奴は……トドや

よるめく

プロローグ

 大体現在、あるところに。


 対藤堂桜花特化型殺戮極道集団トドオカぶっころヤクザしゅうがおりました。


「全員……揃うたか? 拳銃チャカ重機関銃じゅうき携行型手榴弾ミサイルランチャー! みんな持ったか!?」


照須デスのオジキ、ヒロの奴がまだ来とりません!」


「なぁ―――にぃ――――――!?」


 照須デスと呼ばれたヤクザリーダーは、報告した部下を二度見した。


 重機使い、“驚愕おどろき”のヒロ。このヤクザたちの主戦力!


「アホな! どこ行ったねんあいつ!?」


「それが……なんやドイツから新しい重機仕入れた言うとりまして……あとなんか肝っ玉タマ潰したるとかなんとか……」


「ふざけおってあいつ! ええい……」


 照須デスは目の前のアルミサッシ扉を見やった。


 藤堂桜花と書かれたプレートがくっつけられた簡素なドアだ。この向こうにいる奴を殺すために、いくらかけたと思っているのか。


 待つべきか、否か。照須は悩んだ。


 この向こうにいるのは怪物だ。たったひとりでプロ極道2000人に匹敵するとされる一匹狼。多くの組を単騎で潰してきた怪物。通称、“跳梁跋扈ジャンプ”のトドである。戦力はひとりでも多い方がいい。


 だが……時間じかん抗争カチコミ警察サツ組長オヤジ。それはヤクザを待ってはくれない。


「しゃーない……このまま突入するで。全員、間取りは把握しとるな!?」


「「「押忍!」」」


「よし、ええか。入ると同時にいてもうたれや。出し惜しみは無し。アイツは今週、ジャンプが書籍でもオンラインでも休刊して弱体化しとる。今ならイケるはずや! 対“跳梁跋扈ジャンプ”のトドに特化したこの面子なら! タマったれやァ!」


「「「押忍ッ!」」」


「行くで、突撃ィィィィィィィ!」


 照須デスが扉を蹴り開けた。


 雪崩れ込んだヤクザは左右に散会しながら手にした銃器をぶっ放す。


 十畳ほどの部屋に轟く銃声。マズルフラッシュが室内を昼よりも明るく照らし出し、銃弾がカスの嘘を吹き込んでくるお姉さんのフィギュア、カスの創作論を語るお姉さんの本、ラーメンズルズルASMRを流していたモニターを粉砕していく。


 野郎どもの鬨の声が連なる中、銃器はすべてを破壊し尽くす。逃げ場のない面制圧射撃が止まる頃には、“跳梁跋扈ジャンプ”のトドと言えど血煙と化す。そのはずであった。


 だが。


「……なんや?」


 銃身が焼け付くまで弾丸を打ち尽くした照須デスは訝る。


 室内は既に更地のような状態だ。だが、おかしい。掃射を受けた奥の壁には弾痕がひとつも残っていない上、窓ガラスも割れていない。


 加えて、壁際に置かれたデスクも無傷である。その上に浮かび上がった週刊少年ジャンプ(先週号)もだ。謎めいた白いオーラをまとっている!


「なんや、朝っぱらから騒々しいのォ」


 先週号の裏から顔を出したのは、トドに似た顔をした筋骨隆々の男。


 彼こそが、ヤクザが精鋭を選りすぐってまで殺そうとしたターゲット、“跳梁跋扈ジャンプ”のトドだ。


「人の部屋でガチャガチャガチャガチャ。まるで最終回間近の漫画やないか。出し時の無くなった設定やら、過去の敵やらなんやらが出てきてやかましいわ」


 革張りのソファから立ち上がるトド。


 照須デス第極道感ヤクザかんが悲鳴を上げた。


副装備サブを抜けえ! 跳ぶ暇を与え―――」


 照須が言い終わる前にトドは動いた。


 跳弾。そうとしか形容できない。滅茶苦茶にされた事務所内の壁、床、天井を目にも止まらぬ速さで跳ねまわりながら、トドは次々と極道の首を刎ねていく。


「う、うおああああああああああ!」


 パニックを起こした極道があちこちに乱射するが当たらない。


 トドは常人の1010倍の速度で極道の頭部を粉砕した。気付けば照須以外が全滅している!


