しゃばい一日

@parliament9

しゃばい一日

神奈川県蒸籠市

告別学園神奈川県西部第三分校

普通科二年D-3組


月乃光姫(つきのみき)

星見莉心(ほしみりこ)



「無限に可愛くありたいね」



突拍子もないその言葉にケラケラケラとお腹の底から笑う。

やっぱり光姫は、月乃光姫は最高だ。無限のかわいさってなにさと思うが、だからこそ面白い。


さらさらたなびくブロンドも、きらきらすべすべな肌も、くっきりぱっちりした目元も唇も何もかも綺麗で可愛くてとてもとても美しい。

他の女の子には感じないけれど光姫とならそうしたことをしてもいいと思えるほど性格も見た目も何もかも、何もかも魅力的だ。


浜辺でとなりに座る、彼女の左耳へとそっと目を移す。

そこに吊り下がる光り輝く月のピアスを確認して、私はいつものようにささやかな自尊心を満たした。


ありふれた黒髪で、我ながら地味な顔立ちの私は何事もそれなりで自慢できることがない。


唯一の誇りは彼女との親友のような関係性。


その関係性は言葉だけではなく、自分の右耳に吊り下がる、彼女の月と対になる星のピアスによってささやかなその強度を、保証をもたらしているように思うのだ。


二つのピアスは高いものではないけれど、1年ほど前に出店で一緒に買ったものになる。

不思議と手入れをしなくとも、いつまでも新品のようにキラキラと耀いている。まるで私たちのようにだなんて、思うだけで口に出す勇気はないけれどそれほどまでに二つのピアスは眩しい。


「ねえ莉心はさ、星見莉心さんは無限とは言わなくてもいつまでも可愛くいたいなって思ったことはない?」


抱え込んだ膝に頬をつけるようにして光希がにんまりと笑いかける。水平線の向こうに沈む夕陽が刺して、オレンジ色に染まるその新たな表情にドキッとさせられる。

何で急に本名呼びなのさとケラケラ突っ込みを入れながら、どぎまぎしていることを悟られないように答えた。


「えっとうん、それはまあ思う。これから先大人になるにつれて可愛いよりも綺麗が求められるようになるかもしれないけれど、私は可愛くいたいなぁ」


答えながら少し馬鹿っぽいかな?と思ったけど、ネットもテレビもアニメもいつまでもヒロインは女子高生が華で、いい年した大人でも大人女子などともてはやされていることを踏まえるにいつまでも可愛くありたいという願望はそれほど不自然ではない気もする。


「だよね。やっぱりそうだよね。綺麗よりも可愛いだよね。さすが莉心さんはわかってるですなぁ」


んみぃ〜っとした顔で光姫がたっぷりと喜んでくれるのが見て取れ、嬉しくなる。


「いつまでも可愛くいたいね。ずっとずっと、おばさんになってもおばあさんになってもね」


おばあさんになった光姫なんて想像もつかないけれど、きっときっと可愛いはずだ…なんて考えたところでふと閃いた。


きっと、光姫に限ってはいつだってきっと最高に可愛い。少なくとも私の中では、彼女がいくつになっても、最高に可愛いはずなのだ。


これから先も、彼女は私の中の可愛さの最高到達点を更新し続けることになる。

私が一緒にいる限り、常に光姫は過去の可愛さを越え続けることになる。


つまりはそれはそれこそは。


「ああ、無限に可愛いということなのかも」


ぼそっと言葉が漏れる。


気づけば波打ち際ではしゃいでいた光姫が私の言葉に反応して振り向く。夕陽の逆光の中で、月のピアスが煌めいた。


同じ夕陽の光を受けて星のピアスもまた、それに応じるように煌めくことになる。


当たり前のことなのだけれども何故だかそれが嬉しい。曇ることのない不思議なピアスのように、私もまた光姫と変わらずにいられたらいいなと思った。


光姫のささやかなその願いを、そばで密かに叶え続けてあげられるように。

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