私が消えたことで、世界のバランスが崩れたって」


 その言葉に、私は一瞬言葉を失う。

 確かに、科学的に考えればこの現象を説明するのは難しい。

 いや、不可能かもしれない。

 でも……。


「リリア、聞いて」


 私は彼女の両肩をしっかりと掴んだ。


「確かに、君がいなくなったことが引き金になったのかもしれない。でも、それは君の責任じゃない」


 リリアは首を横に振ろうとしたが、私はそれを許さなかった。


「考えてみて。君は自分の意志で消えたわけじゃない。魔法の暴走で、偶然に別の世界に飛ばされただけだ。それを君の責任だなんて、誰が言えるの?」


 私の言葉に、リリアの目に少しだけ光が戻った気がした。


「でも……」

「それに」


 私は続けた。


「もし君に責任があるなら、私にだってある。テクノマジックの実験を提案したのは私だし、その結果として時空の亀裂が開いたんだから」


 リリアは驚いたように私を見た。


「アヤカ……」

「だから、もし誰かを責めるなら、私たち二人を責めるべきだよ。いや、そもそも誰かを責める必要なんてない」


 私は深く息を吐いた。


「大切なのは、これからどうするかってこと」


 その言葉に、リリアの表情が少し和らいだ。


「どうする……って?」

「そうだよ」


 私は立ち上がり、リリアに手を差し伸べた。


「私たちは、この危機を回避する方法を見つけなきゃいけない」


 リリアは躊躇いがちに私の手を取り、立ち上がった。


「でも、どうやって? こんな大変な状況を……」

「分からない」


 私は正直に答えた。


「でも、一緒なら何か方法が見つかるはずだよ」


 リリアの目に、少しずつ希望の光が戻ってきているのが分かった。


「アヤカ……」

「ねえ、リリア」


 私は真剣な表情で彼女を見つめた。


「マーカス長老が言っていたことを覚えてる? テクノマジックなら、この危機を乗り越えられるかもしれないって」


 リリアは小さく頷いた。


「うん……」

「じゃあ、そこから始めよう」


 私は力強く言った。


「テクノマジックの力を使って、この状況を打開する方法を考えるんだ」

「でも、虚空議会が……」

「彼らのことは後で考えよう」


 私は言った。


「今は、世界を救うことに集中しないと」


 リリアはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。

 その目には、弱々しいながらも決意の色が浮かんでいた。


「分かったわ、アヤカ。一緒に……考えましょう」


 その言葉に、私は安堵の息をついた。

 リリアが立ち直ってくれて本当に良かった。

 彼女の力がなければ、この危機を乗り越えることは不可能だろう。


「よし」


 私は頷いた。


「じゃあ、まずは……」


 その時、突然地面が大きく揺れ始めた。

 空を見上げると、さらに大きな亀裂が開き、日本とアルカディアの風景が混ざり合っていく。


「まずい……」


 私は呟いた。


「時間があまりない」


 リリアも不安そうに空を見上げていた。


「アヤカ、急がないと」

「そうだね」


 私は頷いた。


「でも、慌てちゃダメ。冷静に考えよう」


 リリアは深呼吸をして、少し落ち着いた様子を見せた。


「そうね……じゃあ、テクノマジックについて、今私たちが分かっていることから整理してみましょう」


 私は嬉しくなった。

 リリアが前向きに考え始めてくれた。

 これなら、きっと何か方法が見つかるはず。


「そうだね。じゃあ、まず……」


 私たちは、崩壊していく二つの世界の狭間で、必死に解決策を模索し始めた。

 時間との戦いだ。

 でも、二人で力を合わせれば、きっと道は開けるはず。


 そう信じて、私たちは頭を寄せ合い、テクノマジックの可能性について語り合い始めた。

 世界の運命は、私たちの手に委ねられている。

 この責任を、しっかりと受け止めなければ。

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