「チィッ!」


 照須は舌打ちしながら事務所の中央に転がり込んで目を凝らす。


 化け物め。体幹、足腰、資金力。あらゆる方面に精通した極道を集めた対藤堂桜花特化型殺戮極道集団トドオカぶっころヤクザしゅうがこんなあっさりと。


 ―――だがお前はここで終わりや。お前を殺すんはこの照須デスや!


 彼が何故、対藤堂桜花特化型殺戮極道集団トドオカぶっころヤクザしゅうのリーダーとして選ばれたのか。それは他の極道よりも図抜けた動体視力と反射神経によるものだ。


 “跳梁跋扈ジャンプ”のトド。事務所内を跳ね回りヤクザを殺しまわった男。別に極道でもないのに極道扱いされた結果、ヤクザを殺す力を手にしたヤクザの天敵。それに一対一サシで対抗しうるのが彼。唯一生き残ったのがその証拠!


 ―――そしてお前の動きは既に見切った! そのけったいな頭ブチ抜いたる!


「そこやあああああああああああッ!」


 照須はバッと振り返り、発砲。トドの脳天をぶち抜いた……はずだった。


 そこにあったのはトドみたいな頭ではない。謎のオーラをまとった先週号のジャンプである!


「ジャンプ……やと? 表紙がなんやこの新連載……」


「なんもおもろない漫画やで」


 すぐ真後ろから声がして、照須は振り返った。


 しかし、発砲は叶わない。トドオーラをまとった拳が迫って来ていた。


「この……クソボケがァ――――――――ッ!」


 無慈悲な鉄拳が照須の顔面に撃ち抜き、浮遊したままのジャンプとサンドイッチした。


 トドオーラをまとった物体は鋼の5億倍の強度を誇る。


 顔面偏差値が著しく下がった照須はその場に崩れ落ちる。その死体に構わず、トドは浮きっぱなしのジャンプをつかんだ。


「話題になった作家だの、新進気鋭の作家だの……そんなんにつられて読んでみてもおもろいもんはそうそうあらへん。やれド級のリトライやなんや言うてミームができるならええねん。それすらできずに消えていく漫画がなんぼあることか。一話の時点でダレたり、なんや薄味だったり……例え多少ウケてもラッパーのブリンバンバンに全部持っていかれたり、劣化版パロディやらかしたりする始末や。息の長い漫画は長すぎて終わってから批評なんてこともできん。いつ終わるんやハンターハンター」


 ぶつぶつと文句を呟きながら、彼はジャンプを巻末からめくっていく。


 その時だった。外から世界の終わりの如き駆動音と破砕音が響き渡ってきた。


 大地が揺さぶられている。地震か? 否。


 トドは窓から顔を出した。巨大な影が、ビルの群れを踏み潰しながら迫ってきている。


 あまりにデカい掘削用ホイール。あまりにデカい本体。破壊のあとが散らばる大地を突き進む12本の無限軌道。


 その日、人類は思い出した。ギネス世界記録を叩き出した最大の重機を。男心をくすぐるロマンを。


「バゲットホイールエクスカベーターや……! しかも、あの方向は……!」


 トドが窓に足を引っかける。その姿をコックピットからズームするヤクザこそ、対藤堂桜花特化型殺戮極道集団トドオカぶっころヤクザしゅう最後のひとり、人呼んで“驚愕おどろき”のヒロ!


