夜明けの鎖

嗚呼烏

影の残響

過去の愚行が、脳に跡を残す。

そして、痛みを残す。

自分の部屋も、出ないなら牢獄に見える。

シーリングライトは、嘘くさい光を放つ。

光があるのに、暗い。

でも、この部屋は迷い箸を注意されない。

口喧しい人が滞在しない。

だから、素晴らしい場所なのだ。

だが、牢獄に見えること。

いや、牢獄であることは変わらない。

素晴らしい場所であっても、最も良い場所ではない。

そんなことは分かっている。

最も良い空間が牢獄なんて、有り得ない。

あたりまえだ。

鯖の味噌煮の濃い味が、ただただ身に染みる。

部屋の前に置かれた飯に、舌鼓を打つことでしか幸福を得られない。

二次元の銃を操る娯楽も、もう見飽きた。

最近はスマートフォンに構ってばっかだ。

液晶に、視線を照りつける。

どこからも通知がきていない。

来るはずのない通知を欲して、指を無意味に動かすという愚行に出る。

体調が悪く、背中に鈍さを感じる。

それでも、指は止まることを知らない。

俺の指がメールのアプリを開く。

色んな人の名前が連なっている。

なんてことは、残念ながら現実ではない。

少ない名前の中のひとつの名前を見て、背中からため息が出る。

夢奈むな……」

見たくない筈なのに、夢奈の名前に指をつける。

なんで、今日も学校に来なかったの。

もしかして、私に会いたくなくなったかな。

ねえ。

返信して。

お願い。

私は君が大好き。

ただ心配なだけなの。

おい。

すぐに、メールのアプリを閉じた。

こんな無計画なことをしたのも、久しぶりだ。

通知は百件以上も溜まっていた。

見るだけで今みたいに、だめになるっていうのに。

「あ、あ。あ……」

発作が、緊張感を飲ませる。

吐き気はないが、身体の中で何かが踊り狂う感覚がする。

その時、手に振動が渡る。

スマートフォンの振動だろう。

なんの通知でも、気を紛らわせることができるだけで嬉しい。

藁にもすがる思いで、通知を押した。

柚音ゆのんだよ。今日の体調はどうかな?」

少し、勘づいてはいた。

どうせ、こいつだろうと。

いつもは喧しく感じる柚音だが、今日は話してほしい。

「夢奈のメールを見てしまった。発作もして、気持ち悪い。」

いつもは、返信できる時にあしらうだけ。

だが、今日はすぐに返信をした。

無に帰すと、心臓の音が異常であるという意識ができる。

「そうか。おやすみ。」

話を断ち切られてしまった。

柚音はもっと、執拗に話す人だと思っていた。

目論見が外れて、感情が身体を荒らす。

むしろ、睡魔さえも身体に滲む。

「ここで寝たら、嫌な記憶を明日に残す。」

これは魔力があると言っても、過言ではない。

いつの間にか、数学のプリントに手を伸ばしていた。

大嫌いだった、あの数学に。

俺はもう、高校生。

なのに、プリントは解の公式の範囲。

「ニーエーブンノマイナスビールートビーノニジョウマイナスヨンエーシー…… 呪文かよ。」

解答のプリントに書かれた公式に、反吐が出る。

問題のプリントなんか、とっくのとうにゴミ箱に捨てた。

俺は勉強なんかしている暇がないほど、毎日が辛いんだ。

俺こそ、生活保護を貰うべき人間だ。

苦しい人間が救われないわけがない。

そして、そんな世界が許されるわけがない。

人生はどうせ、どうにかなる。

こんな思考は、世間的に悪いことなんだろう。

でも、今はそれを言い訳に休ませてほしい。

こんなことになっている理由を聞きたいかな。

俺は夢奈を溺愛している。なのに、夢奈とは馬が合わないみたいだ。

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