てくの☆まじっく〜女子高生アヤカと魔法使いリリア〜

烏丸

第1話 試験の日、私の運命

 朝日が魔法学園の尖塔に差し込み、その光が私の瞳に反射した瞬間、胸の鼓動が激しくなるのを感じた。

 今日という日を、私はどれほど待ち望み、そして恐れていたことだろう。

 魔法評議会主催の重要な試験——この試験の結果次第で、私の運命が大きく変わることになる。


「おはよう、リリア。今日が来ちゃったね」


 後ろから聞こえてきた声に振り返ると、友達が笑顔で手を振っていた。

 その明るい表情の裏に、彼女なりの緊張が隠されているのが分かる。


「ええ、ついにね」


 私は微笑み返したが、自分の声が少し震えているのに気づいた。


 私たちは肩を寄せ合いながら、大講堂へと向かった。

 廊下の両側には、歴代の偉大な魔法使いたちの肖像画が飾られている。

 彼らの鋭い眼差しに見つめられているような気がして、背筋が凍るのを感じた。


 講堂に入ると、すでに大勢の受験者たちが集まっていた。

 みんな、私と同じように緊張した面持ちだ。

 ここにいる全員が、アルカディア中から選ばれた優秀な若手魔法使いたち。

 その中でも頭角を現し、魔法評議会への道を歩むことができるのは、ほんの一握りだけ。


 私は深呼吸をして、自分を落ち着かせようとした。


「リリア、あなたなら大丈夫よ」


 友達が私の手を握り、励ましてくれた。

 彼女の手のぬくもりが、少し私の緊張を和らげてくれる。


「ありがとう」


 私たちは席に着いた。

 講堂の天井には、複雑な魔法陣が浮かび上がっている。

 それは、私たちの世界の根幹を成す魔法エネルギー「マナ」の流れを可視化したものだ。


 マナ——それは感情と精神力を源とする不思議なエネルギー。

 幼い頃から、私はこのマナを操る才能があると言われ続けてきた。

 両親を事故で亡くした後、魔法評議会に引き取られたのも、その才能ゆえだった。


 しかし、才能があるということは、時として重荷にもなる。

 周囲の期待に応えなければならないというプレッシャーは、時に私を苦しめた。

 そして、その苦しみが私のマナの制御を乱すことも少なくなかった。


 講堂の空気が、突然ピンと張り詰めた。

 魔法評議会の長老たちが入場してきたのだ。

 彼らの纏う威厳ある雰囲気に、受験者全員が息を呑む。


 長老たちの中に、私の後見人であるマーカス長老の姿を見つけた。

 彼と目が合うと、かすかに頷いてくれた。

 その仕草に少し勇気づけられる。


 長老たちが壇上に立ち、試験官が前に進み出た。


「諸君、本日の試験の意義を理解しているだろうか」


 試験官の声が、魔法で増幅されて講堂中に響き渡る。


「この試験に合格した者だけが、魔法評議会への道を歩む資格を得る。つまり、アルカディアの未来を担う者となるのだ」


 その言葉に、私は身を震わせた。

 アルカディアの未来——それは、魔法使いと一般市民の間にある大きな溝を埋めることでもある。


 私たち魔法使いは、マナを操る能力によって特別な存在とされている。

 しかし、その特別さゆえに、一般市民との間に軋轢が生まれているのも事実だ。

 魔法評議会を頂点とする階級社会の中で、一般市民たちの不満は日に日に大きくなっている。


「しかし、覚えておくがいい。力には責任が伴う」


 試験官の言葉が続く。


「諸君らが目指すべきは、自身の栄達ではない。アルカディア全体の繁栄と安寧だ。魔法使いも一般市民も、共に幸せに暮らせる世界を作ることが、我々の使命なのだ」


 その言葉に、私は強く頷いた。

 そう、これこそが私の夢。

 魔法の力で、すべての人々を幸せにしたい。

 そのために、この試験に合格し、魔法評議会の一員とならなければ。

 試験官が杖を掲げると、天井の魔法陣が明滅し始めた。

 私は深く息を吸い込み、全身に力を込めた。


「諸君の課題は——」


 試験官の声が響く中、私は自分の中に眠るマナの力に意識を向けた。

 両親から受け継いだこの才能、そして魔法評議会での厳しい訓練で磨いてきた技術。

 すべてを出し切ってみせる。


 私の指先から、かすかに光が漏れ始めた。

 それは私の決意の現れ、マナが私の感情に呼応している証だ。


 友達が私に向かってこっそりと親指を立てた。

 私も微笑み返す。


 さあ、いよいよ試験が始まる——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る