「ヒャッハッハッハッハッハ! どうやトド、驚いたようやなァ! このバゲットホイールエクスカベーターの力、ドイツからわざわざ密輸した神の重機にィ!」


 バゲットホイールエクスカベーターの通り道では逃げ遅れた人や逃げられないビルが次々と掘削粉砕されていく。駆動音がうるさすぎて聞こえないが、人々は悲鳴を上げているに違いない。


 ヒロは性的絶頂に達した。彼は重機で公園の遊具を破壊して子供を泣かせ、喜び勇んでラジオ体操に来た老人どもを引き潰すことにこの上ない愉悦を感じるタイプなのだ。


 だが彼がバゲットホイールエクスカベーターを輸入したのはそれだけが理由ではない。


「聞いたでぇ、“跳梁跋扈ジャンプ”のトド。事務所内を飛び回るんやって。つまりお前は閉所でしか戦えんのや! 閉所ごと潰したればなんの問題もない! 街ごと潰して逃げ場失くして死ねやァァァァァァァ!」


 バゲットホイールエクスカベーターがその巨大なバゲットホイールを振り上げ、狙いをトド事務所の入った雑居ビルと周囲に固定。


 トドは両足で窓枠を踏み、力を込めている。窓から飛び降りて逃げるつもりか? そうはさせない。


 バゲットホイールエクスカベーターのバゲットホイールがエクスカベートした。振り下ろされた鉄塊が周囲もろとも雑居ビルを叩き潰す。


 ヒロはエクスタシーを感じた。これで彼にはバゲットホイールエクスカベーターとその他もろもろが手に入る。人生をやり直せるのだ。


 ヒャアアアアア、と勝利の奇声を上げるヒロ。だがその瞬間、コックピットがぶち破られた。ドリルのように回転しながらトドが飛び込んできたのだ。


 ヒロは理解が遅れて凍り付く。トドは逃げてなどいなかった。


 その卓越した跳躍力で音速を超え、両手を鋭くすぼめて前に伸ばし、螺旋状に回転する。かくして、さながら弾丸のように飛翔したトドは、ヒロの胸倉を捕まえた。


「この……クソボケがァ――――――――ッ!」


 トドオーラをまとったアッパーカットがヒロの顎を撃ち抜き、バゲットホイールエクスカベーターのコックピットの天井を突き破って打ち上げる。


 トドは直上に吹き飛んだヒロを追ってバゲットホイールエクスカベーターの外に飛び出す。レインボーなブリッジを思わせる上部に出ると、そこには顎を袖で拭ったヒロが既に着地していた。


 トドオーラを込めた拳で倒しきれない。人間を超越した強さだ。訝るトドを前に、ヒロは不敵に笑った。


「驚いとるな……“跳梁跋扈ジャンプ”のトド。俺も驚かされたわ。まさかここまでバケモンだったとはな……」


「お前、先に攻め込んで来たクソボケどもとは違うようやな。何者や?」


「へへへへへ、へはははははははは!」


 ヒロは笑いながら背広を脱ぎ捨てる。その下にあったのはニンジャ装束。


 トドはそれですべてを察した。


「なるほどな、サプライズニンジャ理論の使い手やったか」


「せや! 重機に頼るだけが能やない……俺の本質はニンジャのカラテや!」


 “驚”・“愕”と書かれたメンポを顔につけたヒロが身構える。


 それを見たトドはポケットに手を突っ込み、中に収めていたものを宙に放った。


「5メガネ!!」


 トドオーラをまとった5つの眼鏡が10本のレーザーを繰り出した。


 カクカクと起動を変えながら襲い掛かるトドオーラビームを、ヒロは華麗なバック転で回避していく。


 相手が距離を取る隙に、トドはオーラをまとった拳を前に突き出す。トドオーラパンチキャノンだ! ヒロは開脚して深く頭を下げてこれもかわした。


 拳のオーラはヒロの頭上を越えていき、遠くのビル群に直撃して凄まじい規模の爆発を起こした。


「おほっ! 怖いわぁ。こんなパワーまで持っとんのか。これで一般人は無理やろ」


「一般人や。ワイは極道でも怪異でもない……」


 トドは肩をいからせながら、さらに眼鏡を5個放る。全身にみなぎるオーラを眼鏡に分け与えるその姿、まさに怒れる鬼神の如し。


「せやけど、お前を殺すことぐらいはできるで。お前は生かしておけん……このバゲットホイールエクスカベーター、ジャンプ編集部のビルがある方から来たやろ!」


 振り向けば、無惨な更地が這い痕のように残っているのが目に映る。


 何故その向こうにジャンプ編集部のビルがあるとわかるのか? それはあの事務所に入居したとき、トドは真っ先に方角を確かめ、ジャンプ編集部に足を向けて寝ないようにしていたからだ。


 だがそのジャンプ編集部も無事では済むまい。


「来週のジャンプ、なんだかんだ言って楽しみにしておった……抽選でカス嘘お姉さんのASMRが高音質で聞ける枕が当たるかもしれへんかったからな。けどもおどれのせいでおじゃんや! その罪、万死に値する!」


 トドがそう言って前を向く。しかしそこには側転しながら突っ込んでくるヒロの姿が!


「ヒアアアアアアア!」


 側転から踵落としを、トドは右腕で受け止める。


 トドオーラをまとえばダメージはさほどでもない一般人の蹴り。しかしヒロは一般人ではない。トドオーラをまとった腕がへし折れた。


 奇妙な手ごたえを感じながら、トドは腕を振ってヒロを振り払った。


 ヒロは華麗に着地したが、その膝がピクリと動く。


 トドは折れた腕に眼鏡を巻きつけて添え木としながら、妙な感覚に思いを馳せた。パワー以上にかなりしなやかな足だった。そして先の見事なバク転。


 閃く。トドは指を鳴らした。


「お前……体操のお兄さん上がりのヤクザ忍者か!」


「!? なぜ、それを……!」


 ヒロは痛む足を庇いながら立ち上がる。


 そう、彼は元体操のお兄さん。明るい笑顔とプロテインでお茶の間の子供たちをムキムキマッチョでスマイリーな男にするのが喜びだった。


 しかしある日、彼は小学生とのムエタイで敗北。足をサイボーグ化し、コンクリート鉄柱で補強した邪道ムエタイ小学生によって膝を砕かれてしまったのだ。


 彼の体操のお兄さん人生は断たれ、プロテインに溺れた。


 好きだったイチゴ牛乳ウォッカ割り味も、タージマハルカレー味になるほどに。


 以来彼は子供も体操も嫌いになって、重機を乗り回して公園を破壊するアンチラジオ体操ガチ勢となってしまったのである。


 ―――だがその人生もここで終わりや! 俺はトドを殺し、足をガンダムに……!


 決意とともに身構え直したヒロを前に、トドは少し考え込んだ。


 やがて彼は顔を上げ、トドオーラでバスケットボールを作り上げる。


 ヒロは冷や汗を垂らす。拳大で半径数キロを吹き飛ばすトドオーラ。あれほどの力をバスケットボール大になるまで固めまくれば、その威力はブラジルはリオのカーニバルをも滅ぼすだろう。


「勝負や。ワイは今からコイツを放る。お前が先に取ったら勝ちや」


「正気か……? そんなん、セックスせんと出られん部屋に核兵器置いとくようなもんやで! お互い犬死にや!」


「せや、お前は殺す。お前は自分ひとりで死ぬか、ワイと死ぬか選べばええ」


 トドの言葉は酷薄だった。ジャンプ編集部の仇を許すことはできないからだ。


 ヒロはごくりとつばを飲み込む。時間が急にゆっくりになり、自分の心拍すらよく聞こえるようになった。


 一体何を考えている。こちらにチャンスを与えるなど。


 疑問を抱く暇もあればこそ。トドはゆっくりとした手つきでオーラを高く投げる。それが頂点に達すると同時、ふたりは跳んだ。


 ズキン、とヒロの古傷が痛む。だが手は届く。あのオーラに触れさせず、空に放って不発に終わらせ、懐に仕込んだプロテインを口に突っ込んでやれば。


 ―――俺の……勝利や! 元体操のお兄さんで現忍者を舐めたらアカンで!


 彼は今日までのことを思い出す。ある日、いつものように体操老婆を蹂躙していた時、ちょうどヤクザの地上げとバッティングしてしまったことを。


 重機の扱いを気に入られ、次世代ヤクザ研究所で忍者にしてもらい、とりあえず歩けるようにもなった。それでも足は完治しなかった。彼はプロテインを心臓に直接注入しなければ生きていけなくなったというのに。


 ここでトドを殺せば、きゅうり一本で義足を作ってもらえるという。必ず殺す。そしてキッズたちをマッチョなヤクザ怪人に……。


 手が届く。じれったいほどゆっくりとオーラの塊に近づいていく。


 勝てる。そう思った瞬間、ヒロは築いた。


 ―――あれ? これもしかして……走馬灯……。


 ヒロの目の前でボールが取られた。トドだ。


 何故。堕落体操のお兄さんとはいえ、脚力で負けるはずはない。その疑問を感じ取って、トドは応えた。


「ワイは……“跳梁跋扈ジャンプ”のトドや」


 オーラがトドの握り拳に纏わりつく。ヒロはそこでようやく気付いた。


 奴は自爆する気も勝負する気もなかった。ヒロが最も絶望する方法でジャンプ編集部の仇を討つつもりだったのだ、と。


 トドオーラの宿った腕を振りかぶる。やってくるのは、あの鉄拳!


「クソボケがァ――――――――ッ!」


 ダンクシュートされたかのようにヒロが叩き落とされた。


 バゲットホイールエクスカベーターのバゲットホイールを支える部分が衝撃でV字に折れ曲がる。


 仁王立ちで降り立ったトドは、足元のヒロを見下ろした。


「今ので死なんとは。やっぱり強いんやな、お前。体操のお兄さんとして培った肉体に救われたっちゅーことか」


「カハッ、ガハッ……!」


 ヒロは返事もできず咳き込んでいる。照須デスの頭をパンケーキにした拳を喰らって、なお顔面は原型を留めている。体操のお兄さん筋力が為せる形状記憶能力のたまものだ。


「そないな体操のお兄さん力があって、なんで来ないなことしてんねん。サカモトデイズでもギリやらんぞ」


「お前に……わかるわけないやろ……。鉄筋コンクリート足ムエタイとかいうわけわからん競技で体操のお兄さん人生のすべてを奪われた……俺の気持ちなんて」


「わからんな。ワイは4脚アセン派や。火炎放射器付きのやつ」


「ゲテモノめ……!」


 ヒロは吐き捨てると、震える手でニンジャ装束の前を開いた。


 裏地に仕込まれたものを見て、トドはたじろぐ。それは……。


「プロテイン……やと?」


 無数の最新式プロテインシェーカーが、全自動で振動しながらプロテインをチューブ経由でヒロの心臓に送り込んでいる。ヒロは血を吐きながら大笑いした。


「もうお前には勝たれへん……俺の夢は断たれた……ならお望み通り、心中してやろうやないか!」


 プロテインがシェークをやめた。これにより残ったプロテインはダマになり、最終的に大爆発を引き起こす。それもただのプロテインではない、違法な爆発性のプロテインをモンゴル薬物で強化したモンゴリアンデスプロテインだ!


 まずい。トドは内心で焦り散らかした。恐らく威力は超新星爆発に比肩する。これが起爆すればジャンプ編集部再建の目は無くなってしまうだろう。


 ヒロは壊れたように笑っている。悩んでいる時間はない。トドはヒロをつかみ、両足にありったけのトドオーラを充填させた。


「この……クソボケがァ――――――――ッ!」


 バゲットホイールエクスカベーターが粉砕するほどのパワーで跳躍し、彼はたちまち大気圏を突破する。


 太陽を超え、太陽系を飛び出し、銀河系の外へ。


 そして、プロテインシェーカーが起爆する。


 その日、もう一個の太陽が産み落とされた。

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